第43話 限界
【シーン①:数値】
扉は閉めたままだった。
外の音は、ほとんど届かない。
足音も、声も、意識しなければ拾えない。
机の上に、手を置く。
思考は、整理されている。
――戻せるはずだ。
条件は分かっている。
手順も分かっている。
構成も、すべて記憶している。
ならば、同じ結果になるはずだ。
右手を上げる。
幻影魔法。
「……ミラージュ」
霧が広がる。
光が重なる。
複数の魔法を同時に発現させる。
構成は複雑だ。
だが、組める。
目の前に、自分が立つ。
輪郭は明瞭。
遅延もない。
成立している。
次の瞬間、吐き気が来た。
視界が揺れる。
足が支えを失う。
幻影が歪む。
維持できない。
崩れる。
霧が散り、光が途切れる。
消えた。
その場に、レオンだけが残る。
床に手をつく。
立てない。
息が浅い。
胸が締め付けられる。
構成は間違っていない。
精度も落ちていない。
成立はする。
だが――持たない。
維持できない。
再現できない。
あの頃と、同じようには。
昨日の数値が浮かぶ。
三年前に魔力測定室に忍び込んでライト・マクシメルで計測した値を基準値として、昨日算出した。
同じ詠唱だ。
一回あたりの消費は変わっていない。
精度も、制御も、狂っていない。
ただ、上限が違った。
――最大:約十三。
かつての値が重なる。
四十。
一般人平均は二十。一般科平均で三十。十三は、その下だ。
数字にするまでもなかった。
だが、数字にしたことで、逃げ場が消えた。
半分以下。
いや、三分の一程度。
同じ魔法。
同じ手順。
同じ条件。
結果だけが違う。
レオンは視線を落とした。
何もない床。
距離の問題ではない。
そこに、もう無い。
言葉は、自然に出た。
「……戻らない」
小さく。
それだけだった。
――保留、できない。
答えは、すでに出ている。
レオンは動かなかった。
どこにも、向かえなかった。
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