↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
喪失編
45/111

第41話 喪失

【シーン①:実家】

 雪解け水が、軒先から細く滴っていた。

 一定の間隔で落ち、石畳に小さな音を立てる。

 

 春が来ている。

 空気はまだ冷たい。

 しかし、冬のそれではない。

 硬さが抜け、どこか緩んでいる。

 

 

 レオンは窓辺に座り、その様子を眺めていた。

 

 変化は理解できる。

 理由も説明できる。

 だが――

 

 それ以上の意味はない。

 

 

 立ち上がる。

 

 足取りに問題はない。

 ふらつきもない。

 肉体に違和感は一つもなかった。

 

 ただ、軽い。

 

 体がではない。

 体の奥が。

 

 

 部屋の中央に立つ。

 右手を上げる。

 思考は必要ない。

 

「……ライト・ループ10」


 光が生まれる。

 一つ、二つ、三つ……九度の明滅。

 

 力が、抜けている。

 込めたはずのものが、そのまま外へ逃げる。

 

 流れが細い。

 蛇口をひねる。

 水は出る。

 ただ、水圧が足りない。水量が足りない。

 それと同じだった。

 

 成立している。

 だが、弱い。

 

 

 最後の光が灯り、維持しようと、魔力を込める。

 

 揺れる。

 維持しようと意識を乗せるほど、歪みが増える。

 

 

 数秒。

 それだけで、崩れた。

 

 光が散る。

 

 同時に、内側が抜けた。

 

 眩暈がする。

 足元がわずかに不安定になる。

 

 急激に器の底に近づいた証。

 

――最大出力でもなく。

 たった、これだけで。

 以前なら、この程度の魔法は何回でも繰り返せた。

 

 

 レオンは動かなかった。

 魔法の光は、すでに陽の光に溶けていた。

 

「……制御はできる」

 それだけは確かだ。

 

 精度も落ちていない。

 設計はできる。分岐も組める。条件も積める。

 

 問題はその先だ。

 実行に移す度に分かる。

 

――持たない。


 途中で崩れる。

 器の中が、空になる。

 制御する対象が、消える。

 

――魔法を成り立たせているのは、魔力。


 あの言葉が、今になって答え合わせをしてくる。

 

 制御は、形を整えるだけだ。

 

 形を整える前に、燃料が尽きる。

 計算が、先に答えを出す。

 

 試す意味がない。

――ならば。

 答えが、出なかった。

 

 いくら考えても答えはでない。

 先に、進まない。

 

 残るのは、それだけだった。

 

 

【シーン②:外】

「レオン!」

 扉が開く。

 クララが顔を出した。

 

「外、行こ」

 短い言葉だった。

 強引さはない。

 ただ、逃がさないような距離。

 

 

 連れて行かれた先は、教会学校だった。

 

 石造りの建物は、春の湿気を吸って色を濃くしている。

 扉の隙間から、子供たちの声が漏れていた。

 

「クララお姉ちゃん!」

 中に入ると、子供たちが駆け寄る。

 クララがしゃがみ込み、目線を合わせる。

 

「ちゃんとやってる?」

「やってる!」

「うそだなー」

 軽い笑い声。

 空気が柔らかい。

 

 レオンは少し離れた壁際に立った。

 声は聞こえる。

 内容も理解できる。

 しかし、そこに入る理由はない。

 

 

「これ、できるようになった!」

 一人の子供が手を上げる。

 小さな光が、指先に灯る。

 不安定ではあるが、形にはなっている。

 すぐに消えた。

 

「すごいねぇ」

 クララが笑う。

「ちゃんと練習したんだね」

 頭を軽く撫でる。

 子供は嬉しそうに笑った。

 

「もっと大きくしたい!」

「そうだね。でも――」

 クララは少しだけ言葉を区切る。

 

「魔法がなくても、できることはいっぱいある」

 慰めではない。

 事実だ。

 だから、重い。

 

 子供は首を傾げる。

「ご飯作ったり、物運んだり、誰か助けたり」

「でも、魔法のほうがすごいじゃん」

 即答だった。

 クララは少しだけ困ったように笑う。

 

「すごいけど、それだけじゃないって話」

 会話は続く。

 理解は浅い。

 それでいい。

 

 

 レオンはそのやり取りを見ていた。

 子供の魔法は、不安定だ。

 それでも成立している。

 それで、評価される。

 

 それでいいとされる。

 

 魔法がなくてもできること。

――自分になにができるのか。

 

 レオンは視線を外した。

 外に出る。

 

 子供たちの声が背後に残る。

 風が吹く。

 まだ冷たい。

 

 

 街をぶらつく。

 

 クララはしきりにいろいろな話をする。

 入力として処理していた。

 

 視界の端に、風が走った。

 誰かが魔法の風を吹かせたのだろう。

 梢にかかっていた洗濯物が飛び、それを追う足音が遠ざかる。

 

 煙突から煙が上がっている家がある。

 炊事をしているのだろう。

 煙の元、かまどの炎も、おそらく魔法で着けられている。

 

 

 この世界は魔法に満ちている。

 誰もが魔法を使え、生活の中で役立てている。

 魔力の大きいものは、小さいものを助け、護るために。

 

 レオンも、ほんの数カ月前までは護る側だった。

 いまは、クララに護られている。

 マルタや、父母に護られている。

 魔力を失うということは、そういうことだった。

 護れない。助けられない。並べない。

 できることの輪郭が、急激に狭くなっている。

 

 

 レオンは立ち止まった。

 

 クララが不安そうに下からのぞき込む。

 

 そういえば、レオンはいつの間にかクララより背が高くなっていた。

 教会学校で机を並べていたころは、わずかにクララの方が大きかった。

 学院へ入学した頃もそれほど身長の違いを感じたことはなかった。

 

 自嘲が、こぼれた。

――身体は大きくなっているのに、中身が減るなんてな。


「大丈夫?」

 本気で心配している。

 

「ああ」

「そう、じゃあ、帰ろうか」


 クララは何も聞かない。

 聞かないようにしている。

 

 それがわかる。

 

 分かった上で、レオンは何も言わない。

 

 言えば、何かが壊れる予感がした。

 だから、黙る。

 何が壊れるのか。

 それも、分からなかった。



 クララに引かれるように、レオンはまた歩き出した。

 傾いた陽が、長い影を前に伸ばしていた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、

★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!


【お知らせ】

本作は【全100話+α】【完結保証】でお届けしております。

各編の節目には、YouTubeにて『予告動画』を公開中!

X(旧Twitter)にて更新情報や裏話をポストしています。ぜひ覗いてみてください。

カクヨムでも同時連載中です。

・YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@%E7%AB%9C%E5%B1%8B-k4b

・公式X:@zvE50nNsR925795

・カクヨム:kakuyomu.jp/users/_ta_2_ya_

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。