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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
4/17

第4話 ほのかな光

【シーン①:未知の声】

 月明りが淡い影を落とした部屋は、静まり返っていた。

 

 先程の声を、レオンは心の中で反芻する。

 思わず体がこわばった。

 周りを見渡すが、誰もいない。

 声は頭の内側に直接響いてくる。

 

 昼間、何度やっても何も起きなかった。

 クララは一度で光を出した。

 マルタは「焦らず」と言った。

 だが焦りではない。

 理由がわからないことが、どうにも引っかかっていた。

 

――これは、なんだ。

 

 

「……だれ……?」

 

≪私は、あなたの思考に応答するプログラムです≫

 

 

 平坦で、感情のない声だった。

 けれど、確かに自分の問いに応えている。

 

「……プログラム……なにをする……?」

 

≪あなたの問いに応答します。ただし、回答の精度は質問の明確さに依存します≫

 

 

 プログラムという単語に、懐かしさを感じる。

 それはそれとして、要するに聞き方次第だということか。

 

 不思議な存在だと思った。

 怒らない。

 慰めない。

 ただ問いに答えるだけ。

 それなのに、話しかけることに違和感がない。

 むしろ、こちらの言葉を正確に受け取ってくれる分だけ、話しやすかった。

 

 レオンは少し考えてから、声を出した。

「……らいと……つかいたい……なにがちがう?」

 

≪魔法の詠唱に必要な発音が正確ではありません≫

 

 短く、平坦な返答。感情はない。

 失敗の原因だけを返してくる。

「……どこが……?」

 

≪詠唱全体が平坦に崩れています。正確な音の高さと区切りが必要です≫

 

 つまり、発音の問題だ。

 マルタも同じことを言っていた気がする。

 だが今日は、理由まで返ってきた。

「……おとの、たかさ……?」

 

≪はい。詠唱は音の高低と区切りで意味が変わります。平坦に発音すると、魔力への作用が弱くなります≫

 

 思っていたより、具体的な説明だった。

 音の高低が魔力に影響する。

 ならば、どこをどう変えればいいのか。

「……はじめから、もう一度やる……どこがわるい……おしえてくれる?」

 

≪了解です。詠唱の音声を監視し、問題点を随時返答します≫

 

 評価も励ましもない。

 それでも、この簡潔さが妙に落ち着いた。

 感情のない相手だからこそ、余計なものが混じらない。

 レオンは机の前に座り直し、手を膝の上に置く。

 息を整える。

 舌先と口の形を、頭の中で確認する。

 

 

【シーン②:はじめての光】

「……らいと……」

 音はまだ曖昧で、途切れ途切れだ。

 脳裏に、赤い文字がちらつく。

 言葉ではない。

 それでも、どこかが崩れているという感覚だけが、直接流れ込んでくる。

 マルタの発音を思い出す。

 音の高さ、響き、舌の動かし方。

 一つずつ確かめながら、もう一度。

 

「……らい……と……」

 まだ赤い。

 

「……ら……いと……」

 まだ。

 

 繰り返す。

 ずれる。

 直す。

 また繰り返す。

 

≪音の高さが不足しています。区切りのタイミングも確認してください≫

 

 具体的だった。

 感想ではなく、直すべき場所だけが返ってくる。

 

 何度目かで、ふと手を止めた。

 同じことを繰り返しているだけで、本当に変わっているのかわからなくなってきた。

 だが、やめる理由もない。

 

 赤い文字はまだそこにある。

 それが消えるまで、続けるだけだ。

 肩の力を抜く。

 今度は音の高さだけを意識して、もう一度。

 

「……らい……と……」

 手元の空気が、わずかに変わった気がした。

 手応えは微かだが、確かにある。

 

――何かが、動いた。

 

 

 深く息を吸う。

 今度は舌先を意識して、声の高さと響きを丁寧に揃える。

 

「……ライト……」

 

 言葉が、空気に溶けていく。

 次の瞬間、何かが動いた。

 声ではない。もっと内側の、どこにあるかも知らなかった場所から、何かがじわりと滲み出してくる感覚。

 引っ張られるように、ではない。

 言葉に呼ばれて、応えるように。

 それが指先へ流れ、掌の上に集まっていく。

 熱くも冷たくもない。

 ただ確かに、そこにある。

 机の上に、淡い光がふわりと浮かんだ。

 

――できた。

 

 

 思考が、一瞬止まる。

 揺れている。

 消えない。

 月明かりとは違う、自分の声で生み出した光が、部屋をやわらかく包んでいる。

 赤い文字は消えていた。

 光だけが、そこにある。

 

 手を伸ばしてみる。

 触れようとすると、光はわずかに揺れたが、消えなかった。

 ただそこにあり続ける。

 自分が生み出したものが、確かに存在している。

 

 胸の奥から何かがこみ上げてくる。

 うまく名前がつけられない。

 喜びとも、驚きとも、少し違う。

 ただ、この光を自分が生み出したという事実だけが、じわじわと染み込んでくる。

 

 しばらく、声が出なかった。

 光を見つめたまま、何も考えられなかった。

 ただ揺れているだけの小さな光が、なぜかひどく大きなものに見えた。

 やがて、小さく息を吐く。

 

「……できた」

 声にしたら、また少し、実感が増した。

 光は揺れている。

 部屋の隅まで、やわらかく届いている。

 

――これで、あってるよな?

 

≪はい、成功しています≫

 

 それだけだった。

 称賛もなく、感想もなく、ただ事実だけが返ってくる。

 それでも今は、それで十分だった。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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