第34話 対抗戦・前編
【シーン①:冬の都】
冬の都は、王都とはまるで別の顔をしていた。
石造りの建物が立ち並ぶ、寒々しい王都ヴァルデンブルクに対して、白い漆喰の壁が並び、柔らかな風に乗って潮の匂いがする。
十月だというのに、道行く人はコートを着ていない。
それだけで、妙な違和感があった。
「同じ国とは思えませんね……」
隣を歩くマルセルが、小さくつぶやく。
「冬の間だけ遷都する理由は分かる」
レオンは短く答えた。
環境の差は、生活そのものを変える。
寒い世界に何カ月も閉じ込められるよりは、暖かく開放的な世界の方が健全だ。
政治機能を移すだけの価値はある。
だが、それだけではない。
視線を上げる。
遠くに見えるのは、冬都校の建物だ。
王都校よりも新しく、構造も洗練されているように見える。
――文化が違う。
荘厳で伝統的な王都から離れて、新しい文化や考えを取り入れてゆく懐の広さも狙いだろう。
建国から数百年の安定を誇る王国の、柔軟性を垣間見たような気になる。
「魔法戦のリハーサルに呼ばれているんでしたよね」
「レポートのための取材だ」
「今年も、ですか」
レオンは答えない。
つまらない学生の研究発表を見て回るよりは、有意義だ。
魔法戦の会場となる剣技場は雨天にも耐えられるように、ドームとなっていた。
円形の客席がぐるりと囲み、天井には大型の魔導灯が吊るされている。
すでに練習は始まっていた。
クラウディアの指示のもと、的確な動きを見せるレギュラーメンバー。
対して、練習相手となる三学年を主体としたチームは明らかに動きが悪い。
「詠唱も指示も甘いな」
適当な席に座りながら、レオンがつぶやく。
目線は練習から離さない。
魔法戦のフォーメーションは、前衛を務めるアタッカー、アタッカーをサポートするバックアッパー、大将であり指示役のコマンダーで構成される。
基本戦術としては、アタッカーが攪乱や牽制しつつ相手のアタッカーやバックアッパーを撃破して、数的有利を作る。
ひとりでも落とされると、パワーバランスは大きく崩れ、そこからの逆転は難しい。
練習試合は、レギュラー組が練習相手のアタッカーを落として、詰めに入ろうとしていた。
レギュラー組のアタッカーが障害物から障害物へ飛び渡ろうとした。
その着地。
足場が壊れた。
轟音と共に転がり落ちる。
なすすべもなく地面にたたきつけられた生徒の顔が苦悶にゆがむ。
その場に、関係者が駆け集まる。
レオンも腰を上げた。
その視界の端に誰かが映る。
その方向を向いたときには、その影はない。
ただ、どこかでみた影だった。
【シーン②:控室】
控室に運び込まれた怪我人は、骨折と診断された。
回復魔法は、本来の回復力を高める効果のため、固定を要する骨折には即座に効かない。
「すみません、明日が本番だというのに」
クラウディアは微笑んで応え、回復に専念するように伝える。
「明日のメンバーを考えないとね」
予備のメンバーを見渡す。
だが、だれも目を合わせない。
そもそも、上級科の生徒は絶対数が少ない。
予備メンバーは先程の練習メンバーも含めて、すべて三学年だ。
王女の二連覇がかかった大事な試合で、急なメンバー交代。しかも、矢面に立つアタッカー役。
荷は重い。
クラウディアは軽くため息をついて、控室の奥にいたレオンを見る。
「レオン、あなた、出なさい」
「は?」
全員がレオンを見た。
「しかし、クラウディア様、あいつは一般科です。
技術と魔力は認めますが、いくらなんでも」
「では、あなたが立候補するのね?」
「いや、それは……」
出しかけた一歩がすぐに下げられる。
「大丈夫、わたしが保証します」
クラウディアがレオンを部屋の隅に手招きする。
耳打ちする。
「あの魔法のこと、秘密にしてあげるから、手伝いなさい」
ため息。
「……貸し、二つ目ですよ」
クラウディアは笑った。
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