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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
33/111

インターミッション マルセル

【シーン①:祭の後】

 競技場の熱気が引いた後も、対抗戦は終わらない。

 撤収作業が残っている。

 

 

 マルセルは荷運びに駆り出されていた。

 レオンの姿は、すでにない。

 

 こういうとき、マルセルはよく呼ばれる。

 まず、体格が目立ってしまう。

 そして、断れない。

 力仕事は得意ではないのに。

 

 

 猫背のマルセルは、下を向いたまま資材を抱えて歩く。

 一瞬足元に影が落ちる。

 

「危ない!」


 声に反応して振り向く。

 

 遅い。

 横に積み上げられていた荷が傾く。

 雪崩をうって崩れる荷物にマルセルは飲み込まれた。

 

「大丈夫か!」

 大勢が駆け寄る。

 倒れたマルセルは、幸い下敷きにはならなかったものの、足に衝撃が走る。

 鋭い痛み。

 資材の角が擦り、ズボンが破れ、皮膚が裂けていた。

 

 血が流れる。

「……あ……」

 どうしていいかわからず、座り込んだまま動けない。

 

 取り巻きをかき分けて、一人近づいてくる。

 

「じっとして」

 落ち着いた声だった。

 

 顔を上げる。

 美しい人だった。

 

 控えめながら制服を彩る装飾品から、上級科の女生徒とすぐにわかる。

 彼女は躊躇なく距離を詰め、マルセルの足元に膝をつく。

 鮮血がまだ止まらない足に手を添える。

 血に触れることを、気にしない。

 

 真剣なまなざし。

 

 詠唱が短く響く。

 回復魔法。

 

 回復魔法は損傷した組織の再生を促進する、身体操作魔法の延長だ。

 授業では習ったものの、マルセルは初めて体験する。

 女生徒は傷口をなぞるように、ゆっくりと手を動かす。

 痛みが引き、裂けていた皮膚が、閉じていく。

 

「これで大丈夫」

 女生徒はマルセルに微笑みかけた。

 

 それだけだった。

 

 柔らかな物腰で立ち上がり、去ってゆく。

 名も告げない。

 見返りも求めない。

 静寂が遠のいてゆくのをマルセルは感じた。

 

 動けなかった。

 自分の足を見る。

 もう傷はない。

 さっきまで血が流れていた場所が、何事もなかったように戻っている。

 

――それよりも。


 触れられた。

 治してくれた。

 当然のように。

 こんな自分に。

 

 胸の奥が、静かにざわつく。

 

 なにかはわからない。

 ただ、強く残る。

 

――これは、いったい。


 考えても、答えは出ない。

 なんとかひとつだけ、確かなことがあった。


――女神だ。


 その言葉だけが、迷いなく浮かんだ。

 遠くで作業の声が続いている。

 マルセルはその場に座り込んだまま、しばらく動かなかった。

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