インターミッション マルセル
【シーン①:祭の後】
競技場の熱気が引いた後も、対抗戦は終わらない。
撤収作業が残っている。
マルセルは荷運びに駆り出されていた。
レオンの姿は、すでにない。
こういうとき、マルセルはよく呼ばれる。
まず、体格が目立ってしまう。
そして、断れない。
力仕事は得意ではないのに。
猫背のマルセルは、下を向いたまま資材を抱えて歩く。
一瞬足元に影が落ちる。
「危ない!」
声に反応して振り向く。
遅い。
横に積み上げられていた荷が傾く。
雪崩をうって崩れる荷物にマルセルは飲み込まれた。
「大丈夫か!」
大勢が駆け寄る。
倒れたマルセルは、幸い下敷きにはならなかったものの、足に衝撃が走る。
鋭い痛み。
資材の角が擦り、ズボンが破れ、皮膚が裂けていた。
血が流れる。
「……あ……」
どうしていいかわからず、座り込んだまま動けない。
取り巻きをかき分けて、一人近づいてくる。
「じっとして」
落ち着いた声だった。
顔を上げる。
美しい人だった。
控えめながら制服を彩る装飾品から、上級科の女生徒とすぐにわかる。
彼女は躊躇なく距離を詰め、マルセルの足元に膝をつく。
鮮血がまだ止まらない足に手を添える。
血に触れることを、気にしない。
真剣なまなざし。
詠唱が短く響く。
回復魔法。
回復魔法は損傷した組織の再生を促進する、身体操作魔法の延長だ。
授業では習ったものの、マルセルは初めて体験する。
女生徒は傷口をなぞるように、ゆっくりと手を動かす。
痛みが引き、裂けていた皮膚が、閉じていく。
「これで大丈夫」
女生徒はマルセルに微笑みかけた。
それだけだった。
柔らかな物腰で立ち上がり、去ってゆく。
名も告げない。
見返りも求めない。
静寂が遠のいてゆくのをマルセルは感じた。
動けなかった。
自分の足を見る。
もう傷はない。
さっきまで血が流れていた場所が、何事もなかったように戻っている。
――それよりも。
触れられた。
治してくれた。
当然のように。
こんな自分に。
胸の奥が、静かにざわつく。
なにかはわからない。
ただ、強く残る。
――これは、いったい。
考えても、答えは出ない。
なんとかひとつだけ、確かなことがあった。
――女神だ。
その言葉だけが、迷いなく浮かんだ。
遠くで作業の声が続いている。
マルセルはその場に座り込んだまま、しばらく動かなかった。
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