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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
32/111

第30話 格

【シーン①:魔法戦】

 対抗戦の最終日、剣技場には朝から人が集まっていた。

 観客席はすでに埋まり、通路にも立ち見の列ができている。

 保護者の姿も多く、普段の授業とは明らかに空気が違う。

 

 今日は対抗戦の花形、魔法戦が行われる。

 競技場の中央には、石壁や岩塊が配置されている。

 遮蔽物としての配置だが、規則性はない。視界を遮り、動線を制限し、連携を試す構造になっている。

 

 三対三。

 

 魔法と剣技を併用し、相手の大将を討ち取れば勝利。

 単純だが、実際はそうならない。

 個の強さだけでは成立しない。

 配置、視界、詠唱のタイミング、魔力配分、すべてが噛み合って初めて機能する。

 

 

 開始前から歓声が上がっていた。

 揃いの布を頭に巻いた一団が、意味のない叫び声を上げながら跳ねている。

 熱狂というより、儀式のような空気だった。

 

 やがて、入場の合図が鳴り、王都校側の選手が現れる。

 その中央に、一人。

 格段に目を引く存在がいた。

 

「クラウディア様ぁぁぁ!!!」


 声援が一段、跳ね上がる。

 彼女は観客席に軽く手を振り、微笑を浮かべる。

 余裕があった。

 緊張の気配はない。

 

 レオンは視線を固定したまま、近くにいた一般科の生徒の肩を軽く叩く。

「……あれは誰だ」

 突然の問いに相手は一瞬戸惑った様子を見せた。

 だが、すぐに視線の先を追う。

 

「ああ……クラウディア様です。王様の第二子で……」

 言葉が少しだけ早くなる。

「実力も人気も、学院で一番って言われてます」

 それだけ言うと、早々に視線を外した。

 

 

 試合が始まる。

 

 開始と同時に、王都側は二人が左右に展開する。

 クラウディアは中央から一歩も動かない。

 視線だけで状況を追っている。

 

 そして、機が来た瞬間に、魔法を繰り出す。

 詠唱速度が速く、途切れない。

 味方の位置取りに合わせて、障害物の向こう側へ魔法が通る。

 見えていないはずの位置に、正確に届く。

 無駄がない。

 揺れもない。

 

 対戦相手は序盤から押し込まれている。

 

 対戦相手も冬都校の選抜メンバーなのだろうが、魔法の出力が明らかに違う。

 いや、王都校の他のメンバーと比べても、クラウディアの出力は抜きん出ていた。

 

 詠唱とは別に、クラウディアの指示が飛ぶ。

 短く、的確。

 味方も指示を信頼し、迷いがない。

 効果は明確だ。

 その連鎖が、戦場を支配していた。

 

 中盤、わずかな乱れが入る。

 

 一人が詠唱を違えた。

 発動すべき魔法が、発動しない。

 その瞬間、連携が崩れかける。

 

 相手が踏み込む。

 だが、崩れ切らない。

 

 クラウディアの詠唱が一段早い。

 ズレた間を上書きするように、流れが補正される。

 

 さらに、相手が出てきたところに、カウンターの魔法が炸裂する。

 劣勢に傾きかけた流れが、一気に持ち直す。

 押し返す。

 崩れかけた形は、むしろ誘導されていたようにも見えた。

 

 

 レオンは視線を外さなかった。

 

 完成している。

 個が強力だ。

 個だけでなく全体でも成立している。

 どこを切り出しても、同じ形にはならない。

 

 再現できない。いまは。

 それでも、理解しようとする。

 

 だが――面白い。

 

 

 終盤は一方的だった。

 対戦相手は対応しきれず、大将が討ち取られる。

 勝敗は決した。

 

 

 歓声が爆発する。

 剣技場が揺れる。

 

 マルセルは口を開いたまま、しばらく動かなかった。

「……すごい……」

 それしか出てこない。

 

 レオンは返さない。

 視線はまだ競技場に向いている。

 歓声に手を振り応えるクラウディアから、離れない。


――あそこまで。

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