第30話 格
【シーン①:魔法戦】
対抗戦の最終日、剣技場には朝から人が集まっていた。
観客席はすでに埋まり、通路にも立ち見の列ができている。
保護者の姿も多く、普段の授業とは明らかに空気が違う。
今日は対抗戦の花形、魔法戦が行われる。
競技場の中央には、石壁や岩塊が配置されている。
遮蔽物としての配置だが、規則性はない。視界を遮り、動線を制限し、連携を試す構造になっている。
三対三。
魔法と剣技を併用し、相手の大将を討ち取れば勝利。
単純だが、実際はそうならない。
個の強さだけでは成立しない。
配置、視界、詠唱のタイミング、魔力配分、すべてが噛み合って初めて機能する。
開始前から歓声が上がっていた。
揃いの布を頭に巻いた一団が、意味のない叫び声を上げながら跳ねている。
熱狂というより、儀式のような空気だった。
やがて、入場の合図が鳴り、王都校側の選手が現れる。
その中央に、一人。
格段に目を引く存在がいた。
「クラウディア様ぁぁぁ!!!」
声援が一段、跳ね上がる。
彼女は観客席に軽く手を振り、微笑を浮かべる。
余裕があった。
緊張の気配はない。
レオンは視線を固定したまま、近くにいた一般科の生徒の肩を軽く叩く。
「……あれは誰だ」
突然の問いに相手は一瞬戸惑った様子を見せた。
だが、すぐに視線の先を追う。
「ああ……クラウディア様です。王様の第二子で……」
言葉が少しだけ早くなる。
「実力も人気も、学院で一番って言われてます」
それだけ言うと、早々に視線を外した。
試合が始まる。
開始と同時に、王都側は二人が左右に展開する。
クラウディアは中央から一歩も動かない。
視線だけで状況を追っている。
そして、機が来た瞬間に、魔法を繰り出す。
詠唱速度が速く、途切れない。
味方の位置取りに合わせて、障害物の向こう側へ魔法が通る。
見えていないはずの位置に、正確に届く。
無駄がない。
揺れもない。
対戦相手は序盤から押し込まれている。
対戦相手も冬都校の選抜メンバーなのだろうが、魔法の出力が明らかに違う。
いや、王都校の他のメンバーと比べても、クラウディアの出力は抜きん出ていた。
詠唱とは別に、クラウディアの指示が飛ぶ。
短く、的確。
味方も指示を信頼し、迷いがない。
効果は明確だ。
その連鎖が、戦場を支配していた。
中盤、わずかな乱れが入る。
一人が詠唱を違えた。
発動すべき魔法が、発動しない。
その瞬間、連携が崩れかける。
相手が踏み込む。
だが、崩れ切らない。
クラウディアの詠唱が一段早い。
ズレた間を上書きするように、流れが補正される。
さらに、相手が出てきたところに、カウンターの魔法が炸裂する。
劣勢に傾きかけた流れが、一気に持ち直す。
押し返す。
崩れかけた形は、むしろ誘導されていたようにも見えた。
レオンは視線を外さなかった。
完成している。
個が強力だ。
個だけでなく全体でも成立している。
どこを切り出しても、同じ形にはならない。
再現できない。いまは。
それでも、理解しようとする。
だが――面白い。
終盤は一方的だった。
対戦相手は対応しきれず、大将が討ち取られる。
勝敗は決した。
歓声が爆発する。
剣技場が揺れる。
マルセルは口を開いたまま、しばらく動かなかった。
「……すごい……」
それしか出てこない。
レオンは返さない。
視線はまだ競技場に向いている。
歓声に手を振り応えるクラウディアから、離れない。
――あそこまで。
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