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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
30/111

第28話 魔道具

【シーン①:疑問】

 冬の休暇が終わり、学院に再び生徒たちが戻ってきた。

 二学年に進級し、講義の内容も一段階上のものへと移行する。

 

 

 本日の授業は魔道具の実習だった。

 教室ではなく、専用の実習室に案内される。

 室内は広く、中央には作業台が等間隔に配置されている。

 

 生徒は八人ずつ、五つの班に分けられていた。

 上級科と一般科が混ざる構成。


「本日から魔道具の実習を開始する」

 ヴォルフは簡潔に告げた。

「魔道具は高価だ。取り扱いには細心の注意を払え」

 言い終えて、レオンに視線を移す。

 計測装置事件のことを、まだ根に持っているようだ。

 

 

 各班に配布されたのは、小型の魔導灯だった。

 掌に収まる程度の筐体で、中央に透明な窓があり、その奥に淡い光を帯びた石が見える。

 

「魔道具は、魔石に蓄積された魔力を用いて魔法を持続させる装置だ」

 ヴォルフの説明が続く。

「内部には詠唱が刻まれている。起動時には該当する詠唱をなぞり、魔力を流し込むことで動作する」

 

 あらかじめ魔法が定義されている構造。

 術者はそれを再現するだけでよい。

「魔力量が多いほど起動は容易になる」

 

 まずは上級科の生徒に試すよう指示が飛ぶ。

 レオンの班の、上級科生が進み出る。

 魔導灯を手にし、短く詠唱すると、滑らかに、抵抗なく、光が灯る。

 起動後も滞りがない。安定している。

 傍らに立つ新人講師が、すかさず声をかける。

「さすが上級科ですね」

 

 次に、一般科の生徒が順に試す。

 詠唱自体は間違っていないが、魔力の流し方にばらつきがある。

 光は何度か明滅してから灯る。

 起動しても揺らぎがあり、ほどなく消える。

 新人講師は何も言わない。

 口出しをせず、次の一般科生に促す。

 

 

 意図は明確だった。

 上級科と一般科の差をみせる構図だ。

 

 レオンはその様子を横目に見ながら、自分の順番を待つ。

 視線は自然と魔石へ向いていた。

 

 小さな結晶体である魔石。

 しかし内部には、確かに魔力が存在している。

 構造としては単純で、魔力を蓄え、外部へ供給する媒体。

 魔力の結晶体だ。

 

 

 順番が回ってくる。

 魔導灯に手を添える。

 内部の構造を意識する。

 詠唱は固定されている。

 流すべき経路も定まっている。

 術者に求められるのは、構造への適合。

 

 詠唱をなぞる。

 魔力を流す。

 

 光は揺らぐことなく点灯した。

 最初からそこにあったかのような、自然な安定性。

 講師がわずかに視線を上げる。

 班のメンバーが、上級科生含め、感嘆する。

 

 レオンは特に反応を示さず、手を離す。

 起動は問題ない。

 構造を理解していれば再現できる範囲だった。

 むしろやり過ぎないことに、レオンは注意を向けていた。

 

 

 冬の休暇で故郷アイゼンヴァルトに戻った際に、父上に言われた。

「分を弁えろ」

 と。

 

 意識を切り替える。

 魔石。

 魔力の蓄積と出力。

 ヴォルフの説明では、原石の状態では出力が出ないとされている。

 詠唱を刻むことで効率が向上し、魔道具として成立する。

 理屈としては理解できる。

 しかし前提に違和感が残る。

 

 魔力を蓄え、外部へ供給するというシンプルな構造であれば、

 原石の状態で出力が出ない、ハズはない。

 

 出力が出ないことには何か理由がある。

 単に、出力できていないだけではないか。

 魔石の扱いに構造的な問題があるのか。

 詠唱を刻む以外の方法はないのか。

 

 視線が再び魔石へ向く。

 固定された詠唱。

 固定された挙動。

 安定している理由は明確だった。

 変化しないからだ。

 

 ならば、変化させた場合はどうなるか。

 思考はそこで止まる。

 

 発想はある。

 しかし形にならない。

 結論に至るには情報が足りない。

 

――実験したい。

 しかし、レオンはその思いを嚙み潰した。

 さすがに魔石は高額すぎる。

 この魔導灯も、馬車一台と等価と聞いた。

 

 

 授業はそのまま進行し、特に問題なく終了した。

 

 

【シーン②:マルセル】

 実習室を出た後、廊下を歩く。

 

 マルセルが隣に並ぶ。

 以前と比べて、歩幅がわずかに安定している。

 冬の帰省で何かあったのだろうと、レオンは考える。

 

「さっきの……すごかったです」

 声に以前ほどの震えはない。

「そうでもない」

 レオンは短く返す。

 結果として成立しただけで、特別な技術ではない。

 

 マルセルは少し考え込むように視線を落とした。

「魔道具って、便利ですよね」

「用途が限定されている分、扱いやすい」

 レオンは歩きながら答える。

「でも、用途が限定されている……てことは、ほかの用途に使えない、ってことだから、不便ともいえる……んですかね」

 言葉を探しながら続ける。

「なんていうか……、高い……ですからね。用途に応じて全部揃えるって、大変……ですよね。

 何でもできる魔道具とかできないんですかね」

 

 レオンは一瞬だけマルセルを見る。

 方向は近い。

 精度は低いが、着眼点は悪くない。

 

 

 マルセルは言葉を切り、わずかに間を置く。

「……と思うんですけど、考え方、合ってますか?」

 上目遣いでレオンを見る。

 判断を求める目だった。

 結論を出す役割を、自分ではなく他者に置いている。

 

 レオンはその視線を受け止め、短く答える。

「前提を疑うのは悪くない」

 一拍置く。

「できるかどうかは、その後で考えればいい」


 マルセルは小さく頷いた。

 表情に迷いは残っている。

 同時に答え合わせをして安堵しているような表情。

 レオンに合わせに来ている。

 自分の思考ではなく、レオンの反応を待っているようだった。

 

 

 廊下を進みながら、レオンは思考を巡らせる。

 

 考えることはたくさんある。

 まだ形にはならない。

 ただ、確かに何かが引っかかっている。

 確かめたい思いと現実の間で揺れる。


――「分を弁えろ」


 答えへの道も見えないまま、部屋に戻った。

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