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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
27/111

第25話 誤差の正体

最後までお読みいただきありがとうございます!

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【シーン①:検証】

 深夜の学院では、廊下に並ぶ魔導灯の半分が消灯し、昼間よりも深い闇の中にあった。

 足音は床に吸われるように消えていく。

 人の気配はなく、時間そのものが止まっているような静けさがあった。

 

 

 レオンは目的の部屋の前で立ち止まる。

 魔力測定室。

 昼間と変わらない扉が、今はただ閉ざされている。

 手をかけ、わずかな抵抗のあとに押し開くと、内部の空気がゆっくりと流れ出てきた。

 冷たい。乾いている。

 中央に据えられた測定装置は沈黙しているように見えたが、完全に止まっているわけではない。

 微細な振動が空気を震わせ、内部で何かが稼働していることを示している。

 

 レオンは一歩踏み込み、装置の前に立った。

 正規の手続きは踏んだ。使用許可は求めた。

 断られただけだ。

 

「学生が扱える装置ではない」


 それ以上の説明はなかった。

 ならば、扱ってみせる。

 

 必要な検証がある。

 

 

 装置の操作方法を解析する。

 完全ではないが、装置というものの構造は理解している。

 結界装置に触れたときと同じ要領で、解析し、断片を繋ぎ合わせていく。

 入力、出力、制御。

 順に確認する。

 

 いくつかの操作を試すと、装置は素直に反応を返した。

 想像していたほど複雑ではない。

 停止しているのではなく、常時稼働している系統に測定処理を割り込ませる構造だった。

 測定器というより、監視装置に近い。

 

 

 椅子に腰を下ろし、装置に身を預ける。

 まずは基準値。

 現在の状態を測定する。


  最大:40.16。

  現在:38.92。


 わずかに減っている。

 魔法を使った覚えはない。

 それでも差分は存在する。

 維持に伴う消費か、あるいはそれに類する何か。

 理由は想像できるが、今は追わない。

 目的は別にある。

 

 レオンは呼吸を整え、次の操作に移る。

「ライト・マクシメル」

 強い光が生まれ、消える。

 再度測定。

 

  現在:37.62。

  差分:1.3。

  

 この1.3が「ライト・マクシメル」の基準値だ。

 そのまま次に進む。

「ライト・マクシメル・ループ10」

 同一魔法を連続条件を付けて実行する。

 強い光が断続的に発生し、一定のリズムで消えていく。

 測定。


  現在:24.23。


 頭の中で計算する。

  理論値:1.3×10=13。

  実測値:13.39。

  差分:0.39。

  

 レオンは視線を数値に固定した。

 誤差。

 そう呼ぶことはできる。

 しかし、その一言で片付けるには大きすぎる。

 感覚的に許容していた範囲から明らかに外れていた。

 ループ回数を考慮しても、このズレは無視できない。

 

 念のため再計測するが、値は変わらない。

――意外と正確なのか。

 計測装置には揺らぎがあると思っていたが、この魔力計測器は優秀なようだ。


 レオンは別の魔法を選択した。

「ヴェント・トゥル・ヨワ」

 小さな風が発生し、すぐに消える。

 測定。

 

  現在:22.36。

  差分:1.87。

 

 基準値は1.87。

 続けて条件付き。

「ヴェント・トゥル・ヨワ・ループ10」

 測定。


  現在:3.10。

 

 計算する。

 

  理論値:1.87×10=18.7。

  実測値:19.26。

  差分:0.56。

 

 

 静かに息を吐く。

 結果は揃った。

 魔法の種類に依存しない。

 いずれも理論値より多く消費している。

 増減の揺らぎは見られず、すべて同じ方向に偏っている。

 

 誤差という言葉自体は間違っていない。

 理論値との差分という意味では、その通りだ。

 ただし、性質が違う。

 もし単なる誤差であれば、値は上下にばらつくはずだ。

 実測は一方向に揃っている。しかも、回数に応じて増加し、規模も近い。

 偶然では説明がつかない。

 

 思考はさらに回る。

 

 

【シーン②:発見】

 この誤差はランダムな揺らぎではない。

 発生条件があり、一定の方向に積み上がる。

 処理を追加するたびに、余分な消費が発生している。

 

 構造に起因する現象。

 条件を付与する。

 処理が増える。

 そこにコストが乗る。

 避けられない。

 

――オーバーヘッド。

 

 言葉がぴたりと嵌まる。

 その瞬間、これまで曖昧だった部分が一斉に繋がった。

 

 条件付き魔法のズレ。

 多重詠唱の不安定さ。

 ばらばらだった事象が、同じ構造の上に乗る。

 

「見えていなかっただけだ」

 吐き出すように言う。

 

 子供の頃からの違和感。

 ルーカスと共に戦った時もあった。

 分かっていたつもりだった。

 計算していたつもりだった。

 誤差として処理し、無視していた。

 切り捨てていい領域ではなかった。

 

 

 積み上がる。

 回数に応じて増える。

 やがて無視できなくなる。

 その先は、決まっている。

 

 破綻。

 

 思考が加速する。

 足りていなかった。理解が浅かった。見落としていた。

 それでも思考は止まらない。

 

 数値は正しい。

 理屈も通る。

 だからこそ。

 

――ずっと、見落としていた。

 

 自然に言葉が漏れた。

 危険という認識はない。

 恐怖もない。

 ただ純粋な興味だけが残る。

 

 立ち上がろうとする。

 力が入らない。

 膝が崩れ、床に手をつく。

 

「……まだ、あるはずだ」

 測定値はゼロではない。それでも身体は言うことを聞かない。

 ズレ。

 その認識だけが残る。

 

 視界が暗くなる。

 

 音が遠ざかる。

 

 

 意識が途切れた。

 

 

[Error: RuntimeException]

Cause: Stack corruption during conditional evaluation.

[Warning: ResourceDepletion]

Source: InternalStorage(100%)

Status: Total Drain (Current usage exceeds allocated estimate).

[Notice: UnexpectedVarianceDetected]

Status: Unresolved Process.


Initiating Emergency Shutdown of User Interface...

 

 

[System: Rebooting...]



 翌朝、魔力測定室で倒れていたレオンは、講師ヴォルフによって発見された。

 無断侵入、無断使用。

 処分は即日決定される。

 

 そして、入学二日目で懲罰を受けた初の生徒という、不名誉な記録が残った。

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