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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
26/111

第24話 魔術理論基礎

【シーン①:授業】

 大講堂は、思っていたよりも広い。

 全体としては扇状、立体的にはすり鉢状の空間。

 講壇を中心に階段状に座席が並び、およそ百人分の座席が配置されている。

 側面の上部に小さな窓が規則正しく並び、外光がわずかに差し込んでいる。

 室内を照らす主な光源は壁面の魔導灯だった。

 均一な明るさが保たれており、時間帯の感覚が薄い。

 

 最上段に、十人の生徒がまとまって座っていた。

 姿勢は崩れず、私語もない。

 視線は自然に下へ向けられているが、その在り方は観察というよりも俯瞰に近い。

 周囲に対して無理に関わる必要がない――そうした余裕が、そのまま空気として滲んでいる。

 王族や貴族で構成される上級科だ。

 

 下段に三十名ほどが散らばって座っている。

 席の間隔がやや空き、まとまりきらない印象がある。

 小声の会話、姿勢のばらつき、落ち着かない視線。

 階級を持たない者から選抜された一般科。

 同じ学生という枠で並べるには、差がはっきりしていた。

 

 学院において、上級科は支配層と戦力候補の育成を目的としている。

 一般科は魔法を社会基盤として運用する、実務層の育成が目的。

 表向きは同じ教育機関だが、目的が違う。

 その説明を聞いたとき、並べて座らせる理由を考えたが、レオンは答えが出てこなかった。

 

 

 レオンは端の席を選び、腰を下ろした。

 講壇と全体の配置が見渡せる位置だった。

 

 視線を巡らせると、最前列の端に見覚えのある姿があった。

 マルセルだ。

 長い手足を無理に折り畳むようにして座っている。

 縮こまった姿勢がかえって不自然で、端に寄ることで周囲との均衡を取っている。

 

 

 やがて、講壇の奥から男が現れた。

 測定の際に見た講師だった。

 足音はほとんど聞こえない。

 気づけばそこにいる、という距離感で歩む。

 

 講壇に立つと、場の空気が変わった。

 男の視線が、座席一帯をなぞる。

 ざわめきが削ぎ落とされ、静けさだけが残る。

 

「ハインリヒ・ヴォルフだ」

 重く響く声。

「魔法は言葉ではない」

 前置きはない。すでに講義は始まっている。

 

 

「詠唱は命令だ。構造として定義されている」

 黒板に、簡素な文字列が記される。

 レイディア・ライト・ヨワ。

「最も基本的な光源魔法だ」

「レイディアが属性。光を指定する。ライトが魔法の定義。ヨワが出力設定、最小値だ」

「詠唱が完了した時点で魔力が消費される。量は基本的に詠唱によって決定される」

「一部の魔法は術者の任意で出力を調整できる。もっとも、それも構造の範囲内だ」

 そこで言葉が切れる。

 

 レオンはその内容を、そのまま受け取った。

 既に理解している領域だった。

 幼年期の試行で得た知識から逸脱するものではない。

 それでも、新しい感覚があった。

 

 レイディア、ライト、ヨワ。

 単語ではなく、それぞれが明確な役割として提示されている。

 属性指定、機能定義、出力設定。

 分解できる。再構築もできる。

 関数に近い。入力が定まれば、出力も定まる。

 魔法がその枠組みの中に収まっている。

 

 

 講師の視線が動く。

 最前列で止まった。

「では、属性は他に何がある」

 指されたのはマルセルだった。

 

 身体が跳ねる。肩が上がり、視線が泳ぐ。

「……あ、あの……」

 言葉が出ない。口を開いては閉じる。その繰り返しで、音にならない。

 わずかな沈黙。

 後方から小さな笑いが漏れ、広がりかける。

 

 講師は動かない。ただ視線を向ける。

 それだけで、笑いは止まった。

「初回の授業だ。分からないのは当然だ」

 場が整う。

 マルセルは小さく頭を下げ、さらに身体を縮めて座り直した。

 レオンはその様子を見ていた。

 

 魔力量、八十。

 自分の倍。

 にもかかわらず、今の状態。

 基礎的な問いにすら答えられない。

 宝の持ち腐れ。

 もったいない、とも思う。

 これからの学生生活でどうなるか。

 気にはなるが、他人事でしかない。

 

 

「属性は六つ。

 火、水、土、風、生命、光」

 順に提示される。

 それぞれの特性についても触れられるが、深くは踏み込まない。

 基礎の確認に留まる。

 

 レオンにとっては既知の内容だった。

 しかし、ここでは体系として扱われている。

 個別の現象ではなく、共通のルールとして整理され、共有可能な形で提示されている。

 理解していたはずのものに、輪郭が与えられる。

 曖昧さが削ぎ落とされ、扱える対象へと変わっていく。

 

 

 講義が終わる。

 特に締めの言葉はない。

 講師が去り、生徒が動き出すことで終了の合図となる。

 

 ざわめきが戻る。

 受け取った情報を整理するための音へと変わっている。

 レオンは立ち上がらず、そのまま座り続けた。

 

 

――魔法は構造として存在している。


 分解できる。再構築できる。再現できる。

 解析可能だ。

 扱える領域にある。

 

――面白い。

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