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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
24/111

第22話 魔力量測定

【シーン①:学院内部】

 学院の門をくぐり、建物の中へ足を踏み入れた瞬間、空気が変わった。

 

 暗い。陽の光が遮られている。

 陽の光に代わって、壁に設置された魔導灯が静かに光を落としている。

 意図的に閉じられた空間だった。

 温度も、音も、外とは違った。

 

 

 足を進める。

 石の床は古びていた。

 長い年月を経たことが一目で分かる。

 だが、その表面には違和感があった。

 磨き上げられた光沢がない。

 

 にもかかわらず、塵や埃が見当たらない。

 角や隙間にも何もない。

 積もっている形跡すらない。

 拭き掃除ではこうはならない。

 削っているわけでもない。

 ではどうやって――

 

 考えかけたとき、廊下の先に、数人の生徒が並んでいるのを見つけた。

 年齢はレオンと同じくらい。

 姿勢は揃っていない。

 足の位置も、視線も落ち着かない。そわそわしている。

 緊張しているのが分かる。

 監督官と思われる大人に指示され、レオンは列の最後尾に並んだ。

 

 

――魔力量の検査っていってたっけな

 古い記憶から、身体計測というワードが浮かぶ。

 

 今日はやたらと記憶が揺り動かされる。

 新しい刺激が作用している。

 

 

 待機列に私語をする者はいない。

 校舎の中は、音がなかった。

 

 

【シーン②:魔力量測定】

 先頭の生徒が呼ばれ、扉の向こうへ消える。

 一人、また一人と並んだ順に進んでいく。

 やがて、レオンの番が来た。

 扉を開け、中へ入る。

 

 

 室内はさらに暗い。

 中央に、大型の魔導装置が据えられていた。

 椅子が一つ。その周囲を囲うように、円環を入り口だけ切ったような形の構造体が配置されている。

 金属とも石ともつかない質感。

 そこに刻まれた線が、かすかに光を帯びていた。

 

 測定の魔法装置。

 結界装置に雰囲気は似ている。

 もちろん中身は全く違う。

 

 

「座れ」

 短い指示。

 

 声の主に視線を向けると、男が立っていた。

 無駄のない立ち姿。視線が鋭い。

 一目で講師と分かる。

 

 言われた通り、椅子に座る。

 装置が作動する。

 低い振動音が響いた。

 

 耳に直接届くというより、骨に伝わるような音。

 トンボの羽音に似ているが、それよりも低く、重い。

 次の瞬間、違和感が走った。

 

 圧。

 

 全周囲から押し込まれるような感覚。

 体の芯、みぞおちの裏側へ向かって、何かが集められていく。

 それに対抗するように、体が勝手に反応した。

 無意識に、内側から押し返そうとする動きを感じる。

 

――反発している。

 

 風船を押しつぶそうとして、跳ね返されるような。

 本能的に抗うような。

 力を籠めたくなるが、筋力とは質が違う。

 抵抗する必要はない。

 そう判断し、余計な力を抜く。

 

 装置の光が一瞬強まり、すぐに消えた。

 振動が収まる。

 測定が終わったらしい。

 

「四十」

 講師が短く告げる。

 それだけだった。

 

 四十。

 数値として提示された。

 魔力が、数値で。

――数値化できるものなのか

 定量化。

 比較可能。

 検証可能。

 これまで曖昧に扱われていたものが、数値として扱える。

 

 だが――

 この数値が多いのか、少ないのか。

 どのように解釈すべきか?

 判断基準は?

 疑問が次々と湧きあがる。

 

「一般人平均の二倍だ。一般科でも上の方だな」

 講師が補足する。

 

 そう、なのか。

 突出ではなさそうだ。

 とはいえ、低くもない。

 その程度の位置。

 レオンはそう理解した。

 もう少し状況を聞きたい。

 

 そう思って、視線を上げる。

 講師と目が合った。

「カール・ライナーの息子だな」

 唐突だった。

 

 レオンはわずかに目を細める。

「……父をご存じで?」

「少しな」

 それ以上は続かない。

 沈黙。

 

 無駄に語らない。

 それだけで十分に伝わるものがあった。

 どこかで感じたことのある種類の圧だった。

 観察されている。

 評価されているのかどうかは分からない。

 だが、見られている。

 それだけは確かだった。

 

 レオンはそれ以上何も言わず、軽く一礼して部屋を出た。

 聞きそびれた。

 しかし、焦りはない。

 学校なのだから、機会を見つけて聞けばいい。

 そう割り切る。

 

 

 廊下に戻る。

 列はまだ残っている。

 すれ違いざまに見た別の生徒の顔は、強張っていた。

 気持ちは、分からなくもない。

 

 

【シーン③:寄宿舎】

 測定を終え、案内に従って寄宿舎へ向かう。

 

 学院の建物とは対照的だった。

 木造。

 光がよく入る構造。

 廊下は明るく、空気も軽い。

 閉じた空間ではない。

 生活の場として設計されている。

 

 

 番号を確認し、扉の前で立ち止まる。

 軽くノックする。

 返事がない。

 もう一度、叩く。

「……は、はい」

 か細い声が、遅れて返ってくる。

 

 扉を開ける。

 室内は思っていたよりも狭かった。

 ベッドが二つ。

 机が二つ。

 窓を挟んで、向かい合わせに配置されている。

 余計なものはない。

 合理的だが、余裕もない。

 

 先程の声の主を探す。

 見当たらない。

 

 気配はある。

 部屋の隅。物陰から、こちらを覗く影。

 目だけが見えた。

 

 すぐに引っ込む。

 また、わずかに覗く。

 警戒している。

 いや、怯えている。

 

 レオンはしばらくその様子を見ていた。

 出てくる気配はない。

 隠れたまま、こちらを窺っている。

 

 同室者。

 そのはずだ。

 

 だが――

 

 興味が湧く。


 レオンは視線を外し、自分の荷物を静かに置いた。

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