↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
魔術学院編
23/111

第21話 王都ヴァルデンブルク

【シーン①:宿】

 馬車が止まる。

 わずかに揺れが残り、それが収まったところで、外から御者の動く気配が伝わってきた。

 扉が開き、外気が流れ込む。



 レオンはゆっくりと馬車を降りる。

 石畳の感触が足裏に伝わる。

 視線を上げると、そこにはすでに“別の場所”が広がっていた。


 使用人が無言で動く。

 荷台から下ろされたのはトランクが一つだけだ。

 残りの荷はそのまま。寄宿舎へ直接運ばれる手筈になっている。

 マルタはすでに宿の入口へ向かっていた。

 扉の前で簡単に言葉を交わし、手配を進めている。

 

 

 レオンはその場に残り、周囲を見渡した。

 ここに至るまでの光景が、頭の中で自然と繋がる。

 

 五日間の旅路。

 この世界に来て初めての長期旅行は、交通手段を除けば、悪くなかった。

 故郷、城塞都市アイゼンヴァルトは良い街だ。

 それとは別に、通り過ぎた町や村は牧歌的で生活の輪郭がそのまま見えるような場所ばかりだった。

 だが――

 王都は別格だった。

 

 まずあの城壁。

 城塞都市のそれとは高さも厚みも比べ物にならない。

 積み上げられた石が、層になっていた。

 補強ではない。意図をもって重ねられている。

 侵入を防ぐためではなく、最初から“拒絶する”ための構造。

 拒絶の構造は検問も同様で、予定よりかなり遅れることとなった。

 

 

 気がつけば、空はすでに暮れかけている。

 

 灯りが点いた。

 

 道沿いに並ぶ魔導灯が、ほぼ同時に光を放つ。

 一つ、二つではない。

 通りの先まで、連続して。

 暗くなりきる前に、街全体が照らされていく。

 

 レオンはわずかに目を細めた。

 明るい。

 日が落ちたばかりとは言え、視界に不自由はない。

 そして、その光にはムラがなかった。

 等間隔に並び、光量に差がない。

 人の足元に落ちる影の角度まで揃っている。

 

――調整されている。

 

 そう判断する。

 制御された光景だった。

 一瞬だけ、遥か昔の記憶が揺れる。夜道。街灯。人工的な明るさ。

 しかし、ここで成立している体系は違う。

 同じではない。

 

 

「坊ちゃま」

 マルタの声に、意識を引き戻される。

「お部屋の準備が整いました」

 それだけを告げる、いつも通りの口調。

 レオンは小さく頷き、宿の中へ入った。

 

 宿の夕食は簡素だった。

 とはいえ、質は悪くない。味付けも安定している。

 特別なものはないが、必要なものは揃っている。

 

 食事を終え、部屋に戻る。

 しばらくして、マルタが訪れた。

「明日の予定についてご説明いたします」


 淡々とした声。

 内容も簡潔だった。

 起床時間。出発のタイミング。学院までの経路。寄宿舎での手続き。

 必要な情報だけを、順序立てて並べていく。

「学院へはお一人で向かっていただきます。荷物は別途、こちらで運搬いたします」

 無駄がない。

 いつも通りの報告だった。

 

 それから、ほんのわずかに間があって――

「……明日の朝、お別れになります」


 静かな一言。

 感情は抑えられているが、消えてはいない。

 レオンは短く息を吐いた。

「そうか」

 それだけ返す。

 特別な言葉は続かない。

 マルタもそれ以上は何も言わず、一礼して部屋を出ていく。

 

 

 扉が閉まる。

 静寂が戻る。

 レオンは窓際に歩み寄った。

 外には、王都の灯りが続いている。

 人の流れは途切れない。

 にもかかわらず、混乱はない。

 整っている。

 規模も、密度も、前提も。

 すべてが違う。

 

「……別物だな」

 小さく呟き、視線を外した。

 

 

【シーン②:学院へ】

 朝。

 準備はすでに整っていた。

 

 トランクはない。

 必要なものだけを手元に残し、あとは別で運ばれる。

 マルタが最後の確認を終える。

 表情は変わらない。

「それでは」

 一礼。

 

「いってらっしゃいませ」


 いつも通りの口調だった。

 

 レオンは軽く頷くだけで、歩き出す。

 振り返らない。

 

 

 そのまま通りへ出る。

 人が多い。

 それだけではない。

 流れている。

 歩く速度が揃っている。

 

 音も、服装すらもそうだった。

 騒がしいはずなのに、うるさくない。

 華美な装いではないが、乱れていない。汚れも少ない。

 

 役割も明確だった。

 商人は商人として動き、使用人は使用人として働き、衛兵は衛兵として立つ。

 個人ではなく、役割が動いている。

 

 すべてが整って見える。

 レオンは無意識にそれを観察していた。

 

 

 やがて、視界の先にそれが見える。

 王城。

 城壁とは異なる種類の圧がある。

 高さではない。

 存在そのものが、違う。

 街の中心にありながら、周囲を従えている。

 基準点。

 すべての前提になっている構造。

 

 その近くに、目的地があった。

 

 魔術学院。

 

 門の先には並木。そして尖塔が聳え立つ。

 人が流れるように吸い込まれていく。

 

 その光景を見たとき、不意に何かが引っかかった。

 

 記憶。

 

 曖昧だった。

 広い敷地。人の出入り。初日の空気。

 大学のキャンパス。

 そんな単語が浮かぶ。

 だが、細部は思い出せない。

 輪郭だけが残っている。

 

――ずいぶん前のことだ。


 記憶はすでに薄れ切っていた。

 

 

 門の前で立ち止まる。

 人の流れは途切れない。

 その中に、自分もいる。

 

「……ここで四年、過ごすのか」

 小さく呟く。

 少しだけ間を置いて、視線を前に向ける。

 未知の領域。

 

 レオンは一歩、踏み出した。

最後までお読みいただきありがとうございます!

もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、

★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!


【お知らせ】

本作は【全100話+α】【完結保証】でお届けしております。

各編の節目には、YouTubeにて『予告動画』を公開中!

X(旧Twitter)にて更新情報や裏話をポストしています。ぜひ覗いてみてください。

カクヨムでも同時連載中です。

・YouTubeチャンネル:https://www.youtube.com/@%E7%AB%9C%E5%B1%8B-k4b

・公式X:@zvE50nNsR925795

・カクヨム:kakuyomu.jp/users/_ta_2_ya_


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。