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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
21/111

第20話 崩壊の閾

【シーン①:臨界】

 茂みの中に満ちていた熱が、まだ抜けきっていない。

 焦げた臭いが鼻腔に張りつき、焼けた土と血の匂いが混ざり合う。

 息を吸うたびに喉の奥をざらつかせる。

 足元には崩れた死体と、抉れた地面。

 戦闘の余韻はそこかしこに残っている。

 にもかかわらず、対峙している一体の存在だけが、それらすべてを押し潰すように空間を支配していた。

 

 ジェネラル。

 それは動いていない。

 ただ、無造作に立っているだけだ。

 だがその静止が、周囲の空気を歪める。

 

 呼吸をするたびに、胸の奥で何かが引っかかる。

 レオンは喉の奥に溜まった熱を押し込むように息を吐いた。

 

 魔力の流れが、妙に鈍い。

 回路のどこかで詰まっているような違和感がある。

 流そうとしても流れない。

 組み上げたはずの構成が、微妙に噛み合わない。

 理由は分からない。

 だが、確実に何かがずれている。

 それでも止まるわけにはいかなかった。

 

 隣で、ルーカスが低く息を吐く。

 肩が上下しているが、その視線は一切逸れていない。

 恐怖はあるはずだ。

 それでも前に出ることを選んでいる。

 その背中に迷いはない。

 ここで止まれば、終わる。

 レオンは歯を食いしばり、意識を一点に集中させた。

 

 

「フラムボルト・マルペーレ」

 言葉が紡がれると同時に、空気が焼けた。

 巨大な炎の塊が、拡散せずジェネラルの顔面へとまとわりつくように絡みついた。

 ジェネラルの巨体が、わずかに仰け反った。

 

 体勢が崩れる。

 焼けた皮膚の臭いが強くなる。

 効いている。

 その手応えが、確かにあった。

 

 勝てるかもしれない、という感覚が、ほんのわずかだけ浮かび上がる。

 その隙を、ルーカスが逃すはずがなかった。

 

 ルーカスの目が、ギラリと光った。

 地を蹴る音が鋭く響く。

 低い姿勢から一気に踏み込み、間合いを詰める。

 狙いは首元。

 全体重を乗せたひと突きで決めにいく動きだ。

 迷いがない。

 

 信頼しているからこそ、全力で踏み込める。

 だが、その瞬間だった。

 ジェネラルの腕が動いた。

 

 まとわりついていた炎を、力任せに振り払う。

 焼け焦げた皮膚を剥ぎ取るような動き。

 痛覚など無視した、ただの力による突破。

 

 炎が弾け飛び、空中で霧散する。

 

 そのまま、棍棒が振り下ろされる。

 速度が、異常だった。

 

 ルーカスは咄嗟に剣を構え、受け流そうとする。

 真正面で受ければ砕かれる。

 軌道を逸らし、力を逃がす選択。

 

 だが、間に合わない。

 衝撃が伝わった瞬間、乾いた音が響いた。

 剣が、折れる。

 刃が耐えきれず、根元から砕け散る。

 

「――っ!」

 ルーカスの身体が弾かれるように後退する。

 直撃は避けた。

 それでも衝撃の余波だけで腕が跳ね、体勢が崩れる。

 

 レオンはすぐに次の詠唱へ移ろうとした。

 急激な脱力感が襲う。

 喉が引きつる。

 音が途切れる。組み上げたはずの詠唱が、途中で崩れる。

 頭ではわかっているのに、発音が追いつかない。

 

 一気に引き抜かれるような感覚。

 底が抜けたように、内部が空になる。

 あわせて体全体の感覚が鈍ってゆく。

 力が……、魔力が入らない。

 

 

 おかしい。

 さっきまで、計算は合っていたはずだ。

 負荷も見積もっていた。

 ループの回数も、条件設定も、破綻しない範囲で組んでいたはずなのに。

 何かが、足りない。

 何かが、多い。

 ただ、この空になる感覚には覚えがある。

 

 まさか――魔力が足らない?

 

 そんなはずは――。

 

 思考が追いつかない。

 

 

 ルーカスが折れた剣を捨て、距離を取りながら回避に専念する。

 武器を失っても、動きは止まらない。

 低く、速く、致命を避けるための動きに切り替えている。

 

 だが、その足運びにわずかな乱れがあった。

 踏み込みのリズムが、ほんの一拍だけずれる。

 

 疲労。

 積み重なった消耗。

 それが、ここで顔を出す。

 

 足が、滑る。

 ほんのわずかなズレ。

 それだけで十分だった。

 ジェネラルの棍棒が、横薙ぎに振られる。

 

 直撃。

 

 鈍い音が空気を叩く。

 ルーカスの身体が宙を舞い、後方の木へと叩きつけられる。

 幹が軋み、葉が揺れる。

 落下した身体は動かない。

 

「ルーカス!」

 レオンは叫び、魔法を発動しようとする。

 だが、詠唱が成立しない。

 舌がもつれる。音が崩れる。構成が途中で解ける。

 

 視界が狭まる。

 呼吸が浅くなる。

 身体が、言うことを聞かない。

 

 

 ジェネラルがゆっくりと歩き出す。

 狙いは、レオン。

 巨大な影が近づいてくる。

 足音が重い。

 地面が沈む。

 

 動け。

 動け。

 命令しても、身体が応じない。

 

 視線だけが、必死にルーカスを探す。

 木の根元。

 倒れている。

 わずかに、動いた。

 咳き込む音。

 次の瞬間、血が吐き出される。

 赤い。

 鮮やかな赤が、地面に広がる。

「……ルーカス……」

 声にならない。

 

 ルーカスの口が、何かを言おうとして動く。

 だが言葉にはならない。

 空気だけが漏れる。

 焦点の合わない目が、わずかにこちらを向く。

 

 まだ、生きている。

 それが、どうしようもなく重かった。

 

 助けなければならない。

 今すぐ。

 

 だが、身体が動かない。

 魔力が、ない。

 詠唱が、できない。

 何も、できない。

 

 

 ジェネラルが棍棒を振り上げる。

 ゆっくりと。

 確実に。

 終わりを叩きつけるための動き。

 

 その瞬間、横から衝撃が突き抜けた。

 重い音が、遅れて響く。

 

 ジェネラルの巨体が、横へ弾き飛ばされた。

 貫かれている。

 大剣。

 そのまま押し切るように、巨体を地面へ叩きつける。

 

 見知らぬ男だった。

 間に合ったのかどうかも分からないまま、その姿だけが視界に焼き付く。

 

 誰かが何かを叫んでいる。

 駆け寄ってくる人がいる。

 

 音が一気に戻ってくる。

 

 だが、レオンの意識はそこまでだった。

 視界の端で、ルーカスがわずかに動いた気がした。

 それが、本当に動いたのか、それとも願望だったのか。

 判別する前に、意識が落ちる。

 

 暗転。

 

 

 すべてが、途切れた。

 

 

 

  [Error: RuntimeException]

  Cause: Unexpected resource exhaustion in execution thread.

  [Warning: ResourceDepletion]

  Source: InternalStorage(100%)

  Status: Total Drain.

  [Notice: UnexpectedVarianceDetected]

  Status: Unresolved Process.


  Initiating Emergency Shutdown of User Interface...

 

 

  [System: Rebooting...]

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