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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
20/111

第19話 遊撃と格の壁

【シーン①:遊撃の掃討】

 石畳に血が跳ねる。

 ゴブリンの悲鳴が短く途切れ、そのまま地面に沈んだ。

 

 グスタフの大剣が、振り抜かれている。

 重いはずの刃が、軽い。

 空気を裂く音すら遅れて聞こえるほどに、その一撃は速く、そして正確だった。

 

「左に、三体が移動。

 路地裏に流れてます」

 後方から落ち着いた声が飛ぶ。

 

 振り返らない。

 視線だけをわずかに動かし、足の向きを変える。

「了解だ」

 踏み込む。

 石畳が鳴る。

 横薙ぎ。

 一体目の胴が裂ける。

 返す動きで二体目の喉元を叩き切り、そのまま踏み込んで三体目の腹部へ刃を突き込む。

 まとめて三体。

 間を置かない。

 

「前方、ボス個体!」

 レンジャーの男が低く告げた。

 その声に合わせるように、後衛の女性が一歩だけ位置をずらす。

 いつでも回復を飛ばせる間合いを崩さない。

 一回り大きい個体。

 皮膚が分厚く、筋肉が盛り上がっている。

 

「……いいぜ」

 短く呟き、踏み込んだ。

 ボスゴブリンが棍棒を振り上げる。

 粗い。

 だが重い。

 

――遅い。

 

 グスタフは半歩だけ外し、軌道を見切る。

 振り下ろされた棍棒が石畳を砕くより早く、懐に潜り込んでいた。

 斜めに。

 骨ごと、断つ。

 鈍い感触とともに、握られた棍棒ごと腕が宙を舞った。

 

「今!」

 レンジャーの声と同時に弦が鳴る。

 光をまとった矢が、正確に心臓を貫く。

 ボスゴブリンが崩れ落ちた。

 

 

「前線、安定しています」

 後衛の女性が淡々と告げる。

 息一つ乱していない。

 

「北側、守備隊が押されていますが、崩れるほどではありません」

「了解」

 グスタフは短く頷く。

 穴が空いた場所を埋め、崩れる前に叩く。

 それが役目だ。

 足を動かす。次の戦場へ。

 

 その時だった。

「グスタフさん!」

 守備隊員が駆け寄ってきた。息が荒い。顔色が悪い。

「どうした」

「西側裏手で……別動隊を確認!」

 言葉を選ぶ余裕もないまま、吐き出す。

「それだけじゃない……子供が……」

 一瞬、言葉が詰まる。

 

「子供が向かった可能性があります!」

 空気が変わった。

 グスタフの動きが、止まる。

 ほんの一瞬だけ。

「……場所は」

 声が低くなる。

「この先を抜けた先の茂みです!」

 間髪入れず、グスタフは走り出していた。

 

 地面を蹴るたびに速度が上がる。

 子供。戦場。別動隊。

 

――嫌な予感しかしない。

 

「先行する!」

「了解!」

 レンジャーが即座に追従し、後衛も距離を保つ。

 だが、その中心にいるグスタフの表情だけが、これまでとは違っていた。

 焦りではない。

 だが確実に、余裕が削れている。

 間に合うかどうかも、分からない。

 それでも――間に合わせるしかない。

 速度が、さらに上がった。

 

 

【シーン②:格の壁】

 最後のボスゴブリンが崩れ落ちると同時に、レオンは次の敵へ視線を移していた。

 残るのは、ただ一体。

 

――ジェネラル。

 

 それは"立っているだけ"だった。

 だが、数が減ったはずの戦場で、むしろ圧が増している。

 体躯は一回りどころではない。

 筋肉が異様に肥大し、表面を覆う皮膚はひび割れた樹皮のような質感を帯びている。

 刻まれた傷跡は浅く、まるで時間をかけて埋め直されたように歪んで残っていた。

 

 手にしているのは削り出しただけの木の幹。

 だがその質量は明らかに異常で、振るわれる前から空気が圧し潰される気配があった。

 

 

 ルーカスが先に動いた。

 低く、速く、無駄がない。

 狙いは利き腕の手首。

 

 十分な力が載った斬撃が急所をとらえた。

 だが皮一枚分だけ食い込んだところで引っかかるようにして止まった。

 決定的な深さに届かない。

「……硬ぇ」

 

 その直後、ジェネラルが動いた。

 棍棒が持ち上がったと思った瞬間には、すでに振り下ろされている。

 地面が破砕される轟音。

 大地が震え、石片が弾け飛ぶ。

 ルーカスは後方へ飛び退いたが、余波だけで身体を大きく揺らされた。

 直撃していれば、潰されていた。

 

 レオンは一歩、横へ動いた。

 ジェネラルとルーカスを結ぶ直線上に、自分の位置を滑り込ませる。

 ルーカスが再び踏み込む。

 視線を引きつける動き。

 ジェネラルの意識が、完全にルーカスへ向いた。

 

「ライト・マクシメル」

 その瞬間、頭上に光が生まれる。

 点火に近い。

 次の瞬間、それは閃いた。

 ジェネラルの視界だけを焼き潰すように、光が膨張する。

 ルーカスの足元には影が落ち、直下にいながらほとんど影響を受けない。

 

「今だ!」

 ルーカスが迷わず踏み込む。

 狙いは足。

 機動を奪うための選択。

 

 全力で振り抜かれた刃が、脛へ叩き込まれる。

 確かな手応え。

 だが――止まる。骨に当たる。弾かれる。

 

「な……っ」

 視界を取り戻したジェネラルが腕を振る。

 横薙ぎ。

 ルーカスはかろうじて距離を取ったが、圧だけで呼吸が止まる。

 地面が抉れる。

 距離があるのに、安全圏がない。

 レオンは無意識に後退していた。

 

 

 呼吸が浅い。

 攻撃は見えているのに、対処が間に合わない。

「……なんで通じないんだ」

 急所を狙い、連携を取り、隙を突いた。

 それでも――届かない。

 

 ジェネラルはゆっくりと体勢を戻した。

 傷はついている。

 だが"削れた"とは言えない。

 

 圧倒的な耐久。

 圧倒的な膂力。

 それが同時に成立している。

 

 ルーカスが構え直す。

 だがその目の色は、先ほどまでとは違っていた。

 レオンの額を、汗が伝う。

 これは、これまでと同じ戦いではない。

 どうすればいい。

 どうやって崩す。

 答えが出ないまま、ジェネラルが再び一歩、踏み込んできた。

最後までお読みいただきありがとうございます!

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