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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
19/19

第18話 ゴブリン

【シーン①:別動隊への奇襲】

 茂みの奥、ゴブリンの背が揺れている。

 

 数は十前後。

 中央に、明らかに格の違う影が三つ。

 ジェネラルとボスゴブリン二匹が混じっている。

 ジェネラルは、腕を組み、ただ立っているだけなのに、視線が外せない。

 雑兵とボスゴブリン二匹を合わせた存在感より、その一体の方が重い。

 

 レオンは呼吸を一つだけ整える。

 視線を送る。

 ルーカスがわずかに顎を引いた。

 

 

「フラムボルト・ループ2」

 炎の塊が二条、空中を走る。

 最後尾の二体の頭部を、それぞれ包み込む。

 断末魔すら、なかった。

 二体が崩れる。

 

 一瞬、時間が止まる。

「ヴォクス・パルス」

 音が空気を叩く。

 鼓膜への直撃。

 ゴブリンたちの動きが、一拍遅れた。

 

 その隙に、ルーカスが滑り込む。

 低い踏み込み。

 無駄のない加速。

 最も近い一体の胴へ、刃を叩き込む。

 

 止まる。

 骨だ。

 獣とは違う。ぬめりと硬さが混じった、不快な手応え。

 声はない。

 

 刃が止まった瞬間、レオンはすでに詠唱していた。

「ヴェントダート」

 圧縮された風圧が、ルーカスの刃の背を押す。

 ゴブリンの胴が、裂けた。

 

「……さすがに、切れねえな」

「急所だけだ」

 短い会話。

 その間にも、残りが動く。

 

 

 統率された動き。

 雑な突撃ではない。

 

 レオンが地面に一瞬だけ触れる。

「テラモデファイ・トリガー」

 石や土の性質を書き換える魔法だ。

 職人が石畳を補修するあれの応用で、表面はそのままに内部だけを柔らかく変えてある。

 踏み込んだ瞬間に発動するよう、起動条件を仕込んだ。

 

 突っ込んできた一体が、踏み抜いた。

 体勢が崩れる。

 ルーカスは見逃さない。

 首筋へ刃を差し込み、体重を乗せ、ねじる。

 鈍い音とともに、内部が潰れた。

 

 ルーカスの左右から、同時に二体。

「ヴォクス・パルス・ループ2」

 連続した破裂音がゴブリンの耳に炸裂する。

 重なる衝撃。

 二体の動きが、止まる。

 

 一瞬。

 

 その一瞬を、二人は共有していた。

 ルーカスが片方の膝を蹴り抜き、もう一体の顎へ刃を突き上げる。

「ヴェントダート・マクシメル」

 よろけたゴブリンの肩を風刃が貫通する。

 のけぞった喉へ、ルーカスが一閃。

 血が、弧を描いた。

 

 

「……気持ち悪ぃ」

 ルーカスが吐き捨てる。

 斬った感触が、残る。

 人に近い形をしているせいで、余計に嫌悪感が強い。

 だが――止まれば、死ぬ。

 

 ジェネラルは、まだ動いていない。

 雑兵が削られていく中、腕を組んだまま、ただ見ている。

 表情が読めない。

 焦りがない。

 まるで、これが予定通りとでも言うように。

 

 重い足音。

 前に出た一体の影が、空気を変えた。

 ボスゴブリンだ。

 一回り大きい。皮膚の色が違う。

 雑兵とは、別の生き物だ。

 

「正面引け!」

「おう!」

 ルーカスが前に出る。

 

 大きく踏み込み、視線を引きつける。

 斬る。

 弾かれる。

 かまわない。

 

 ボスゴブリンの意識が、完全にルーカスへ向いた。

「フラムボルト・アクセラ」

 火球ではない。

 圧縮された炎の弾丸が一直線に走る。

 鳩尾へ直撃。

 体が折れ、動きが止まる。

 

「ヴェントダート・プンクト」

 精密に目を狙う。

 直撃。

 眼球が潰れ、ボスゴブリンがのけぞる。

 

「もらった!」

 ルーカスが踏み込む。

 首元へ、全力の一撃。

 止まる。

 骨だ。

 

 だが、止めない。

 体重を乗せる。

 押し込む。

 振り抜く。

 引き裂く。

 ボスゴブリンの体が、崩れ落ちた。

 

 

 荒い呼吸だけが残る。

 視線を上げる。

 ジェネラルは、動いていない。

 

 

 二匹いるボスゴブリンのうち一匹が倒れた。

 雑兵が半数以上消えた。

 それでも、表情ひとつ変えていない。

 怒りがない。焦りがない。

 ただ、見ている。

 まるで値踏みするように。

 

 いや。すでに出した結論を、確認しているかのようだ。

 背筋に、冷たいものが走った。

 こいつは、最初から負けるつもりがない。

 

 残り……ジェネラル。ボス一。雑兵二。

 

 

「……あと少しだな」

 レオンは一瞬だけ目を閉じる。

 胸の奥に、引っかかりが残る。

 ノイズのような違和感。

 手が、一瞬だけ止まった。

 

 だが、今は無視する。

 

「行くぞ」

 ルーカスが短く頷く。

 次の瞬間、二人は同時に踏み込んだ。

 戦いは、まだ終わっていない。

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