第18話 ゴブリン
【シーン①:別動隊への奇襲】
茂みの奥、ゴブリンの背が揺れている。
数は十前後。
中央に、明らかに格の違う影が三つ。
ジェネラルとボスゴブリン二匹が混じっている。
ジェネラルは、腕を組み、ただ立っているだけなのに、視線が外せない。
雑兵とボスゴブリン二匹を合わせた存在感より、その一体の方が重い。
レオンは呼吸を一つだけ整える。
視線を送る。
ルーカスがわずかに顎を引いた。
「フラムボルト・ループ2」
炎の塊が二条、空中を走る。
最後尾の二体の頭部を、それぞれ包み込む。
断末魔すら、なかった。
二体が崩れる。
一瞬、時間が止まる。
「ヴォクス・パルス」
音が空気を叩く。
鼓膜への直撃。
ゴブリンたちの動きが、一拍遅れた。
その隙に、ルーカスが滑り込む。
低い踏み込み。
無駄のない加速。
最も近い一体の胴へ、刃を叩き込む。
止まる。
骨だ。
獣とは違う。ぬめりと硬さが混じった、不快な手応え。
声はない。
刃が止まった瞬間、レオンはすでに詠唱していた。
「ヴェントダート」
圧縮された風圧が、ルーカスの刃の背を押す。
ゴブリンの胴が、裂けた。
「……さすがに、切れねえな」
「急所だけだ」
短い会話。
その間にも、残りが動く。
統率された動き。
雑な突撃ではない。
レオンが地面に一瞬だけ触れる。
「テラモデファイ・トリガー」
石や土の性質を書き換える魔法だ。
職人が石畳を補修するあれの応用で、表面はそのままに内部だけを柔らかく変えてある。
踏み込んだ瞬間に発動するよう、起動条件を仕込んだ。
突っ込んできた一体が、踏み抜いた。
体勢が崩れる。
ルーカスは見逃さない。
首筋へ刃を差し込み、体重を乗せ、ねじる。
鈍い音とともに、内部が潰れた。
ルーカスの左右から、同時に二体。
「ヴォクス・パルス・ループ2」
連続した破裂音がゴブリンの耳に炸裂する。
重なる衝撃。
二体の動きが、止まる。
一瞬。
その一瞬を、二人は共有していた。
ルーカスが片方の膝を蹴り抜き、もう一体の顎へ刃を突き上げる。
「ヴェントダート・マクシメル」
よろけたゴブリンの肩を風刃が貫通する。
のけぞった喉へ、ルーカスが一閃。
血が、弧を描いた。
「……気持ち悪ぃ」
ルーカスが吐き捨てる。
斬った感触が、残る。
人に近い形をしているせいで、余計に嫌悪感が強い。
だが――止まれば、死ぬ。
ジェネラルは、まだ動いていない。
雑兵が削られていく中、腕を組んだまま、ただ見ている。
表情が読めない。
焦りがない。
まるで、これが予定通りとでも言うように。
重い足音。
前に出た一体の影が、空気を変えた。
ボスゴブリンだ。
一回り大きい。皮膚の色が違う。
雑兵とは、別の生き物だ。
「正面引け!」
「おう!」
ルーカスが前に出る。
大きく踏み込み、視線を引きつける。
斬る。
弾かれる。
かまわない。
ボスゴブリンの意識が、完全にルーカスへ向いた。
「フラムボルト・アクセラ」
火球ではない。
圧縮された炎の弾丸が一直線に走る。
鳩尾へ直撃。
体が折れ、動きが止まる。
「ヴェントダート・プンクト」
精密に目を狙う。
直撃。
眼球が潰れ、ボスゴブリンがのけぞる。
「もらった!」
ルーカスが踏み込む。
首元へ、全力の一撃。
止まる。
骨だ。
だが、止めない。
体重を乗せる。
押し込む。
振り抜く。
引き裂く。
ボスゴブリンの体が、崩れ落ちた。
荒い呼吸だけが残る。
視線を上げる。
ジェネラルは、動いていない。
二匹いるボスゴブリンのうち一匹が倒れた。
雑兵が半数以上消えた。
それでも、表情ひとつ変えていない。
怒りがない。焦りがない。
ただ、見ている。
まるで値踏みするように。
いや。すでに出した結論を、確認しているかのようだ。
背筋に、冷たいものが走った。
こいつは、最初から負けるつもりがない。
残り……ジェネラル。ボス一。雑兵二。
「……あと少しだな」
レオンは一瞬だけ目を閉じる。
胸の奥に、引っかかりが残る。
ノイズのような違和感。
手が、一瞬だけ止まった。
だが、今は無視する。
「行くぞ」
ルーカスが短く頷く。
次の瞬間、二人は同時に踏み込んだ。
戦いは、まだ終わっていない。
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