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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
18/18

第17話 先触れの影

【シーン①:城門付近】

 西門付近から騒ぎが聞こえてきた。

 民衆のざわめき。

 兵士の怒号。

 馬蹄の響き。

 それらが混ざり合い、通りに向かって流れてくる。

 

「ライダーだ、ライダーの群れが来る!」

 

 誰かの叫びが、空気を裂いた。

 城壁の上から怒号が飛ぶ。

 弓を構える音。

 矢が放たれる音。

 それでも蹄の音は止まらない。

 

 

 城壁の向こうで何かが起きている。

 野次馬たちは城壁を見上げながら動けずにいた。

 

「城内に二体、侵入だ!」

 その声が落ちた瞬間、レオンとルーカスが駆けつけた。

 

 すでに野次馬が壁をつくっている。

 かき分けようとするが、人混みが厚い。

 子供の身長では人垣を越えられない。

 隙間から覗いた先に――。

 

 ハウルパピーに騎乗したゴブリンがいた。

 

 鋭い牙。濁った目。獣臭が漂う。

 

 群衆が悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げ惑う。

 子供を抱えて路地へ飛び込む親。

 転んで起き上がれない老人。

 普段は魔物など見たこともない市民にとって、目の前の光景はそのまま恐怖だった。

 

 悲鳴に近い声が響いた瞬間、ライダーの一体が群衆へ向けて突撃した。

 

 

 その瞬間、影が疾走した。

 

 低い詠唱音。

 光が身体を包む。

 筋肉が膨れ上がる。

「父上!」

 レオンは叫んでいた。

 

 剣が走る。

 空気が断ち切られる。

 一体目のライダーは乗騎ごと四散し、石畳を赤く染めた。

 間を置かず、二体目へ。

 攻撃を流す。

 返す。

 重撃。

 

 ハウルパピーの肢体が千切れ、鞍が飛ぶ。

 ゴブリンが城壁に叩きつけられる。

 立ち上がりかけたところへ、衝撃波。

 両断。

 

 二騎の侵入者は、跡形もなく片づけられていた。

 

 

 レオンは息を呑む。

 剣と魔法が一体になった動き。

 力任せではない。

 無駄がない。

 身体そのものが武器になっている。

 

「……あれが、身体強化魔法か」

 思わず声が出た。

 これまで触れたことのない領域。

 見たことのない次元の戦い。

 残身を取る父の姿から視線が離せなかった。

 

 城壁の外では、まだ戦闘が続いている。

 守備隊が押さえ込んでいるが、ライダーたちは退く気配がない。

「隊長!本隊が出てきました!」

 叫び声が響く。

 

 レオンとルーカスは目を見合わせる。

 事態は、想像をはるかに超えていた。

 

 

【シーン②:屋根上からの状況確認】

 二人は城壁沿いの高い建物へ駆け上がった。

 眼下に広がる光景に、レオンは息を止めた。

 

 城壁の内側では守備隊が展開している。

 約二百。

 槍と弓を構え、城壁に沿って隙なく陣取る。

 怒号はない。

 号令だけが短く飛ぶ。

 混乱の中でも統制が取れているのは、カールの指揮によるものだろう。

 

 城壁の外側には、その数倍の影が広がっていた。

 ゴブリン本隊、数百。

 ライダーが先頭に並び、その後ろに歩兵が続く。

 隊列は乱れていない。

 雑魚の群れではない。誰かが束ねている。

 戦場が発する低い唸りが、城壁を越えてこちらまで届く。

 

 

「……戦力比は?」

 レオンは小さく呟いた。

 

≪守備隊:推定二百。装備・練度・地形優位あり。

  ゴブリン本隊:推定四百から五百。統率あり。数的優位は敵。

  総合戦力は拮抗、ただし長期戦では守備側が不利≫

 

 拮抗。

 その一言が、じわりと重く響く。

 

 装備では守備隊が上だ。

 地形的な優位もある。

 だが数は圧倒的に不利。

 守備隊に悲壮感はない。

 それが総合戦力への自信の表れだとしても、時間が経てば状況は変わる。

 

 

 ルーカスがレオンの袖を引いた。

「裏手に別動隊がいる」

 

 指差した先。

 城壁の死角、茂みの陰に、息をひそめる影がある。

 ゴブリンが十ほど。

 その中に、一回り大きい個体が二体。

 ボスゴブリンか。

 さらにひと際大きい一体。

 静かに立ち、周囲を見渡している。

 

「……あれを解析してくれ」

 

≪個体サイズ、位置取り、周囲への指示行動から判断。ゴブリンジェネラルと推定≫

 

――やはり。

 

 守備隊は気づいていない。

 視線はすべて正面の本隊に向いている。

 別動隊が動けば、城壁の死角から内部へ侵入できる。

 正面で本隊が守備隊を引きつけている間に、背後を突く。

 単純だが、有効だ。

 

 

 レオンとルーカスは言葉を交わさなかった。

 互いに頷く。

 それだけで十分だった。

 

 背筋に、冷たいものが走る。

 恐怖か。

 緊張か。

 それとも――。

 

 足に力を込める。

 屋根を蹴る。

 風が耳を打つ。

 心臓が跳ねる。

 

――おれたちならできる。

 

 慣れているはずの森が、今日は違う密度を持って迫ってくる。

 姿勢を低くして茂みへ入る。

 

 足音を殺す。

 呼吸を整える。

 戦いの気配が、すぐそこまで来ていた。

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