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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
17/18

第16話 街のざわめき

【シーン①:学校の朝】

 登校中の、街の通りはいつもよりざわついていた。

 街往く人は、ときに立ち止まって空を見上げ、怪訝に立ち話をし、眉をひそめている。

 

 何かが、違う。

 そう感じている人がいるようだった。

 レオンには感じられない、変化を。

 

 普段ならのどかな朝が、色を変えていた。

 

 

 教室に入ったレオンは席に座りながら、室内を観察する。

 落ち着かない様子の子供たち。

 一割ほどが発信源となり、波が伝わるように、ざわめきが広がっている。

 

 クララが目を輝かせ、迫ってくるのが見えた。

「ねぇレオン、あなたはどう思う?何が起こっていると思う?」

 問いかける声は明るくも、どこかはしゃいだような興奮を帯びていた。

 普段のおっとりしたクララからは想像できない。

 

「やっぱり何かが起こるのよ!

 たぶん、きっと、絶対に何か!

 今のうちに避難したほうがいいかしら?

 でもどこに避難するの?

 家に閉じこもるのが正解かしら?

 学校に来ていない子も、きっと閉じこもっているはず。

 閉じこもるなら、食料を買い占めたほうがいいかしら!」

 

 好奇心で言葉が溢れ、留められない。

 その様子に、クララに好意のあるルーカスですら、完全に持て余している。

 

 ネロは机の下から棒切れを掘り出し、握りしめて胸を張った。

「お姉ちゃんは僕が守る!」

 小さな体で勇ましく棒を振りまわす。

 隣でルーカスが笑いながら、手を振って諌める。


 レオンはその様子を横目で見て、複雑な表情を浮かべた。

 クララの熱狂ぶりに目を細めると同時に、心の奥に微かなざわめきがあった。

 

 窓の外では、守備隊員が足早に城門方向へ向かっている。

 いつもより人数が多い。

 公式な発表は何もない。

 それでも、あの慌ただしさを見れば、何かがあったと気づかない者はいないだろう。

 

 

――単なる再起動だし、問題ないはずだ。

 

 想定外の影響力に、引っかかりを感じていた。

 

 

【シーン②:街の混乱と大人達】

 日が中天に上るころ、街の通りは人のざわめきと足音であふれていた。

 商店の前には列ができ、慌てて買い物に駆け込む人の姿もある。

 大人たちは何が起こっているのか分からず、立ち止まり、顔を合わせてはうわさを語り合い、右往左往するばかり。

 人口二千に満たない街が、普段の静けさを失い、ざわざわとした波に包まれていた。

 

 聖堂の門前には年配の市民が集まり、最奥にあるという白神へすがるような祈りを向けていた。

 守備隊が慌ただしく動いているのは誰の目にも明らかで、何かあったのだという空気だけが一人歩きしている。

 だが守備隊から正式な説明は何もない。

 それが余計に、不安を育てていた。

 

 

 正門では、カールが副官のオットーに指示を飛ばしていた。

 内容は短く、無駄がない。

 混乱した市民が詰め寄っても、動じた様子はない。

 答えられることと答えられないことを即座に仕分け、必要な言葉だけを返す。

 その落ち着きが、周囲の隊員たちをかろうじて踏みとどまらせていた。

 

 そこへ、大森林の奥深くを調査していたグスタフ・ブラントが、馬を駆って戻ってきた。

 騒ぎに驚きつつ周りを見渡し、指揮を取るカールを見つけると騎馬のまま近づいた。

 

 

「この騒ぎは一体……何が起こっている?」

 カールは短く答える。

「結界が落ちた。昨夜だ」

 グスタフの表情が変わる。

「……落ちた?切れたのか、それとも」

「原因は不明だ。危険な兆候は今のところない。だが市民が感づいている」

 

 グスタフは馬上で一度目を閉じ、それから静かに言った。

「大森林の奥で、とんでもないものを見つけた。ここでは話せない」

 カールの目が細くなる。

「……詰所へ来てくれ」

 二人は街のざわめきを背にして歩いた。

 

 

 詰所に入ると、グスタフは地図を広げた。

 森の奥、いくつかの地点に印がついている。

「ゴブリンだ。単独や小集団ではない。動きに統率がある。軍団を組もうとしている」

 カールはすぐには答えなかった。

 

 結界が落ちた。

 森でゴブリンが動いている。

 二つが重なる意味を、頭の中で静かに整理する。

 

「迫っているというほど近くではない」

 グスタフが補足する。気休めではなく、事実として。

「だからこそ、今のうちに内部を固める」

 カールは地図に視線を落としたまま言った。

 

 声は平静だった。

 それが努力によるものだと、グスタフには分かった。

 窓の外では、街のざわめきがまだ続いていた。

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