第14話 繋がる式
【シーン①:自室】
机の上に紙が広げられていた。
白神祭で見た紋様を、記憶だけを頼りに書き起こしたものだ。
完全ではない。
線は抜け、接続も曖昧だ。
だが、それでも異様だった。
規則がある。
ただの装飾ではない。意味を持って並んでいる。
レオンは指で線をなぞる。
――流れている。
点と線が繋がり、魔力の経路を形作っている。
その途中で、違和感に引っかかった。
同じ処理が続いているはずの箇所。
だが、記述は一つしかない。
「……おかしい」
本来なら、同じ記述が連続して並ぶはずだ。
だが、そうなっていない。
代わりに、その手前に別の記述が挟まっている。
「……この前の部分は何だ?」
視線を寄せる。
見覚えがある。
――どこかで見た。
記憶を辿る。
庭の噴水。
水を一定量、絶えず噴き上げ続ける魔法。
その記述の一部と、目の前の紋様が重なった。
――似ている。
完全ではない。
だが、方向は同じだ。
「……魔法と魔法を繋いでる?」
違う。
「……繋がるように、なっている?」
小さく呟く。
単純に並べているわけではない。
間に何かを挟んでいる。
その“何か”が、同じ処理を繋いでいる。
レオンはもう一度、流れを追う。
対象を検知する部分。
そこから先へ繋がる経路。
そして、また同じ位置へ戻っている。
終わりがない。
途切れていない。
「……これ」
言葉が落ちる。
――繰り返しの記述か。
一度きりではない。
同じ魔法を、連続して実行する構造。
レオンの呼吸が、わずかに止まる。
「……AI、この部分はどういう動きをしている?」
≪同一処理を連続して実行する構造と推定されます≫
――やっぱり。
一つずつ発動しているわけではない。
最初から“続くように”なっている。
レオンは息を呑んだ。
「……できるのか」
≪理論上は可能です。既存の魔法に対し、連続実行構造を付加することで成立します≫
思考が加速する。
今までは、一回ごとに詠唱していた。
必要な回数だけ、繰り返す。
だが。
――最初から必要回数分、繰り返すように指定しておけばいい。
一度の詠唱で、連続して発動する。
その発想はなかった。
レオンは視線を横にずらす。
別の箇所。
流れが途中で分かれている部分。
「……こっちは」
一瞬、考える。
「……分岐か?」
≪可能性が高いと推定されます。条件に応じた処理選択構造と考えられます≫
――選んでいる。
ただ繰り返すだけではない。
状況に応じて、処理を変える。
結界は、侵入を許さない。
侵入者を排除する。侵入者でなければ通す。
そういう構造だ。
レオンはゆっくりと息を吐いた。
――繋がっている。
だが、単純ではない。
脳裏に以前のやり取りがよぎる。
詠唱を組み合わせようとしたとき、うまく繋がらなかった。
あのときは理由がわからなかった。
だが、今は違う。
「……そのままじゃ、繋がらない」
順番がある。
分岐がある。
条件がある。
それらを挟んで、魔法同士は初めて繋がる。
レオンは紙を見下ろす。
複雑に見えていた紋様が、少しずつ意味を持ち始める。
――繰り返し。
――分岐。
――接続。
それぞれが役割を持ち、全体として動いている。
「……魔法を、……組んでる」
自然に言葉が出た。
今までとは違う。
一つずつ発動するものではない。
組み合わせて、動かすもの。
設計するもの。
レオンは背もたれに体を預けた。
視線は、紙から離れない。
理解しきれているわけではない。
読めているわけでもない。
だが。
――触れた。確実に。
静かな部屋の中で、その確信だけが残った。
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