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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
12/17

第12話 白の街

【シーン①:買取屋】

 裏口を叩くと、じきに扉が開いた。

「……また来たのか」

 扉を開けた男が、ため息まじりに言う。

 

 レオンは店内に入ると、何も言わずに背負っていた袋を下ろした。

 ずしりと重い音がする。

 ルーカスも同じように袋を置く。

 

 男は無言で袋の口を開き、中身を覗き込んだ。

「……ニブルラビット。これ、全部か?」

 答えない。

 さらに奥へ手を入れる。

「ハウルパピーも混じってるな……おい」

 手を止めて、二人を見る。

 

「この量を一日で採ったのか?」

「そうだ」

 男は小さく息を吐いた。

「その辺の冒険者顔負けだな」

 呆れた視線を送り、聞こえぬようつぶやく。

「なんてガキどもだ」


「ありがたいが……最近ちょっと多すぎるぞ」

 言いながらも、手は止まらない。

 慣れた動きで状態を確認していく。

「損傷が少ないな。どれもほぼ一撃か」

 傷口を確かめ、低く唸る。

「無駄がねえ……いや、無さすぎるな」

 それ以上は踏み込まない。

 線を引くように、視線を落とした。

「いつも通りでいいんだな」

「ああ」

 

 値段は聞かない。

 処理されるならそれでいい。

 それが基準だった。

 

 男は帳面に記入しながら、ふと口を開く。

「そういや、これだけ稼いで子供が何に使っているんだ」

「まだ足りない」

「ほう。何に使う」

「魔導書」

 一瞬、空気が止まる。

「……おい」

 男は声を落とした。

「子供が軽々しく買うもんじゃねえぞ」

「知ってる」

「なにせ高い。数も少ねえ。そもそも読めたもんじゃねえ」

 

 断言だった。

 それが普通だ。

 レオンは何も反論しない。

 

――読めなくても、AIで解析はできる。

 

 それだけで十分だった。

 

 

 男はしばらくレオンを見てから、肩をすくめる。

「まあいい。金を貯めるのは悪くねえ」

 帳面を閉じ、袋を差し出す。

「ほら、こんなもんだ」

 受け取る。

 中身は確認しない。

「また来い。

 ただし……ほどほどにな」

 言葉とは裏腹に、男の目は少しだけ疲れていた。

 

 

 外に出ると、ルーカスが隣に並ぶ。

「魔導書って、高いのか」

「ああ」

「どのくらい」

「今持ってる全部でも足りない」

 ルーカスは少し黙ってから、

「そりゃ大変だな」

 あっさり言った。

 深く追わない。

 それがルーカスだった。

 

 

【シーン②:白の街】

 街の空気が変わっていた。

 通りのあちこちに白い布が張られている。

 家と家の間に渡され、風に揺れていた。

 簡素なものだが、数が多い。

 視界が白く染まる。

 人も増えている。

 普段よりも明らかに賑やかだ。

 

「なんだこれ、白ばっかだな」

 ルーカスが言う。

「明日から白神祭だからよ」

 クララが答えた。

 

 三人で並んで歩いている。

「白女神様を祀る年に一度のお祭りよ」

「へえ。街の守り神、ってやつか」

「そう。結界を張ってくれてるって言われてるの。

 この街、百年間一度も破られたことがないって」

 さらりと言う。

 レオンは白い布の向こう側を見た。

 

――百年、揺らぎなし。

 

 単純な話だ。

 だが、その意味は重い。

 百年維持される設置型の魔法。

 それがどういう構造で動いているのか、まだ何も知らない。

 

――とんでもない魔法だ。

 

 

「お祭りの日はね、聖堂で歌があるの」

 クララが続ける。

「教会学校の生徒が歌うの。私も歌うんだよ」

「オレはいいや」

 ルーカスが即答する。

「歌とか興味ねえ」

 レオンはそれを聞いて、少し考えた。

 

 正直、歌には興味がない。

 だが聖堂には入りたい。

 結界がどこかに刻まれているとすれば、おそらくあの中だ。

 

「ルーカス、見に行こうぜ」

「は? なんで」

「クララが歌うんだぞ」

 ルーカスの動きが止まった。

 クララがわずかに驚いた顔をしてから、ルーカスに向けて穏やかに微笑む。

「よかったら、見に来て」

 ルーカスは一瞬だけ固まった。

「……お、おう」

 さっきまでの勢いが、どこかへ消えた。

 

 クララはそれには触れず、自然に話を続ける。

「祭りの間は屋台も出るし、夜は灯篭も流れるよ。賑やかで楽しいと思う」

「灯篭か。見たことねえな」

 ルーカスが少し素直な声で言う。

「きれいだよ」

 クララが答える。

 

 短いやり取りだった。

 だがルーカスは、それ以上何も言わずにただ頷いていた。

 レオンはそれを横目で見ながら、特に何も言わなかった。

「祭り、来るだろ」

 レオンがルーカスに確認する。

「行くに決まってる」

 即答だった。そのままクララを見る。

 

「一緒に回ろうぜ」

 勢いのまま言い切る。

 クララは少しだけ驚いたように目を瞬かせた。

「……レオンも?」

「行く」

 迷いはない。

 クララは小さく息を吐いて、微笑んだ。

「じゃあ、三人でだね」

「おう!」

 ルーカスが満足そうに頷く。

 話はまとまった。

 

 白い布が風に揺れる。

 街はゆっくりと祭りに染まっていく。

 

――聖堂の中に、何かある。

 

 百年維持される結界。

 その構造が、どこかに刻まれているはずだ。


 レオンの意識は聖堂の奥を見ていた。

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