第11話 分割と同時
【シーン①:連携】
森の奥、少し開けた場所に出たときだった。
気配がまとまっている。
レオンは足を止めた。
「……いるな」
ルーカスもすぐに気づく。
「数いるな」
視線の先。
木々の間に、小型の影がいくつも動いている。
ハウルパピー。
群れで行動する魔獣だ。
単体なら問題ないが、数が揃うと厄介になる。
連携して動く分、一体ずつ処理すると時間がかかる。
――まとめて処理する。
「突っ込むか?」
ルーカスがいつもの調子で言う。
「待て」
「なんだ?」
「散らすんだ。
前に出て、動かしてくれ。
ばらけさせる」
一瞬だけ間があった。
「……いいぜ」
次の瞬間には、もう地面を蹴っている。
速い。
一直線に群れへ飛び込む。
ハウルパピーが反応する。
吠え、散開する。
統率が崩れる。
それでいい。
レオンは一歩下がる。
呼吸を整える。
――同時に処理する。
通常、詠唱は対象ごとに一つずつ。
だが同一魔法なら、対象だけを分離できる。
共通部分を先に組み、そこに個別指定を重ねる。
修練場では試している。
――問題は威力が足りるか。
≪理論上は成立します。出力は分散されますが、対象数と配分次第で致命域に到達可能です≫
頭の内側に、あの平坦な声が返ってくる。
迷いは消える。
息を吸う。
一度だけ、長く詠唱する。
「ヴェントダート……」
空気が張る。
見えない何かが、そこに組み上がる。
まだ、撃たない。
保持する。
崩さないように、維持する。
次の瞬間、短く刻む。
「アルス」「ツヴィット」「デルス」
短く、正確に。
散った群れ、それぞれに。
――揃う。
一斉に放たれた。
風が走る。
複数の軌道が、同時に空間を切り裂く。
一体、二体、三体――それぞれを、正確に貫く。
混乱した残りが足を止める。
その隙を、ルーカスの剣が逃さない。
音が遅れて届く。
地面に倒れる音。
終わった。
ルーカスが振り向いた。
「……なんだ今の」
レオンは答えない。
結果を確認する。
全て、倒れている。
取りこぼしはない。
――いける。
「一気に全部やったのか?」
「……そうだ」
「へえ」
短く笑う。
「楽でいいな、それ」
事実だった。
効率がいい。
無駄がない。
だが。
呼吸が、少し重い。
胸の奥に鈍いノイズが残っている。
これまでよりも、明らかに。
――なぜだ。
≪原因は――≫
「なあ、これも全部もらっていいのかよ?」
ルーカスの大声で、途切れた。
すでに一体の解体を始めている。
「……好きにしろ」
「多いよ。手伝えよ」
「……遠慮する」
「ホントにいらないんだな」
気にせず作業を続ける。
血が地面に広がる。
レオンは一歩距離を取った。
AIの返答は途切れたままだ。
後で聞けばいい。
――そう思いながら、頭の片隅に引っかかりだけが残った。
ルーカスが顔を上げる。
「これ、さすがに持ちきれないな」
「ああ、無理だな」
「じゃあ食うか?」
「やめろ」
即答した。
ルーカスが笑う。
「なんだよ」
いつも通りだ。
群れは全滅している。
結果は出た。
並列実行は成立した。
詠唱時間も短縮できる。
ただ、消耗の理由はまだわからない。
それだけが、残っている。
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