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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
幼年編
10/17

第10話 並び立つもの

【シーン①:学校】

 教室は、いつも通りの空気だった。

 同じ内容を、同じ順番でなぞるだけの時間。

 レオンにとっては確認にもならないが、周囲とのズレを測るには都合がいい。

 扉が乱暴に開いた。

 

「オレ、ここでいいのか?」

 声が大きい。

 教師が一瞬言葉に詰まり、教室の視線が一斉にそちらへ向く。

 赤毛の少年――森で会ったあの少年は、迷いなく教室を見渡し、すぐにレオンを見つけた。

 

「お、レオンじゃねーか!」

 そのまま近づいてくる。

 クラス中の視線がこちらに集まる。

 レオンは何も答えず、視線を落とした。目立つのは面倒だ。

 

 だがルーカスは気にせず距離を詰めた。

「森で会ったじゃねーか、覚えてないのか?」

 レオンは小さく息を吐き、声を落とす。

 

「……大声で言うな。広まると面倒なんだから」

 耳打ちする。

 ルーカスは一瞬だけ間を置き、すぐに頷く。

「いいぜ、黙っとくわ。オレも行くしな」

 クラス全員の注目の中、胸を張って笑う。

 

――意味がない。

 レオンはそれ以上言わなかった。

 

「昨日のやつ、またやろうぜ」

「……時間が合えばな」

「合うだろ」

 根拠はないが、断言する。

 

 

 そのとき、横から柔らかい声が入る。

「レオン、その人は?」

 クララだった。

 

 落ち着いた声音で、自然と場の温度を整える。

 ルーカスの動きが止まる。

「……誰だよあれ」

「クララだ」

「へえ……」

 視線が外れない。

 

「初めまして。レオンの知り合い?」

 クララが穏やかに問う。

 ルーカスは一瞬だけ言葉に詰まり、

「オ、オレは……ルーカスだ」

 妙にぎこちない。

 さっきまでの態度とは別人だった。

 クララは軽く微笑む。

「よろしくね、ルーカス」

「……ああ」

 短く返す。

 だが視線はそのままだ。

 しばらくして、ぽつりと呟く。

「……きれいだな」

 独り言のような声だった。

 レオンは特に反応しなかった。そういうことに興味はない。

 

 チャイムが鳴る。

 空気が元に戻り、ルーカスは席に向かいながら振り返る。

「あとで森な」

 確認ではない。決定だった。

 レオンは否定しなかった。

 

 

【シーン②:森】

 森に入ると、空気が変わる。

 湿った土の匂いと、常に何かが動いている気配。

 ルーカスはすでにいた。

 

「遅ぇ」

「時間通りだ」

「そうか?」

 気にしていない。

 

 獲物を探しながら、ルーカスはよく喋った。

 冒険者である父親に連れられてこの街に来たこと。

 普段は王都にいるが、今回のように遠方へ長期滞在するときは同行すること。

 剣は父親に教わったが、ほぼ我流であること。

 街の外の話は、レオンにとって新鮮だった。

 

 

 気配が動く。

 ニブルラビットだ。二匹。

 

 ルーカスが踏み込む。

 迷いはない。

 剣が振られ、一瞬で叩き落とす。

 レオンは間を置かず詠唱する。

「ヴェントダート」

 もう一体を正確に貫く。

 ほぼ同時に終わる。

 

「楽勝だな」

「……問題ない」

 短く応じるが、周囲の気配はまだ消えていない。

 

 重い足音。

 現れたのはバンプ・ボアだった。

 肩の結晶装甲が光を弾く。

 

「お、でかいの来たな」

 ルーカスは笑う。

「オレ行く」

 すでに走っている。

 

――速い。

 

 レオンは一歩引き、詠唱に入るための距離を確保する。

 ルーカスが正面からぶつかる。

 衝突音。

 装甲に弾かれても止まらない。

 そのまま横へ回り込む。

「硬ぇな!」

 笑っている。

 

――引きつけている。

 

 意図ではない。だが結果として成立している。

 レオンは狙いを定める。

「ヴェントダート」

 風が走る。側面、装甲の隙間を正確に貫く。バンプ・ボアが体勢を崩す。

「今だろ!」

 ルーカスが踏み込む。全身を使った一撃が叩き込まれ、巨体が沈む。

 

 静寂。

 

「……いいな、これ」

「……ああ」

 レオンは短く応じる。

 

――前に出る必要がない。

 

――詠唱時間が確保できる。

 

――精度が上がる。

 

 結論は明確だった。

「オレ前やるから、オマエ撃てばいいな」

「……合理的だな」

 即答だった。役割は決まった。

 

 

 ルーカスは倒れた獲物に近づく。

「持って帰るか」

 レオンが言うと、ルーカスは顔をしかめた。

「は?

 そのままかよ。荷物になるだろ。

 捌こうぜ」

 

 迷いなく腰から引き抜いた短剣を突き立てる。

 肉が裂け、血が溢れる。

 レオンはわずかに距離を取る。

 匂いが強い。

 処理としては正しい。合理的だ。

 だが、慣れていない。

 

「どうした?」

「……いや」

 ルーカスは気にせず手を動かす。

 無駄がない。慣れている。

「手伝えよ」

「……遠慮する」

「そうか?」

 本気で不思議そうだった。

 やり方も、感覚も。

 

 自分とは違う。

 だが、使える。

 それもまた事実だった。

 

 

 ルーカスが立ち上がる。

「明日もやろうな」

 決定だった。

 

 レオンは一瞬だけ考え、頷いた。

 効率がいい。それは確かだ。

 だが、それだけではない気もした。

 うまく言葉にはならなかった。

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