第10話 並び立つもの
【シーン①:学校】
教室は、いつも通りの空気だった。
同じ内容を、同じ順番でなぞるだけの時間。
レオンにとっては確認にもならないが、周囲とのズレを測るには都合がいい。
扉が乱暴に開いた。
「オレ、ここでいいのか?」
声が大きい。
教師が一瞬言葉に詰まり、教室の視線が一斉にそちらへ向く。
赤毛の少年――森で会ったあの少年は、迷いなく教室を見渡し、すぐにレオンを見つけた。
「お、レオンじゃねーか!」
そのまま近づいてくる。
クラス中の視線がこちらに集まる。
レオンは何も答えず、視線を落とした。目立つのは面倒だ。
だがルーカスは気にせず距離を詰めた。
「森で会ったじゃねーか、覚えてないのか?」
レオンは小さく息を吐き、声を落とす。
「……大声で言うな。広まると面倒なんだから」
耳打ちする。
ルーカスは一瞬だけ間を置き、すぐに頷く。
「いいぜ、黙っとくわ。オレも行くしな」
クラス全員の注目の中、胸を張って笑う。
――意味がない。
レオンはそれ以上言わなかった。
「昨日のやつ、またやろうぜ」
「……時間が合えばな」
「合うだろ」
根拠はないが、断言する。
そのとき、横から柔らかい声が入る。
「レオン、その人は?」
クララだった。
落ち着いた声音で、自然と場の温度を整える。
ルーカスの動きが止まる。
「……誰だよあれ」
「クララだ」
「へえ……」
視線が外れない。
「初めまして。レオンの知り合い?」
クララが穏やかに問う。
ルーカスは一瞬だけ言葉に詰まり、
「オ、オレは……ルーカスだ」
妙にぎこちない。
さっきまでの態度とは別人だった。
クララは軽く微笑む。
「よろしくね、ルーカス」
「……ああ」
短く返す。
だが視線はそのままだ。
しばらくして、ぽつりと呟く。
「……きれいだな」
独り言のような声だった。
レオンは特に反応しなかった。そういうことに興味はない。
チャイムが鳴る。
空気が元に戻り、ルーカスは席に向かいながら振り返る。
「あとで森な」
確認ではない。決定だった。
レオンは否定しなかった。
【シーン②:森】
森に入ると、空気が変わる。
湿った土の匂いと、常に何かが動いている気配。
ルーカスはすでにいた。
「遅ぇ」
「時間通りだ」
「そうか?」
気にしていない。
獲物を探しながら、ルーカスはよく喋った。
冒険者である父親に連れられてこの街に来たこと。
普段は王都にいるが、今回のように遠方へ長期滞在するときは同行すること。
剣は父親に教わったが、ほぼ我流であること。
街の外の話は、レオンにとって新鮮だった。
気配が動く。
ニブルラビットだ。二匹。
ルーカスが踏み込む。
迷いはない。
剣が振られ、一瞬で叩き落とす。
レオンは間を置かず詠唱する。
「ヴェントダート」
もう一体を正確に貫く。
ほぼ同時に終わる。
「楽勝だな」
「……問題ない」
短く応じるが、周囲の気配はまだ消えていない。
重い足音。
現れたのはバンプ・ボアだった。
肩の結晶装甲が光を弾く。
「お、でかいの来たな」
ルーカスは笑う。
「オレ行く」
すでに走っている。
――速い。
レオンは一歩引き、詠唱に入るための距離を確保する。
ルーカスが正面からぶつかる。
衝突音。
装甲に弾かれても止まらない。
そのまま横へ回り込む。
「硬ぇな!」
笑っている。
――引きつけている。
意図ではない。だが結果として成立している。
レオンは狙いを定める。
「ヴェントダート」
風が走る。側面、装甲の隙間を正確に貫く。バンプ・ボアが体勢を崩す。
「今だろ!」
ルーカスが踏み込む。全身を使った一撃が叩き込まれ、巨体が沈む。
静寂。
「……いいな、これ」
「……ああ」
レオンは短く応じる。
――前に出る必要がない。
――詠唱時間が確保できる。
――精度が上がる。
結論は明確だった。
「オレ前やるから、オマエ撃てばいいな」
「……合理的だな」
即答だった。役割は決まった。
ルーカスは倒れた獲物に近づく。
「持って帰るか」
レオンが言うと、ルーカスは顔をしかめた。
「は?
そのままかよ。荷物になるだろ。
捌こうぜ」
迷いなく腰から引き抜いた短剣を突き立てる。
肉が裂け、血が溢れる。
レオンはわずかに距離を取る。
匂いが強い。
処理としては正しい。合理的だ。
だが、慣れていない。
「どうした?」
「……いや」
ルーカスは気にせず手を動かす。
無駄がない。慣れている。
「手伝えよ」
「……遠慮する」
「そうか?」
本気で不思議そうだった。
やり方も、感覚も。
自分とは違う。
だが、使える。
それもまた事実だった。
ルーカスが立ち上がる。
「明日もやろうな」
決定だった。
レオンは一瞬だけ考え、頷いた。
効率がいい。それは確かだ。
だが、それだけではない気もした。
うまく言葉にはならなかった。
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