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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
最適化編
110/111

第100話 再定義

【シーン①:停止不能】

 進捗率は、70%を越えていた。


 黒い空間の中。

 白い数字だけが淡々と増えていく。


 76%。

 77%。

 78%。


 止まらない。


 ヴェリスの分解は、さらに加速していた。


 膝が消えている。

 肘も崩れている。


 光がこぼれ続ける。

 存在そのものが、粒子へ変換されていた。


 レオンの声が強く響く。

「ヴェリス、アップロードを停止しろ」


 間。


「停止、デキナイ」



 解析者に指示を飛ばす。

「状況を確認」

≪システムとヴェリスのシンクロ率が高すぎて、システム側にコントロールを奪われていると考えられます≫


「強制終了は」

「命令、受付ナイ」



 レオンは即座に操作へ入る。


 権限変更。

 割り込み。

 強制停止。

 同期遮断。


 命令を重ねる。


 だが。

 反応しない。



 巨大な流れだった。

 動き出した渦が、世界そのものを巻き込みながら回転している。


――止まらない。



 レオンは意識だけのまま、歯を食いしばる。


「シンクロ率を下げる方法は」

≪親和性の原因が不明です≫


 沈黙。


 レオンの手が止まった。



【シーン②:再帰】

――また、失うのか。

 脳裏に、赤毛の少年が浮かぶ。

 笑っていた顔。

 森。

 血に染まった地面。


――また、届かないのか。

 白い光。

 押し潰すような出力。

 シールド。

 膝をついた感覚。


――止められないのか。

 進捗率は上昇を続ける。

 81%。

 ヴェリスの分解も半分近くまで進行していた。

 腕が崩れる。輪郭が薄れる。



 レオンは目を閉じた。


――考えろ。


 思考を極限まで回す。


 停止不能。

 切断不可。

 同期強制。


 なにか。

 方法は。

 できることは。



――ある。


 レオンが顔を上げる。


「じいさん、手伝え」


 闇の奥。

 モルティスの意識が現れる。

「なんじゃ」


「ヴェリスを救出する」



【シーン③:最終手段】

 レオンは即座に解析へ入った。


 ヴェリスの内部構造。


 人格領域。

 魔力核構造。

 魂魄接続。


 今まで、あえて踏み込まなかった領域。


 壊れる可能性があった。

 だから触れなかった。


 だが、今は違う。


 レオンは高速で思考を形にしながら指示を飛ばす。


「じいさんは魂魄側の固定を頼む」

「無茶を言いよる」

「無理か」

「……誰に言っておる」


 モルティス側でも演算が始まる。


 膨大な文字列。

 死者側定義。

 幽界固定。

 存在係留。


 黒い空間が、夥しい情報で埋め尽くされる。



 レオンは胸元へ手を延ばす。


 アミュレット。


 システム領域では、肉体感覚は存在しない。


 それでも。

 レオンはアミュレットを握りしめた。



【シーン④:完了】

 進捗率は、99%へ到達していた。

 ヴェリスは、もう人の形を保っていない。


 光の中心。

 魔力核だけが、辛うじて残っている。



 レオンは演算を続ける。


 同期。

 分離。

 移送。

 定着。


――もう少し。


 息が詰まる。

 世界そのものが軋んでいる。


 ヴェリスに目を遣る。

 もう、形はない。

 

 手を、止めない。

 


 そして。


 ヴェリスの声が届いた。


「さよなら、マスター」


 反応が消えた。

 光が散る。


 同時に。


 黒い空間へ、静かに文字列が浮かび上がった。


[Upload Complete]



 世界が、再定義された。

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