第100話 再定義
【シーン①:停止不能】
進捗率は、70%を越えていた。
黒い空間の中。
白い数字だけが淡々と増えていく。
76%。
77%。
78%。
止まらない。
ヴェリスの分解は、さらに加速していた。
膝が消えている。
肘も崩れている。
光がこぼれ続ける。
存在そのものが、粒子へ変換されていた。
レオンの声が強く響く。
「ヴェリス、アップロードを停止しろ」
間。
「停止、デキナイ」
解析者に指示を飛ばす。
「状況を確認」
≪システムとヴェリスのシンクロ率が高すぎて、システム側にコントロールを奪われていると考えられます≫
「強制終了は」
「命令、受付ナイ」
レオンは即座に操作へ入る。
権限変更。
割り込み。
強制停止。
同期遮断。
命令を重ねる。
だが。
反応しない。
巨大な流れだった。
動き出した渦が、世界そのものを巻き込みながら回転している。
――止まらない。
レオンは意識だけのまま、歯を食いしばる。
「シンクロ率を下げる方法は」
≪親和性の原因が不明です≫
沈黙。
レオンの手が止まった。
【シーン②:再帰】
――また、失うのか。
脳裏に、赤毛の少年が浮かぶ。
笑っていた顔。
森。
血に染まった地面。
――また、届かないのか。
白い光。
押し潰すような出力。
シールド。
膝をついた感覚。
――止められないのか。
進捗率は上昇を続ける。
81%。
ヴェリスの分解も半分近くまで進行していた。
腕が崩れる。輪郭が薄れる。
レオンは目を閉じた。
――考えろ。
思考を極限まで回す。
停止不能。
切断不可。
同期強制。
なにか。
方法は。
できることは。
――ある。
レオンが顔を上げる。
「じいさん、手伝え」
闇の奥。
モルティスの意識が現れる。
「なんじゃ」
「ヴェリスを救出する」
【シーン③:最終手段】
レオンは即座に解析へ入った。
ヴェリスの内部構造。
人格領域。
魔力核構造。
魂魄接続。
今まで、あえて踏み込まなかった領域。
壊れる可能性があった。
だから触れなかった。
だが、今は違う。
レオンは高速で思考を形にしながら指示を飛ばす。
「じいさんは魂魄側の固定を頼む」
「無茶を言いよる」
「無理か」
「……誰に言っておる」
モルティス側でも演算が始まる。
膨大な文字列。
死者側定義。
幽界固定。
存在係留。
黒い空間が、夥しい情報で埋め尽くされる。
レオンは胸元へ手を延ばす。
アミュレット。
システム領域では、肉体感覚は存在しない。
それでも。
レオンはアミュレットを握りしめた。
【シーン④:完了】
進捗率は、99%へ到達していた。
ヴェリスは、もう人の形を保っていない。
光の中心。
魔力核だけが、辛うじて残っている。
レオンは演算を続ける。
同期。
分離。
移送。
定着。
――もう少し。
息が詰まる。
世界そのものが軋んでいる。
ヴェリスに目を遣る。
もう、形はない。
手を、止めない。
そして。
ヴェリスの声が届いた。
「さよなら、マスター」
反応が消えた。
光が散る。
同時に。
黒い空間へ、静かに文字列が浮かび上がった。
[Upload Complete]
世界が、再定義された。
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