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マギ・エンジニアリング  作者: 竜屋
最適化編
107/111

第97話 神の定義

【シーン①:墓地の帰路】

 雪は舞い続けていた。

 細かな白が、静かに積もっていく。

 

「寒ぃよ」

 ガウィンが身を縮める。

 

 レオンも肩に積もった雪を払った。

 

「不便じゃの」

 モルティスが笑う。

 

 吐く息は白くない。

 この場の理から外れている。

 

 

「……切り上げる」

 レオンは白い息を大きく吐き、モルティスを見る。

「明日、話せるか」

 

 モルティスは軽く頷く。

「黄昏時に伺おう」

 口元が、わずかに歪む。

「どのような答えが出てくるか、楽しみじゃ」

 

 

 レオンは踵を返した。

 

 ガウィンとヘレナも続く。

 雪を踏む音だけが、墓地へ残った。

 

 墓地の出口で振り返る。

 モルティスの姿は消えていた。

 最初から存在していなかったかのように。



【シーン②:眠れぬ夜】

 宿へ戻った後も、レオンは眠れなかった。

 ベッドへ横になり、天井を見上げる。

 

――神とはなんだったのか。

 

 目を閉じる。

 

 墓地。

 モルティス。

 青白い火。

 

 モルティスの言葉が、繰り返し浮かんだ。

 

――死とは、その流れが閉じること。

 

 レオンは小さく息を吐いた。

 

 脳裏の解析者に話しかける。

 

「神の存在確認をしたときのデータを解析できるか」

 

 わずかな沈黙。

 

≪容量が大きすぎます。解析するにはリソースが足りません≫

 

 レオンは目を閉じたまま、額へ手を当てる。

 

――推察するしかない、か。



【シーン③:定義】

 部屋に音はなかった。

 窓の外では雪が降り続けている。

 

 レオンは思考を整理する。

 

 

――明界と幽界の端境(はざかい)が、曖昧になった。

 

 ならば。

 神を消した効果は、確かに存在している。

 

 つまり。

 神とは単なる象徴ではなかった。

 

 世界へ直接作用する何か。

 

――どんな処理だ。

 

 境界を判定する処理と仮定する。

 なにを根拠に判定するか。

 

――いや。

 

 ”あれ”は断片解析ができなかった。

 単純な処理ではない。

 

――データだ。

 

 しかも、/root/core/ に存在する。

 

 根源。世界定義。

 

 

 発生している現象から考える。

 

 怪異。

 幽体。

 終わらない再生。

 

 すべて、生死に関わっている。

 

 

――死とは、その流れが閉じること。

 

 では、生とは。

 

――命は流れる。

 

 流れ。

 

 閉じれば、死。

 閉じなければ、生。

 

 違う。

 

 だが、近い。

 それでは足りない。

 

 削除したのは、終わりの判定ではない。

 もっと根本。

 

――生そのもの。

 

 繋がる。

 

 レオンの目が開く。

 

「……そういうことか」



【シーン④:再定義】

 黄昏時。

 

 レオンの部屋に、モルティスが現れた。

 

 予兆もなく。

 扉も開かずに。

 

 ただ、そこに立っていた。

 

 

「答えは出たかの」

 わずかに声が弾んでいる。

 

 レオンは一息吸った。

 

「神とは」


 言葉が止まる。

 

「生を判定するための基準だ」

 

 モルティスの顔が、わずかに動く。

 

「もともと神とは、生の定義。

 生とは、流れが維持された状態だ」

 

 モルティスが声なく笑った。

 

 壁へ寄りかかるガウィンが眉をしかめる。

 ヘレナも追いついていない表情。

 

 だが、モルティスだけは違う。

 わずかに前へ重心を寄せている。

 

 

「その上で」

 

 レオンは続ける。

 

「従来の、生のみを定義した“神”は、十分でなかったと考える」

 

 沈黙。

 

「生のみを定義したのでは、取りこぼしがあった」

 

 レオンは、ふと目を逸らす。

 

「例えば、ヴェリス」


 脳裏にヴェリスの顔が浮かぶ。

 

 意思を持ち。

 千年を経ても動き続ける存在。

 だが。

 呼吸も鼓動もない。

 

「意識の流れは維持されている」

 

 レオンの声は静かだった。

 

「だが、肉体の循環は存在しない。流れはない」

 

 部屋が静まる。

 

「では、ヴェリスは生きているのか。死んでいるのか」

 

 

 答えは出ない。

 

 既存の定義では、判定できない。

――取りこぼしている。

 

 

 レオンは立ち上がった。

 

「機会だ」

 

 モルティスの眉が寄る。

 

 レオンは、はっきりと言った。

 

「神を再定義する」

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