第97話 神の定義
【シーン①:墓地の帰路】
雪は舞い続けていた。
細かな白が、静かに積もっていく。
「寒ぃよ」
ガウィンが身を縮める。
レオンも肩に積もった雪を払った。
「不便じゃの」
モルティスが笑う。
吐く息は白くない。
この場の理から外れている。
「……切り上げる」
レオンは白い息を大きく吐き、モルティスを見る。
「明日、話せるか」
モルティスは軽く頷く。
「黄昏時に伺おう」
口元が、わずかに歪む。
「どのような答えが出てくるか、楽しみじゃ」
レオンは踵を返した。
ガウィンとヘレナも続く。
雪を踏む音だけが、墓地へ残った。
墓地の出口で振り返る。
モルティスの姿は消えていた。
最初から存在していなかったかのように。
【シーン②:眠れぬ夜】
宿へ戻った後も、レオンは眠れなかった。
ベッドへ横になり、天井を見上げる。
――神とはなんだったのか。
目を閉じる。
墓地。
モルティス。
青白い火。
モルティスの言葉が、繰り返し浮かんだ。
――死とは、その流れが閉じること。
レオンは小さく息を吐いた。
脳裏の解析者に話しかける。
「神の存在確認をしたときのデータを解析できるか」
わずかな沈黙。
≪容量が大きすぎます。解析するにはリソースが足りません≫
レオンは目を閉じたまま、額へ手を当てる。
――推察するしかない、か。
【シーン③:定義】
部屋に音はなかった。
窓の外では雪が降り続けている。
レオンは思考を整理する。
――明界と幽界の端境が、曖昧になった。
ならば。
神を消した効果は、確かに存在している。
つまり。
神とは単なる象徴ではなかった。
世界へ直接作用する何か。
――どんな処理だ。
境界を判定する処理と仮定する。
なにを根拠に判定するか。
――いや。
”あれ”は断片解析ができなかった。
単純な処理ではない。
――データだ。
しかも、/root/core/ に存在する。
根源。世界定義。
発生している現象から考える。
怪異。
幽体。
終わらない再生。
すべて、生死に関わっている。
――死とは、その流れが閉じること。
では、生とは。
――命は流れる。
流れ。
閉じれば、死。
閉じなければ、生。
違う。
だが、近い。
それでは足りない。
削除したのは、終わりの判定ではない。
もっと根本。
――生そのもの。
繋がる。
レオンの目が開く。
「……そういうことか」
【シーン④:再定義】
黄昏時。
レオンの部屋に、モルティスが現れた。
予兆もなく。
扉も開かずに。
ただ、そこに立っていた。
「答えは出たかの」
わずかに声が弾んでいる。
レオンは一息吸った。
「神とは」
言葉が止まる。
「生を判定するための基準だ」
モルティスの顔が、わずかに動く。
「もともと神とは、生の定義。
生とは、流れが維持された状態だ」
モルティスが声なく笑った。
壁へ寄りかかるガウィンが眉をしかめる。
ヘレナも追いついていない表情。
だが、モルティスだけは違う。
わずかに前へ重心を寄せている。
「その上で」
レオンは続ける。
「従来の、生のみを定義した“神”は、十分でなかったと考える」
沈黙。
「生のみを定義したのでは、取りこぼしがあった」
レオンは、ふと目を逸らす。
「例えば、ヴェリス」
脳裏にヴェリスの顔が浮かぶ。
意思を持ち。
千年を経ても動き続ける存在。
だが。
呼吸も鼓動もない。
「意識の流れは維持されている」
レオンの声は静かだった。
「だが、肉体の循環は存在しない。流れはない」
部屋が静まる。
「では、ヴェリスは生きているのか。死んでいるのか」
答えは出ない。
既存の定義では、判定できない。
――取りこぼしている。
レオンは立ち上がった。
「機会だ」
モルティスの眉が寄る。
レオンは、はっきりと言った。
「神を再定義する」
最後までお読みいただきありがとうございます!
もし「面白い!」「続きが気になる」と思ってくださったら、
★や感想で応援していただけると、執筆の励みになります!




