第95話 モルティス
【シーン①:共同墓地】
レオンは調査を始めた。
冒険者ギルドの情報網を利用し、各地で増え始めた怪異を追う。
「死んだはずの人間を見た」
「埋葬後に動いた」
「夜道に首のない騎士が出た」
どれも、以前なら酒場の与太話で終わるような内容だった。
それが今は実際に起こりうる現象だった。
レオンたちは、街外れの共同墓地へ来ていた。
夕闇が訪れる頃、火の玉を見た者がいるという。
墓石が並んでいる。
雪は浅い。
吐く息だけが白かった。
レオンは墓地の片隅へ腰を下ろす。
ガウィンは腕を組み、周囲を警戒していた。
ヘレナはマントを寄せる。
「こんな場所で待ち合わせする趣味、ないんだけど」
「俺もだ」
ガウィンが短く返した。
薄曇り。
今日は月が見えそうにない。
陽が稜線に隠れると、途端に闇だけになった。
ふと、墓標の影が揺れた。
【シーン②:人影】
人影が立っていた。
いつの間にか。
正面に。
気配もない。
足音もない。
闇の中から、そのまま滲み出たかのように。
ガウィンが即座に剣へ手をかける。
ヘレナも後ろへ下がり、ナイフを抜いた。
レオンもアミュレットへ触れる。
この感覚。
知っている。
――ガレリウス。
しかし、目の前の男はガレリウスよりかなり小柄だった。
深く被ったローブ。
隙間から覗く口元には、深い皺。
灰色の髭。
若作りを好んだガレリウスとは違う。
老いた男だった。
それでも、漂う空気は同質。
世界から、少し外れている。
ガウィンが剣を抜く。
「誰だ、お前」
男は答えない。
レオンだけを見ていた。
【シーン③:モルティス】
「感謝、しておる」
低い声だった。
声量は小さい。それでも、はっきりと聞こえる。
音ではない何かが、直接伝わってくる。
「よくぞ、境界を崩してくれた」
レオンは一呼吸置いた。
「……何者」
男の口元が、わずかに歪む。
「我は、“幽界”に住まう亡霊」
間が落ちる。
「モルティス」
レオンの眉が動く。
名前だけは知っていた。
ヴェリスを作り上げた賢者ギニアス。
ヴェリスを強奪した賢者ガレリウス。
そして、三賢者最後の一人”モルティス”。
ヘレナが小さく息を呑む。
「……賢者……モルティス」
モルティスは否定も肯定もしなかった。
ただ、静かに笑っている。
風が吹く。
モルティスのローブの裾が揺れた。
【シーン④:境界】
「やっぱり、ガレリウスのお仲間かよ」
ガウィンが剣を構えなおす。
踏み込もうとした。
その間を読んで、モルティスが口を開く。
「ちがう」
静かな声と圧。
ガウィンの動きが止まる。
「ガレリウスのような強欲と、一緒にせんでくれ」
モルティスが、わずかに肩を落とした。
「わしはもう、望むものなどない」
雪が舞いだした。
モルティスの吐く息だけが、白くない。
「素直に、礼を言いに来たのじゃ」
モルティスが、レオンに向き直る。
「わしには思いもせぬ方法と力で、世の理を変えてくれた。
そこの小僧にな」
レオンは黙っていた。
目の端で、青白い火が浮かんだ。
一瞬で消える。
モルティスは続けた。
「理解しておらぬのか」
レオンの目が細くなる。
「ならば、教えようか」
口角が上がる。
「お主が、何を成したのか」
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