第92話 GOD
【シーン①:鍵】
白い光が、夜空を裂く。
直後。
暴風が広場を薙いだ。
建物の壁が砕ける。
雪が巻き上がる。
ヘレナが住民を庇いながら叫んだ。
「下がって!」
ガウィンが瓦礫を転がって避ける。
「クソが……!」
ユスティアとバット。
ぶつかるたびに、空間そのものが軋んでいた。
レオンは、その光景を見ていた。
神の意思。
正しさ。
導き。
そう言いながら。
やっていることは、力だけだ。
神の意思は確認できない。
検証もできない。
にもかかわらず。
誰もが、それを絶対基準として扱う。
神のため。
世界のため。
正義のため。
その言葉だけで、人は従う。従わせる。
構造が、完結する。
検証不能な絶対基準が存在する限り。
強制は、永久に再発する。
ならば。
根源は、“神”だ。
それがなくなれば。
強制構造そのものが消える。
“神”を根拠にした強制は消える。
レオンには“神”の在処に心当たりがあった。
魔力枯渇。
限界を超えた時だけ現れる、あの表示。
――[System: Rebooting...]
あれは、ただの警告ではない。
システム側の処理。
神を定義するなら。
必ず、システムに存在している。
あそこへ介入できれば。
――“神”へ触れられる。
レオンは懐からアミュレットを取り出した。
ガウィンが眉を寄せる。
「おい、何する気だ」
「少し潜る」
「は?」
レオンは答えない。
アミュレットへ魔力を流し込む。
刻んだ詠唱が淡く発光する。
さらに流す。
光が強まる。
表面の刻印が赤く明滅した。
ヘレナの顔色が変わる。
「ちょっと待って、それ危なく――」
「大丈夫だ」
遮る。
「限界点は制御する」
レオンは手元から目を離さない。
さらに出力を上げる。
アミュレットが高い駆動音を立て始めた。
光が溢れる。
視界の端が白く飛ぶ。
感覚が遠くなる。
レオンは、小さく息を吐いた。
「頼んだぞ」
視界が暗転した。
【シーン②:Reboot】
暗闇。
感覚がない。
身体が消えていた。
意識だけが浮いている。
文字列。
赤いログが流れ始める。
[Warning: DeviceIOError]
Target: Mana_Amulet_01
Status: Buffer Overflow. Data integrity lost.
[Error: RuntimeException]
Cause: Feedback loop detected in power-supply thread.
Detail: Recursive power surge from external device.
[Critical: HardwareAbortion]
Cause: Interface failure due to extreme thermal load.
Object: Core_Mana_Storage (Stress level: 100%+)
[Notice: UnexpectedVarianceDetected]
Status: Unresolved Process.
Warning: Memory Protection Unit Disabled by Hardware Failure.
いつもの、魔力枯渇後のアレだ。
流れる。
高速で。
視界を埋め尽くすように。
そして。
[System: Rebooting...]
レオンの意識が鋭くなる。
――ここだ。
集中する。
思考を言葉に。言葉を文字に。文字を命令に。
変換する。
割り込む。
interrupt --at boot_sequence
停止。
世界が止まった。
流れていた文字列が静止する。
黒い空間。
中央で、カーソルだけが点滅していた。
入力待機。
レオンは意識体のまま、息を吐いた。
入れた。
AIへ問いかける。
――神を探す。
≪検索条件を指定してください≫
――世界全体から参照される定義。
≪候補数が膨大です≫
レオンは思考する。
神。
世界の根幹。
絶対基準。
変更不能。
条件を指定する。
――読み取り専用。不可視。システム保護。
≪検索条件を受理しました≫
find /root -attr +readonly +hidden +global
[Scanning...]
[1 object found]
表示。
name: GOD
address: 0x0000000000000000
access: KERNEL_ONLY
status: PROTECTED_BY_SYSTEM_INTEGRITY
――見つけた。
アドレスはゼロ。
NULLですらない。
システムの原点。
名前は、一言。
”GOD”。
【シーン③:削除】
レオンは、GODを見つめる。
これが、世界全体の前提。
強制の根拠。
神の意思。
安定。変革。正義。
その全てが、この定義を根拠にしている。
――こいつが元凶。
中身を確認する。
check GOD --value
[Warning: Data size exceeds buffer limit. Displaying first 64 bytes...]
0000: 4c 65 6f 6e 20 69 73 20 61 20 62 75 67 00 00 00
0010: ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff ff
0020: 7a 91 3c e1 88 00 ff 72 1a 0d 44 9c a1 73 b2 10
0030: ff 00 00 00 91 c2 4e 77 5d a0 1f e3 44 88 90 ff
...
[Status: System instability due to memory pressure]
読めない。
意味を持たない。
ただ。
容量だけが異常に大きい。
レオンは眉を寄せた。
形而上の定義データ。
世界全体から参照されているだけの、概念。
重すぎるのは。
参照量が膨大だからだ。
――これを削除する方法は……。
考えかけたところで、AIが反応した。
≪警告≫
≪対象はシステム保護領域です≫
≪削除は重大な影響を及ぼす可能性があります≫
レオンは迷わない。
恐怖より先に。
処理手順が浮かんでいた。
不要な定義。
最適化を阻害する要素。
――削除する。
rm -rf /root/core/variable/GOD
[Caution: You are about to delete a system-critical object. Continue? y/n]
迷わず入力した。
y
わずかに間があく。
[Success: Object 'GOD' has been deleted.]
その瞬間。
ノイズが、消えた。
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