第91話 神とは何か
【シーン①:衝突】
先に動いたのは、バットだった。
音もなく。
笑みだけが残るように。
黒い霧が、ユスティアへ向かって走った。
ユスティアは避けない。
白い光が、正面から受け止める。
衝突。
轟音が、夜空を裂いた。
白い広場が、一瞬だけ青く染まる。
石畳が爆ぜた。
破片が吹き飛ぶ。
ザッハが反射的に後ろへ跳んだ。
「危なっ――!」
遅れて衝撃が来る。
空気そのものが震えていた。
ユスティアの周囲には白い光。
バットの背後では漆黒の霧が渦を巻いている。
壊れかけの隔離空間そのものが、軋んでいた。
「やめるのだ!」
ザッハが叫ぶ。
「街が壊れるのだ!」
聞いていない。
ユスティアも。
バットも。
止まらない。
「確認しましょう」
ユスティアの声は冷たい。
「どちらが、神の意思に沿っているのか」
バットが笑う。
「ええ。いい機会です」
黒い霧が膨れ上がる。
「生き残った方が正しい。分かりやすいでしょう?」
暴風。
広場を雪が舞った。
石畳が剥がれる。
レオンは眉をひそめた。
神の意思。
そう言いながら。
やっていることは、ただの力比べ。
建物が壊れる。
街が巻き込まれる。
それでも。
二人は止まらない。
【シーン②:解析】
レオンは後退しながら、空を見た。
雷光。
暴風。
衝撃。
空間そのものが歪んでいる。
ヘレナが叫ぶ。
「レオン!」
崩れた屋根が落ちる。
ガウィンが剣で弾き飛ばした。
「考え事してる場合か!」
レオンは答えない。
視線だけが、ユスティアとバットを追っていた。
神族。
魔族。
どちらも、“神のため”と言う。
しかし。
言っていることは、まるで違う。
轟音。
広場の中央が吹き飛ぶ。
ザッハが巻き込まれかける。
「危ないのだ!」
バットの魔法。
ユスティアの障壁。
衝突。爆風。
ザッハが後退する。
レオンは、その光景を見ていた。
止めると言いながら壊す。
導くと言いながら従わせる。
結局、どちらも"正しさ"を押し付けている。
検証できない。
確認できない。
それでも。
誰もが従う。
神のため。
世界のため。
正義のため。
その言葉だけで、人が動く。動かされる。
【シーン③:強制】
ユスティアの背後に光が広がる。
白銀の光。
光の中に巨大な紋様が浮かび上がった。
バットが笑う。
「相変わらず大仰ですねぇ」
黒い霧が空を侵食する。
空気が軋む。
そして。
衝突。
凄まじい轟音。
周囲の建物の窓が砕け散った。
悲鳴。
遠くで誰かが逃げている。
ジュードが舌打ちした。
「隔離が破れ始めています……!」
ヘレナが住民を庇う。
ガウィンが瓦礫を押し返す。
ザッハが前へ出ようとする。
「もうやめるのだ!」
だが。
白い光が走った。
同時に。
黒い衝撃が弾ける。
ザッハのからだが吹き飛んだ。
「っ――!」
地面を転がる。
レオンの目が動く。
ユスティアも。
バットも。
ザッハを見ていない。
互いしか見ていない。
神の意思。
世界のため。
そう言いながら。
結局。
自分たちの正しさを、証明したいだけ。
一つの構造が、見えた。
轟音。
空が裂ける。
世界が揺れる。
レオンは、その中心を見ていた。
神族。
魔族。
人。
国家。
歴史。
全部が、“神”を根拠に動いている。
――その神は、本当に必要か。
世界は存在する。
人も存在する。
社会も存在する。
――“神”だけは確認できない。
観測できない。
検証できない。
にもかかわらず。
誰もが、それを絶対基準として扱う。
レオンの中で。
一つの結論が形になっていく。
――不要だ。
神という概念そのものが、強制の根拠になっている。
なら。
消せばいい。
――“神”という定義を。
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