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第37回:大政奉還の日

慶応三年十月十四日。ついに徳川慶喜が政権返上を宣言した。この報せが届いた瞬間、土佐藩邸は歓喜の渦に包まれ後藤象二郎は「坂本君、君のおかげだ!」と男泣きに暮れた。

しかし、当の龍馬は潜伏先の薄暗い部屋で別の死闘を演じていた。

「……待てっ、逃げるなタマ! おんしゃあ、ノミをどこへ隠したぜよ!」

龍馬は歴史的快挙などそっちのけでタマを膝に乗せ、必死にノミ取りに励んでいた。

「坂本さん、ついに幕府が終わったんですよ!」

興奮して駆け込んできた若い隊士の叫びも龍馬の耳には届かない。

「そんなもんは、どうでもええ! 今は、早うノミを捕まえんと、痒うてたまらんのじゃ!」

龍馬がノミを追いかけて畳の上を転げ回る姿は、英雄のそれとは程遠い。

タマは自分の腹を必死に探る龍馬の手を鬱陶しそうに眺め、隙を見てその指をガブリと噛んだ。

「痛っ!……タマ!おんしゃあ、わしの苦労も知らんと!」

人々が新しい時代の夜明けを祝い、涙を流して抱き合う一方で龍馬はただ一匹の小さなノミに翻弄され、愛猫に噛まれた指をくわえて情けなく悶絶するのであった。

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