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第36回:うたた寝の船中八策

大政奉還の建白書が受理されるか否か京の街が緊張に包まれる中、当の龍馬は連日の心労で深い眠りに落ちていた。その枕元で後藤象二郎は、筆を手に構えていた。

「坂本、新国家の具体的な指針を何卒教えてくれないか!」

寝ぼけた龍馬は、鼻の傷の痒みに悶えながら断片的な言葉を零した。

「……んぁ……朝は、みんなゆっくり寝たいぜよ……」

「皆が楽ができる社会? いや、四民平等の精神か!」

後藤は猛烈な勢いで筆を走らせる。

「……米は、腹いっぱい……。あと、あっちこっちに散歩でも……」

「租税の改正! そして万国公法に基づく自由貿易か……素晴らしい!」

龍馬が「お龍に、怒られたくない……」と寝言を言えば、後藤はそれを「憲法制定による権力の抑制」と翻訳した。こうして、龍馬の個人的な八つの寝言は後藤の熱すぎるフィルターを通して国家の基本方針へと成文化されてしまった。

懐のタマは、龍馬の寝言を「相変わらずだらしないなぁ」と鼻で笑いながら、世界を動かすことになった、その紙切れの上に悠然と足跡をつけていくのであった。

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