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第35回:慶喜の決断
京都の潜伏先に身を潜める龍馬は、鼻の傷の疼きと終わりの見えない逃亡生活に疲れ果てていた。そこへ、土佐藩の後藤象二郎が「幕府をどうすべきか」と相談に現れる。
「後藤さん、もう疲れたぜよ。鼻は痛いし、毎日おっかない奴らに追われるのは勘弁ぜよ。わしも休むき、慶喜公もさっさと政権を返して休めばええ。それが一番ぜよ」
龍馬が鼻を冷やしながら吐き出した愚辞を後藤は「……政権を返し、皆が休める泰平の世を築く。これぞ国家百年の大計なり」と勝手に感動し、幕府への建白書としてまとめ上げた。
一方、二条城でこれを受け取った徳川慶喜は、行間に漂う龍馬の執念を勝手に勘違いして戦慄した。
「……この休めという言葉の裏には、従わねば軍勢を率いて攻め寄せるという凄まじい覚悟を感じる。特にこの鼻が痛いという隠語……これは何らかの秘密兵器の暗号では?」
慶喜は龍馬の個人的な泣き言を底知れぬ智略と誤認し、ついに政権返上を決意する。
一方タマは龍馬の鼻の絆創膏をわざと爪で剥がしながら人間たちが勝手に歴史を動かしていく様子を、ただ冷ややかな目で見つめるのであった。




