第34回:お尋ね者、龍馬
お龍の激しい嫉妬から逃げ出した龍馬は、ようやく京都の入り口の伏見に辿り着いた。だが、街道の入り口にあるお尋ね者の手配板を見て龍馬は足を止めた。そこには、いろは丸事件で大金をふんだくられた紀州藩が執念でばらまいた龍馬の指名手配書が貼られていたのだ。
「タマ、見てみろ。わしを牙の生えた化け物に描きおって。実物はもっとこう、女子が放っておかんハンサムなぜよ」
「……鏡を見てから言いなよ。君の顔は僕に引っ掻かれた上に、お龍さんに絞られたせいでボロ雑巾みたいだよ。というか元々、男前ではないよね」
「雑巾やら失礼な! わしゃあ自分の顔を気に入っちゅうがじゃ。この絵のせいで、京の女子にブサイクだと思われたら一大事なぜよ」
「誰も見てないよ。自意識過剰な雑巾だ」
鼻を真っ赤に腫らして涙目で言い争う龍馬が検問に差し掛かると役人は手配書と龍馬を交互に見比べ、盛大に鼻で笑った。
「……おい。坂本龍馬といえば、目に殺気が宿る化け物だぞ。こんな、猫を抱いて美醜を語り合うマヌケな男なわけがあるか。邪魔だ、行け!」
「……ほらね。マヌケすぎるのは、どんな高度な変装にも勝るのさ」
役人に突き飛ばされるようにして、龍馬はついに動乱の京都へと潜り込むのであった。




