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第33回:お龍の嫉妬
海援隊を離れ長崎を出た龍馬は京都へ向かう道中、妻のお龍を預けている下関の伊藤邸へ立ち寄った。数ヶ月ぶりの再会に龍馬は「お龍ちゃ〜〜ん!」と両手を広げたがお龍の目は氷のように冷たかった。
「……竜馬さん。その鼻、どうしたんです? 私を下関に放っておいて長崎でどこの女に爪を立てられたんですか」
龍馬の鼻は、昨日タマに引っ掻かれて真っ赤に腫れ上がっていた。
「違うがぜよ! これはタマに……」
「おたま? さては、長崎で囲っていた芸妓の名前ですね。まあ、可愛らしいお名前だこと!」
「猫のタマじゃ! 煮干しを踏んで怒られただけで……」
「猫のせいにすれば私が許すと? 以前、寺田屋で私が裸で飛び出して助けた恩を女遊びで返すなんて最低です!」お龍の罵声が続く。
「僕の大事な煮干しを踏んだからバチが当たったんだよ」
「タマ、おんしゃあ黙っちょれ!」
「今、私に黙れとおっしゃいました!?」
龍馬が猫を叱ったのを自分への暴言だと勘違いしたお龍の怒号は、邸の外まで響き渡った。様子を伺っていた刺客たちは「……坂本殿は今、修羅の如き女と命のやり取りをしている。近寄らぬが賢明だ」と恐れをなして退散するのであった。




