第20話
モニカ様のご出立日が決まりました。
成人される16歳のお誕生日の3日後、カシーク王国へ向けて発たれることが決まったのです。もうモニカ様とお会いできるのも残りわずかなのね。
「カシークまでアンナベッラが来てくれることは嬉しいわ」
「私こそ大役のブライズメイドにご指名頂きありがとうございます」
国王陛下と王妃殿下の名代として、結婚式にまつわる全ての祝宴への出席も仰せつかったのです。ええ、王太子殿下と一緒にね。そして挙式ではモニカ様のブライズメイドを務めさせて頂くの。
王女殿下の輿入れですから、もちろんブライズメイドは私1人ではないわ。王家より任命された、王都在住の12~15歳の令嬢が15名随行するのよ。「煩わしいわ、アンナベッラだけでいいのに」なんて仰って下さってはいるけれど。
私たちブライズメイドが挙式で着用するドレスは王宮で誂えて頂いているから、ご一緒する令嬢たちとも何度か顔を合わせたわ。とは言ってもそれ以前に見知ったお顔ばかりだったけれど。
広いようで狭い社交の場。3年も活動していれば知り合うべき方とはとっくにお会いしているのよね。
残念ながら王太子殿下の婚約者を代わってくれそうな方はいらっしゃらなくて。
モニカ様のお誕生日が目前に迫った金曜日、私は恒例のお茶会に参加したの。ええ金曜日のアレよ。
「カシークへはダミアンに行かせる」
ルナトゥリーナ家で起こった嘘みたいな出来事以降、王太子殿下はすっかり元の石像に戻られたの。あれは本当に幻だったのかもしれないわね。
今だってそうよ。王太子殿下がモニカ様のご婚礼への参列を取りやめたということはわかったわ。けれど私は?それぞれ国王陛下と王妃殿下の名代という役目を仰せつかっているのですもの、王太子殿下が欠席されるのだったら私も?嫌よ、そんなの絶対に嫌。
もう4年も経験しているからわかるわ。この場でこれ以上何を聞いても石像なのよ。何も言わないし答えることもない。いいわ、あとでダミアン様に聞いてみましょう。
この頃になるとモニカ様とは毎日のようにお会いしていたから、ダミアン様にお会いするのも簡単だったわ。ダミアン様もたいていモニカ様とご一緒だったのですもの。
「悪いねルナトゥリーナ嬢、僕が代理の代理だよ。兄上の代わりに僕が参列することになったんだ」
悪くないわ。ちっとも悪くなんかありませんわダミアン様。むしろ喜ばしいくらいよ。考えてもみて?カシーク王国まで何日かかるのかわからないけれど、馬車の中で石像と2人きりにされたらと思うと、ゾッとする、いいえ狂ってしまいかねないわ。
石像がいなければ、私はモニカ様とご一緒できるだろうし、それは楽しい旅になるでしょう?それにダミアン様はカシークに長く滞在されていたのだもの。あちらの国でも歓迎されるに違いないわ。
「ダミアン様、そんな風に仰らないでくださいませ。私も精一杯名代を務めさせて頂きますわ」
嬉しい。モニカ様とのお別れは辛いものの、カシークまでの旅は楽しいものに違いないから。
「それにしてもお兄様はどうして直前になってそんなことを言い出したのよ」
モニカ様は、さして不満でもなさそうだけれど、ぷぅと頬を膨らませた。モニカ様にも理由をお話しになっていないのね。まさか実の家族を前にしても石像を貫いておられるのかしら。
「うん、やっかいな問題が起きてね、兄上はそちらで手一杯らしいよ」
珍しくダミアン様が眉尻を下げて困ってみせる。どうやらダミアン様にはそのやっかいの原因をお伝えのようね。いいわ、私のようなただの婚約者には何ひとつ本当のことを仰らない石像も、血の繋がった弟には本音を話せるくらいの会話術は持ち合わせていると言うことですもの。
と、ここで先日の様子のおかしい殿下を思い出し、頭を横に振った。
変な薬を盛られたと聞かされた方が納得いったでしょう。そのくらいあの日の殿下の様子はおかしかったもの。奇行といっていいレベルよ。
「たった1人の妹の婚礼よりも大事なことがおありの兄なんてどうでもいいわ。あなたたちは私のことをちゃんと祝ってちょうだい」
モニカ様がお寂しくないのなら、私にとってこの状況は何の問題もないこと。むしろ喜ばしいとすら思えること。
カシーク行きを目前に控え、私も自分の支度で忙しく、モニカ様のことを考えるので精一杯だったから。




