第16話
「決めた。大きくなったら迎えに来る。待っていてくれるよな?」
「わかったわ、やくそくよ」
「君の16歳の誕生日、きっと迎えに来る」
「まあ!16さいなんてあと11ねんもさきよ?あなたもわたしもすっかりかわってしまって、わからないにちがいないわ」
「そんなことない。君が俺をわからなくても俺には絶対わかるから」
「ふふ、そうだとうれしいわ。そうね、これをあげる。失くさずにもっていてね。きっとよ」
幼い日の大切な思い出。
生涯忘れることはないであろう素晴らしい1日。
その日、たった1日会っただけの運命の人。5歳で運命かと笑うかしら?
笑っても構わないわ。私だって自分のことでなかったら、きっと笑ってしまうでしょうから。
「まって。なまえをおしえてくれなくちゃ」
「――ルド」
「ルド、まってるわ」
「君が16になったらあの楢の木の下で会おう。必ず迎えに来る。どこにも行くなよ」
あの日突然目の前に現れた少年。
背が高くて、麦の穂みたいな黄金の髪がキラキラとしていて、そして太陽みたいに笑う子。
港へ向かう途中だという彼が、どこから来たのかも聞かなかったわ。
ルドのことはとても大きく感じたけれど、私はまだ5歳だったし、同じ歳の中でも私は小さな方だったから、ルドもその時感じたほど大きな子ではなかったのかもしれない。
ルドは飾りのない白いシャツに、明るい茶色のズボンを履いていたの。街で見かける平民の男の子たちと変わらないように見えたわ。港へは使いで向かっていたのかしら。まだ子供だったのに、きっともう働いていたのね。もしかすると船に乗ったのかもしれないわ。そうすると今はどこかの国で暮らしているのかしら。シエルラッドへは帰ってくるの?帰るわよね、迎えに来ると約束したのですもの。
あと何年か経っていて、もう少し私が色々なことを覚えてから出会っていれば、もっと別のことも話すことができたはずだし、彼の助けにもなれたでしょうに。あの時の私はとても幼かったわ。
どの町から来て、港へ行く目的は何か。いいえせめて名字と年齢だけでも聞いていれば。そうすれば少しは探すことも出来たはずなのに。
もうわかったでしょう?私がどうしてルナトゥリーナ領に帰りたいのか。
心の中ではわかっているのです。ルドにもう一度会うことはないのだろうと。もし、もしも彼があの約束を憶えていて、それを守るために駆け付けてくれたとしても、私には守ることができないということも。
それでも会いたい。ずっと今日まであの約束を胸に生きてきたのですもの。
王都で理不尽な目に遭っても、望まれない名ばかりの婚約者になっても、ルドのことを思い出して頑張ってきたわ。
最後にもう一度会うことができたら。
「大好きだ。君は俺の運命のお姫様だね」
「まあ!それじゃあなたは、わたしのうんめいのおうじさまね。だいすきよルド」
あの日、私の髪に結ばれていた2つのリボン。今はその1本だけが手元に残っている。これは大切な宝物。ルドと私を結ぶ唯一の欠片。
ねえルド、今あなたはどこで何をしているのかしら。
私はね、今王都で暮らしているのよ。ルドは王都を知っていて?ここは酷くつまらないところよ。
早くルナトゥリーナに帰りたい。きっと帰るから、もう一度だけ私の前に現れてね。




