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不合格

 レミーの鎧からその規模も速度もさまざまの無数の光弾が放たれる。あるものは直にクーラをめがけ,別のあるものは周囲の円盤を目指す。

「終われえっ!」

 地面を除く全方位からの同時攻撃が彼に襲い掛かった。

「まだだっ!」

 しかし今度は,クーラの全身を包む球体でもそこにあるかのように,それら全ての光弾は悉く消滅する。

「!?」

「食らえっ!」

 そしてクーラが剣をレミーに向けてかざすと,その先端から巨大な光の帯が迸る。

「ふん…」

 しかしレミーは鼻で笑って,それに左の掌を向ける。

「な…っ!」

 先ほどの光弾の比ではない,はずだ。しかしレミーはまたもそれを弾く。

「驚くほどの事じゃないだろう?お前の脚にだってできる事だ」

「く…」

 やはり龍戦士は出鱈目が売りのようだ。クーラは内心で歯噛みする。

「エル…こんなもんかな?」

 と,そこでレミーがひょいと調子を変えて言う。

「みたいだね」

 肩をすくめながら答えるエル。

「…?」

実力検査テストはおしまい,って事さ」

 こちらも肩をすくめるレミー。

「…で,どうするつもりだ?」

 確か先ほどは,お持ち帰りとか何とか言っていたはずだ。警戒を解かずにクーラは尋ねる。

「どうもしないさ」

 溜息をつくレミー。

「なに…?」

「つまりね,あんたは不合格って事だよ。実力不足って事。女王ともども連れ帰れという命令は,あくまであんたの強さが及第点だった時の話なのさ」

「正直,ちょーっとガッカリだよねぇ…」

 苦笑するエル。

「どうやらほんとに,伝説の”流星シャルル”じゃないらしい。これじゃ…髭親父にも遠く及ばないよ」

「髭…親父?」

 聞きとがめるクーラ。

「ああ。…帝国の白廉将軍ヒゲオヤジさ。知ってるだろ?」

「!」

「髭のおじ様にも及ばないのでは,連れ帰ったところで何の役にも立ちませんしね」

「く…」

「まぁそういうわけだから…」

 展開していた円盤を全て格納すると,武装を解除するレミー。

「すっかり邪魔しちゃったけど,気を取り直してくつろいで行ってよ」

 んじゃね,と手を振るとくるりと背を向け,何事もなかったかのようにすたすたと歩き去るレミー。

「お互い生きていたら,またねぇ」

 こちらもさっさと武装解除してしまったエルが,ひょいひょいと飛び跳ねるようにしてそれに追いつく。

「…」

 呆気に取られる一同を残し,二人は闇の中へ消えた。

「大尉…」

 真っ先に駆け寄ったエリィは,しかしそのまま茫然とその場にたたずむクーラにどんな言葉をかけて良いか判らずそれだけを言う。

「あぁ…エリィ殿…」

「!」

 自分の方を振り返り所在なさげに苦笑するクーラに,エリィは不意を打たれて胸を締め付けられる。

「すみませんと言うべきか…お役に立てませんでと言うべきか…」

「ううん,そんな事ないです。結局大尉は,私たち全員の安全を守ってくれたもの…」

「そう言って頂けると,いくらか気が楽になります…」

「連中…龍戦士だったのか?」

 そこで遅れて近づいたノエルが割り込む。

「ええ…どうやらそのようです…というより」

 苦笑するクーラ。

「伝説の龍戦士を力尽くで連れ帰るという命令を遂行するような者が,龍戦士でないはずがないでしょう」

「てか,おかしいじゃねぇか」

「…おかしい?」

「お前さんがだよ。何でそんな連中とまともに渡り合えるんだよ?普通あり得ねぇだろ?」

 肩をすくめながら言うノエル。

「理由は解りませんが…彼女たちは龍戦士の力をほとんど全くと言って良いほど使っていなかったようです」

 でなければあの,ほぼ密着した状態でしか圧を感じなかった違和感が説明できない。

「連れ帰るのが目的だから,本気でやる必要が無かったってか。だがそれじゃ,本物の伝説の龍戦士相手じゃ瞬殺されるんじゃねぇのか?」

「早い段階でうすうす感づたのでしょう。こちらが龍戦士ではないと。だから本気にならずに終わった…」

「待てぃ」

 そこで今度はハーディが割り込む。

「向こうが本気かどうかはともかく,あれでも儂らから見たらじゅうぶんバケモノじゃ。常人の域は遥かに超えとる。それと渡り合ったお主もな」

「…私の方には,実はタネがありましてね…」

 また苦笑するクーラ。

「またそれか。今度は一体何じゃ」

「かねて用意していた対魔法用の戦術を,龍戦士相手に応用しただけなのです」

「対魔法…?なるほど,そういう事ですか…」

 ノーブルが納得したようにつぶやき,言葉を繋ぐ。

「目新しいものはない,という事ですね?大尉」

「ええ,残念ながらそうひょいひょいと新技は出ませんよ」

「何じゃい何じゃい,またいつものお約束か?自分たちだけで話を進めおってからに…」

「以前お話ししたと思いますが,私は日頃から魔力を充填することでいざという時に実力以上の力をふるう事ができます」

 むっとするハーディをなだめるようにクーラは言う。

「その技術を転用してですね…要は,相手の魔力を使って自分の能力を増強ブーストしたという事ですよ」

「なんと…!?」

「じゃぁ何か?あんなバケモノみたいな動きができたのは,相手がそれだけ強かったからって事かよ?」

 目を丸くするノエル。

「そういう事です。実際…あれだけの事をやれる魔力を自前で充填しようと思ったら一年はかかるかと…」

「ふむぅ…しかしそれなら,どんな相手ともやりあえるという事になるのかの?」

「いえ…残念ながらこの方法にはいくつか致命的な弱点があります,いえ…ある事が判りました」

 肩をすくめるクーラ。

「えっ?」

「ひとつは…まぁこれは,相手から加えられた力を蓄えるためまずそれを受けなければならないという性格上,当然の事なのですが…たまたま今回は相手が手加減して小出しにしてくれていたからこそ対応できたというだけの話で,龍戦士クラスが初めから本気で来たらその初めの一撃で終わってしまうだろう,という事がよく解りました」

「…確かにありゃあ,素でどうにかなるレベルの攻撃じゃねぇな…」

 ふーむ,と唸るノエル。 

「もうひとつ…技術的な問題で,どうしても蓄えられる力は加えられた力より少なくなってしまいます。相手が極端な攻撃偏重型か,あるいは私自身の力を加えてその損失分を補える程度であれば,それでも何とかなるのですが…少なくとも龍戦士クラス相手では,損失分の補填すら私には無理だと解りました」

「ふむぅ…」

 ハーディも唸る。

「で,さらにもうひとつ…龍戦士相手ではこれがもっとも致命的かも知れませんが…そもそも彼らの力を受けきるのは,どうやら物理的に限界のようです」

 言いながら,クーラは剣をかざして見せる。

「あ…」

 エリィは目を丸くする。最も深き迷宮で発見されたという触れ込みの,古代王国時代の業物らしい事を匂わせるその剣の根元には大きな亀裂が入っている。

「鎧の方も随分悲鳴を上げていましたので…砕けないよう当たり所をずらすのは骨が折れました」

「凄いのか凄くないのかよく分からんのう…」

 呆れるハーディ。

「伝説の龍戦士が佩くという触れ込みの,伝説の武具…でしたか?そんな最強クラスの武具でもない限りは,彼らの力には耐えきれないのかも知れません」

「現実問題としてはほぼ手詰まりですか…」

 つぶやくノーブル。彼は伝説の武具がいずれ劣らぬへそ曲がり揃いである事を知っていた。その所有者として認められるのは至難の業で,龍戦士クラスの器を持っていないとほぼ不可能と言っても良い。逆に言えば,龍戦士がそれらを佩いて目の前に立ちはだかる可能性の方が高いのだ。

「そういえば,ノーブル殿…気になったことがあるのですが」

 そこでクーラが言う。

「私の聞き間違いでなければ,彼女は確かに十二神光雷砲と言ったと思うのですが」

「え?確かそれって…ノーブルがマイシャの門を吹き飛ばした…」

「ええ。確かに私にもそう聞こえました」

 ふぅ,と溜息をついてノーブルは答える。

「…しかし?それは門外不出の呪文のはずでは…?」

「それに…ノーブルのあれとは全然違うんじゃ…」

「実はですね…アリシアに所蔵されてきた十二神光雷砲は,もともとはハイアムのシャルルが使っていたものなのです」

「な…!?」

 目を丸くするエリィ。

「といっても…完全に同じというわけではないのですがね。彼の十二神光雷砲を,その原理を真似て再現したものがアリシアのそれのようでして」

 ノーブルはそう言って言葉を繋ぐ。

「おそらくシャルルのそれは,彼が元居た世界の何かを再現した呪文なのでしょう。となれば,彼と同じ世界からやってきた者が同様の呪文を創出する可能性も低くはありません…」

「では,あれだけ撃ち方が違うのも…」

「ああ,いえ,それはですね…シャルルの十二神光雷砲にはもともと二通りの撃ち方があったらしいのですよ」

「えっ?」

「アリシアのそれが再現できたのはその片方…斉射形式だけでして。彼女が使ったのがおそらくはもう片方の…拡散形式なのでしょう」

「あれは…今思い出してもゾッとするな…」

 ぶるっと身震いするノエル。

「じゃのぅ…周囲から一斉に攻撃されるなどと…」

「大した威力でなかったのが幸いでした。もしかしたらあれは,本来は複数の相手を同時に足止めしたり牽制するのに使うのかも知れませんね」

「なるほど,言われてみれば確かに…」

 ふーむ,と考え込む仕草を見せるノーブル。

 アリシアに伝わる十二神光雷砲の斉射形式は,理屈としては対になった円盤の間で反射を繰り返す事により威力を増幅させている。彼女の使った拡散形式はその円盤をばらしているため,確かに威力はそれなりに留まりそうだ。

「おっ…フレイア。動いて大丈夫なのか?」

 そこでノエルがやってきたフレイアに声をかける。

「…大丈夫じゃなさそうだな…」

 しかしすぐに溜息をつくノエル。フレイアは普段の彼女からは考えられないほどに着衣が乱れている。

「うー…不覚だったわ…」

 頭を押さえながら言うフレイア。

「まさか刺客だったとはね…助かったわ,大尉さん」

「いえ…むしろ無用な被害に遭わせてすみません。もう少し早く気づいていれば…」

「仕方ないわよ…龍戦士だったんでしょ?むしろ大尉さんじゃなきゃもっと後手に回ってたわよ」

「そう言って頂けると助かります…」

 苦笑するクーラだが,内心は穏やかではなかった。結局それは,龍戦士の相手をするには力不足という事だ。

(…及ばない,か…確かに解ってはいた,解ってはいたが…)

 先ほどのレミーの言葉が蘇る。

「まぁともかく…もう帰還者を気にする必要はなさそうですね」

 ノーブルが言う。

「だな。とりあえず今夜はゆっくりしようぜ。後の事は,明日だ。本隊に合流してからでいい」

 ノエルが同調する。

「…」

 小さく溜息をつくクーラ。大きな転換点となる戦いは,すぐそこまで迫ってきていた。

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