44 僕の機嫌が悪い理由 ③
「調べてみたらあの馬鹿ボン、余罪が出てくる出てくる。その殆どが家の財力で揉み消されてるけど、大半が女柄みのトラブルだぜ。拘留期間中に出来るだけ洗い出すが、上の役人が買収されてるとしたら、騎士に引き渡した時点で奴を野放しにされかねん」
例のドラ息子の取り調べに当たった隊員の台詞だ。
一旦身柄が騎士団に移されれば警備隊の権限はいっさい通用しなくなる。
身分制度に従う以上、平民の役人風情が上級職の騎士に口出しすることはまず不可能に近いし、そもそも騎士の殆どが貴族階級の人間で占められていて、今回のように平民相手のトラブルの場合どうしても“身内”に甘い措置が取られがちだ。
僕としてはあの頭も下半身もユルい馬鹿ボンが無罪放免されるのは非常に不愉快でならない。
「……………………腐り落ちればいいのに」
。
何気無く呟いた途端、周囲にいた仲間が一斉にザッと退く気配がした。
昼日中の食堂の空気が一瞬にしてフリーズ。
「おまっ……何て恐ろしい台詞をっ…」
「……スォードの奴相当ストレス溜めてんなぁ。癒し担当はどうしたんだ?」
「…それがなー」
シュシュはこのところ暑さのせいか体調を崩して寝込む日が続いている。
元々あまり体力が無いから、少し弱るとすぐに起き上がれなくなってしまう。
「あの馬モドキがイライラしてしてんのもそのせいか」
ご名答。
南支部で既に中庭の住人と化したあの凶悪生物は、熱愛する小さな天翅の少女の姿が見えないことですっかりヤサグレて、近くを通り掛かる人間相手に微弱な電撃を飛ばすという地味な嫌がらせで八つ当たりをしている。
それも多少ビリッとする程度で命に別状はないし、元々南支部の連中には“慣れ”がある。
初めこそ飛天の存在にビビっていた隊員達も、現在ではごく自然にアレの活動領域を避けて行動する技が身に付いていた。
「…………だめだ。イライラする……」
こういうときは身体を動かすに限る。
思いっきりぶっ叩いたり、目一杯蹴り飛ばしたりの、血沸き肉踊る肉弾戦!
「誰か…手合わせしてく……」
言い終わる前に周りの席の奴等が一斉にガタリと立ち上がった。
「さ…さぁ、午後の見廻りに行くとするか!」
「え、あ。そうだな!俺も用事を思い出した」
「まだ…食事が途中なようだけど?それが終わったら是非――――」
「ああっ!急に持病の刺し込みが!」
「……手合わせを」
「そりゃイカン!すぐに医務室へ連れて行ってやろう。じゃ!そういうことで、お先に失礼!」
何故かいきなり僕の周りにドーナツ状の無人空間が生まれた。
何て友達甲斐の無い奴等なんだ。
気を取り直して辺りをぐるりと見渡せば、全員必死の面持ちで食事に集中している。
(((――――頼むから此方を見んな!)))
何故か異様に緊張感が漂っているように感じるのはどうしてだろう。
すると自分から少し離れた席に13番隊隊長のガレと14番隊隊長のクリムヒルトが向かい合って座っているのが目に入った。
二人ともまだ30代の男盛りで、しかもタイプの異なるマッチョ系。かなり体力はあると見た。
「――――ガレ隊長、クリムヒルト隊長」
「……お…おう」
「な…何かな?」
「手合わせしてください」
「………………………」
「………………………」
「最近誰も相手してくれないんで身体が鈍ってるんです」
「スォード、悪いが俺は自分の身がかわいい」
「大の男が尻の穴の小さい事言わないでくださいよ、ガレ隊長。ここはドンと胸を貸す場面でしょう」
「右に同じく、かな」
「クリムヒルト隊長まで」
「南支部で君の相手が務まるのはヴォルグくらいだろう」
「あの人は面倒臭いから嫌です。軽い手合わせでも全力で首を取りに来るんで、確実に仕留めないと自分が死にます」
もうヤダこいつら!とでも言わんばかりに隊長二人の目が天を仰ぐ。
―――――でも逃がさないし。




