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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第2章 異世界で生きる

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第9話 王都ルイ

 ガタン。


「…………」


 ガタン。


「…………」


 ガタン。


「……尻痛い」


 王都へ向かう荷馬車に乗って。


 最初に思ったことがそれだった。


「これ、みんな平気なの……?」


 木製の荷台。


 当然、クッションなんてない。


 道はアルヴェン村の周辺よりずっと整っている。


 それでも。


 揺れる。


 とにかく揺れる。


「馬車ってもっと優雅な乗り物だと思ってた……」


「何ぶつぶつ言ってんだ?」


 御者が振り返る。


「尻が痛いです」


「慣れろ」


「解決になってないですよ」


「降りて歩くか?」


「慣れます」


 即答した。


 御者が笑う。


「若いんだから平気だろ」


「またそれか……」


 この世界。


 若者に対する信頼が厚すぎる。


 ◇


 アルヴェン村を出て。


 景色は少しずつ変わっていった。


 最初は見慣れた農地。


 小麦畑。


 石垣。


 小さな集落。


 それが。


 王都へ近づくにつれて。


「……人増えてない?」


 すれ違う荷馬車が増えた。


 一台。


 二台。


 また一台。


 荷物を大量に積んだもの。


 人を乗せたもの。


 何頭もの馬で大きな荷台を引いているもの。


「全部王都行くんですか?」


「全部じゃねえよ」


 御者が答える。


「この先で街道がいくつか繋がる。王都から出る奴もいるし、他所へ向かう奴もいる」


「へえ……」


 街道。


 そう聞くと。


 本当に国の中を移動しているんだと実感する。


「…………」


 アルヴェン村にいた時。


 俺が見ていた世界は狭かった。


 村。


 畑。


 市場。


 宿。


 それだけ。


 でも。


 道を進むほど。


 人が増える。


 荷物が増える。


 知らない場所へ続く道が増える。


「……広いんだな」


「何が?」


「この国」


「今さらか?」


「俺、アルヴェンしか知らないんで」


「そういやそうだったな」


 御者は笑った。


 俺はまた外を見る。


「…………」


 この道の先に。


 王都がある。


 ◇


 昼。


 途中で休憩になった。


「はぁ……」


 荷馬車から降りる。


「地面最高……」


 腰を伸ばす。


「痛っ」


 身体が固まっている。


「馬車舐めてた……」


 旅人の何人かは普通にしている。


 慣れているんだろう。


 俺だけ。


 腰を叩いている。


「…………」


 十七歳なのに。


 水を飲む。


 アルヴェンで買った保存食を出す。


「…………」


 硬い。


「まあ、保存食だもんな」


 噛む。


 硬い。


「……顎鍛えられそう」


 でも。


 悪くない。


 木陰に座って食べながら、周囲を見る。


 旅人。


 商人。


 御者。


 荷物。


 馬。


 それぞれが休憩している。


「…………」


 旅。


 なんだな。


 これ。


 俺は今。


 異世界を旅している。


「……すげえな」


 思わず呟く。


 少し前まで。


 学校帰りに駅にいた。


 毎日同じ電車に乗って。


 同じ道を歩いて。


 同じ学校へ行っていた。


 それが今。


 知らない国の街道。


 荷馬車。


 王都へ向かっている。


「…………」


 人生。


 何があるか分からない。


「いや、限度あるだろ」


 自分で突っ込んだ。


 ◇


 休憩を終え。


 また進む。


 何時間か経った頃。


「おい、坊主」


「はい?」


「見えてきたぞ」


「え?」


 御者が前を指す。


 俺は荷台から身を乗り出した。


「…………」


 最初。


 何を見ているのか分からなかった。


 遠く。


 街道の先。


 地平線の向こうに。


 何か巨大なものがある。


「……あれ?」


 建物。


 一つじゃない。


「…………」


 近づく。


 少しずつ。


 輪郭が見えてくる。


「…………え」


 思わず立ち上がった。


「危ねえぞ」


「あ、すみません」


 座る。


 でも。


 目が離せない。


「……あれが?」


「ああ」


 御者が言った。


「王都ルイだ」


「…………」


 でかい。


 最初に出た感想は、それだった。


 ◇


 近づけば近づくほど。


 俺の想像していたものと違った。


「…………」


 アルヴェン村を。


 そのまま大きくしたような場所だと思っていた。


 違う。


 全然違う。


 建物の数。


 人。


 道。


 何もかも。


「すげ……」


 石造りの建物がいくつも並んでいる。


 一階建てばかりじゃない。


 二階。


 三階。


 それ以上ありそうな建物も見える。


 遠くには。


 周囲より明らかに巨大な建造物。


「あれ……」


 聞くまでもない気がした。


「王城だ」


 御者が言う。


「やっぱり」


 王様。


 本当にいるんだ。


「…………」


 今さらだけど。


 王国なんだから当たり前。


 それでも。


 城を見ると実感が違う。


「ゲームみたいだな……」


「げーむ?」


「何でもないです」


 最近。


 この返しが上手くなってきた気がする。


 ◇


 王都へ入る人の列に加わる。


「うわ……」


 人。


 多い。


 アルヴェン村とは比較にならない。


 商人。


 旅人。


 荷馬車。


 武器を持った人。


 鎧を着た人。


「…………」


 あれ。


 冒険者かな。


 勝手に想像する。


 剣を腰に下げている男。


 杖を持った女性。


 大きな盾を背負っている人。


「…………」


 目が忙しい。


 右。


 左。


 また右。


「坊主」


「はい」


「そんなキョロキョロしてると田舎者だと思われるぞ」


「田舎者ですらないんで大丈夫です」


「何だそりゃ」


 本当に。


 田舎から来たならまだいい。


 俺は別世界から来た。


 たぶん。


「…………」


 順番が来る。


 御者が手続きをする。


 俺は余計なことをせず待つ。


 少しして。


「行くぞ」


「はい」


 荷馬車が進む。


 そして。


 王都の中へ入った。


 ◇


「…………」


 言葉が出なかった。


 広い。


 街路。


 アルヴェン村の土の道とは違う。


 石で整えられている。


 その両側に。


 店。


 建物。


 人。


 人。


 人。


「……すご」


 商人の声。


 荷馬車の音。


 馬の足音。


 話し声。


 笑い声。


 どこかで金属を叩く音。


 食べ物の匂い。


「…………」


 目に入るものが多すぎる。


「あれ何だ」


 大きな建物。


「あっちも店?」


 看板。


 人だかり。


「……あ」


 魔法。


 通りの端で。


 荷物を動かしている男が魔法を使っている。


 今度は驚いて叫ばなかった。


「…………」


 でも。


 見る。


 やっぱり見る。


「普通に使ってる……」


 アルヴェンでも見た。


 それでも。


 王都では。


 もっと生活の中にあるように見えた。


「…………」


 面白い。


 純粋に。


 ◇


「うわっ」


 前から来た人を避ける。


「すみません」


 また別の人。


「すみません」


「朝陽」


 御者に呼ばれる。


「はい?」


「お前、降りる場所決めてんのか?」


「…………」


 忘れてた。


「冒険者ギルド行きたいです」


「ならこの先で降りろ」


「分かりました」


「宿は?」


「まだです」


「先に取っといた方がいいぞ」


「やっぱり?」


「日が落ちてから探すと面倒だ」


「…………」


 どうしよう。


 ギルド。


 宿。


「ギルドで聞けば宿とか教えてくれます?」


「そりゃ教えてくれるだろ」


「じゃあ先にギルド行きます」


「そうしろ」


 少しして。


 荷馬車が止まる。


「ここまでだ」


「はい」


 荷物を持つ。


 地面へ降りる。


「ありがとうございました」


「おう」


「尻は死にましたけど」


「帰りには慣れてるさ」


「帰るか分かんないですけどね」


「そうか」


 御者が笑う。


「じゃあな、坊主」


「はい」


 荷馬車が走り出す。


「…………」


 一人。


 王都の真ん中。


 いや。


 真ん中かどうかすら分からない。


「…………」


 人、多いな。


 急に心細くなった。


 ◇


「とりあえず……」


 鞄を持ち直す。


「ギルド」


 場所は御者から聞いた。


 大きな通りを進む。


「…………」


 それにしても。


 すごい。


 中央へ進むほど。


 店が増える。


 食事処。


 服。


 武器。


 防具。


 道具。


「武器屋……」


 思わず立ち止まる。


 店先に剣が並んでいる。


「本物?」


 当たり前だ。


 この世界。


 魔物がいるんだから。


「…………」


 欲しい。


 いや。


 使えない。


 剣なんて持ったことない。


「俺が持っても自分切りそう」


 やめよう。


 先へ進む。


「…………ん?」


 また立ち止まる。


 今度は。


 人。


 でも。


「…………」


 耳。


 頭の上。


「え?」


 通りの向こうを歩いている。


 人間。


 に見える。


 でも。


 頭に。


 動物みたいな耳がある。


「…………」


 見間違い?


 目を凝らす。


 尻尾。


「…………!」


 獣人。


 老人から聞いた。


 本当にいる。


「うわ……」


 見すぎた。


 その人がこちらを見る。


「……!」


 慌てて目を逸らす。


「すみません……」


 聞こえてない。


 たぶん。


「…………」


 心臓が速い。


「本当にいるんだ……」


 エルフも。


 魔族も。


 本当にいるのかもしれない。


「…………」


 見たい。


 すごく見たい。


 でも。


 じろじろ見るのは失礼だ。


「気をつけよ……」


 俺だって。


 制服を見て散々「変」と言われた。


 あれと同じだ。


 ◇


 さらに歩く。


「…………」


 建物。


 人。


 店。


 情報量が多い。


 アルヴェン村が。


 本当に小さな村だったんだと分かる。


「王都……」


 楽しい。


 ちょっと。


 いや。


 かなり。


 でも。


「金……」


 財布を確認する。


 現実に戻る。


「使いすぎたら終わる」


 宿。


 飯。


 必要なら服。


 仕事が見つかるまで。


 どれくらいかかるか分からない。


「観光は後だな」


 自分に言い聞かせる。


 まず。


 生きる。


 それが先。


 ◇


「…………」


 ようやく。


 目的の建物らしきものを見つけた。


「ここ?」


 大きい。


 人の出入りも多い。


 武器を持った人。


 鎧を着た人。


 普通の服の人。


 色々。


「…………」


 緊張してきた。


 冒険者ギルド。


 ゲームなら。


 主人公が最初に行く場所。


 そこで登録して。


 依頼を受けて。


 魔物を倒して。


 金を稼ぐ。


「…………」


 でも。


 俺。


 普通の高校生なんだよな。


 魔物なんて倒したことない。


 喧嘩だってほとんどしたことない。


「大丈夫か?」


 自分に聞く。


 分からない。


「…………」


 でも。


 仕事は必要。


 情報も欲しい。


 魔法のことも知りたい。


 遺跡について調べるにも。


 まずは。


 この世界で動けるようにならないと。


「……行くか」


 扉へ手をかける。


 一瞬。


 止まる。


「…………」


 アルヴェン村に入った時とは違う。


 あの時は。


 何も分からなくて。


 ただ助けを求めた。


 今は。


 自分から来た。


 ここへ。


「よし」


 扉を開ける。


 ◇


 ざわっ。


「…………」


 中。


 広い。


 人が多い。


 正面に受付。


 壁には大量の紙。


 テーブル。


 椅子。


 装備を身につけた人たち。


 笑っている奴。


 真剣な顔で話している奴。


 傷だらけの鎧を着た奴。


「…………」


 本当に。


 冒険者ギルドだ。


「すげ……」


 小さく呟く。


 その時。


「ご用件をどうぞ」


「え?」


 声。


 正面。


 受付にいた女性が俺を見ていた。


「…………」


 綺麗な人だ。


「どうされました?」


「あ」


 見惚れている場合じゃない。


「すみません」


 受付へ近づく。


「えっと……」


 何と言えばいい。


 仕事が欲しい。


 魔法を知りたい。


 この世界のことも。


 遺跡のことも。


 日本へ帰る方法も。


 聞きたいことは山ほどある。


 でも。


 まずは。


「冒険者に」


 一度言葉を切る。


「冒険者になりたいんですけど」


 受付の女性が微笑んだ。


「新規登録ですね」


「はい」


 答える。


 こうして。


 知らない世界へ放り出された俺は。


 ようやく。


 この世界で生きるための、


 最初の場所へ辿り着いた。

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