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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第2章 異世界で生きる

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第10話 冒険者

「冒険者になりたいんですけど」


 俺がそう言うと、受付の女性は慣れた様子で頷いた。


「新規登録ですね」


「はい」


「では、こちらへどうぞ」


 促されるまま、受付の前に立つ。


「…………」


 改めて周囲を見る。


 剣。


 槍。


 杖。


 鎧。


 明らかに戦うための装備を身につけた人たちが、そこら中にいる。


 掲示板らしき場所には大量の紙。


 テーブルを囲んで話している集団。


 受付で何かを受け取っている人。


 奥へ入っていく人。


「…………」


 やっぱり。


 場違いじゃない?


 俺。


「どうされました?」


「あ、いや」


 受付へ向き直る。


「何でもないです」


「そうですか」


 綺麗な笑顔。


「では最初に、冒険者について簡単にご説明しますね」


「お願いします」


「冒険者にはランクがあります」


「ランク」


「はい。下からF、E、D、C、B、A、Sの七段階です」


「七段階……」


 分かりやすい。


「最初は?」


「原則としてFランクからになります」


「ですよね」


 いきなりAとか言われても困る。


「ランクは依頼の達成数だけで決まるものではありません。成功率、実戦経験、ギルドからの評価などを含め、総合的に判断されます」


「じゃあ、強ければ上がれるってわけじゃない?」


「はい」


 受付の女性が頷く。


「冒険者は依頼人から仕事を請け負う立場でもありますから。どれほど腕が立っても、信用できない方を高ランクに認定することはできません」


「ああ……」


 なるほど。


 冒険者。


 なんて言うと特別に聞こえるけど。


 要するに。


 仕事なんだ。


「Cランクで一人前と呼ばれることが多いですね」


「Cで?」


「はい。Bランク以上になれば有力な冒険者として扱われます。A、Sともなれば上位層ですね」


「…………」


 遠いな。


 というか。


「俺、Fで大丈夫です」


「皆様そこからですよ」


「ですよね」


 まず。


 生きる。


 話はそこからだ。


 ◇


「それでは、お名前をお願いします」


「真白朝陽です」


「マシロ・アサヒ様」


「はい」


「性別は男性。年齢は?」


「十七です」


「出身は?」


「…………」


 来た。


 毎回困る質問。


「日本です」


「ニホン?」


「はい」


 受付の女性が少し考える。


「申し訳ありません。私の知識にはない地域ですね」


「ですよね」


 もう。


 この反応にも慣れてきた。


「かなり遠いところだと思ってください」


「国外でしょうか?」


「…………たぶん」


「たぶん?」


「あー……」


 やった。


「色々ありまして」


「…………」


 笑顔は崩れていない。


 でも。


 絶対怪しいと思われた。


「身分を証明できるものはお持ちですか?」


「身分証……」


 ある。


 一応。


「これなら」


 財布から学生証を取り出す。


「俺の国の身分証みたいなものです」


「確認してもよろしいですか?」


「はい」


 渡す。


 受付の女性が表を見る。


 裏を見る。


「…………」


「学校に通ってる人間が持つものです」


「学生であることを証明するものですか?」


「そんな感じです」


「なるほど」


 もう一度確認して。


 返される。


「申し訳ありませんが、こちらを当ギルドで正式な身分証として扱うことはできません」


「ですよね」


 知ってた。


「でも、登録は?」


「可能です」


「よかった……」


 本気で安心する。


「いくつか確認事項が増えるだけです」


「お願いします」


「犯罪歴はありますか?」


「ないです」


「他の冒険者ギルドで登録した経験は?」


「ないです」


「現在、他の組織に所属していますか?」


「してません」


「冒険者としての実務経験は?」


「ないです」


「魔物との戦闘経験は?」


「ないです」


「武器の使用経験は?」


「ないです」


「…………」


「…………」


 受付の女性と目が合う。


「何です?」


「いえ」


「今、何もできない奴来たなって思いました?」


「思っていませんよ」


「ちょっと間があったんですけど」


「気のせいです」


「本当に?」


「はい」


 笑顔。


「…………」


 強いな。


 この人。


 ◇


「ご安心ください。冒険者になるために戦闘経験が必須というわけではありません」


「そうなんですか?」


「はい。冒険者の仕事は魔物の討伐だけではありませんから」


「採取とか?」


「ご存じなんですね」


「村で少し聞きました」


「でしたら話が早いですね」


 受付の女性が頷く。


「荷運び、採取、護衛、探索の補助など、様々な依頼があります」


「なるほど」


「もちろん、冒険者ランクによって受注できる依頼には制限があります」


「じゃあ俺がいきなり危ない魔物を倒しに行くとかは?」


「できません」


「よかった」


 即答した。


 死にたくない。


 普通に。


「まずはご自身にできる依頼から始めてください」


「そうします」


「では、登録を進めますね」


「はい」


 受付の女性が手続きを進める。


「登録完了後、冒険者カードを発行します」


「冒険者カード?」


「はい。冒険者としての身分証になります」


「身分証……」


 それは。


 かなり助かる。


「じゃあ、それがあれば俺も身元不明じゃなくなる?」


「少なくとも、冒険者ギルドに正式登録された人物であることは証明できます」


「おお……」


 この世界へ来てから。


 俺はずっと。


 どこの誰かも分からない人間だった。


 真白朝陽。


 十七歳。


 日本人。


 高校生。


 俺にとっては。


 ずっと当たり前だったもの。


 でも。


 この世界では。


 誰もそれを知らない。


「…………」


 冒険者。


 それが。


 この世界で初めて手に入れる肩書きになる。


 ◇


「お待たせしました」


「はい」


「こちらが冒険者カードです」


 差し出されたカードを受け取る。


「…………」


 これが。


「名前……」


 真白朝陽。


「性別、男。年齢、十七……」


 そして。


「ランク、F」


「はい。本日からFランク冒険者となります」


「…………」


 冒険者。


 俺が。


「実感ないな……」


「最初は皆様そうですよ」


「そうなんですか?」


「はい」


 カードを見る。


 名前。


 性別。


 年齢。


 そしてランク。


 もう一つ。


「……所持金?」


 見慣れない項目。


 数字は。


「ゼロ?」


「現在、ギルドに預けられているお金がありませんので」


「預ける?」


 受付の女性を見る。


「お金、ここに預けられるんですか?」


「はい」


「銀行みたいなこともしてるの?」


「ギンコウ?」


「あ……」


 また。


 こっちにない言葉。


「お金を預けて、必要な時に引き出す場所です」


「でしたら似ていますね」


「へえ……」


 すごいな。


 冒険者ギルド。


 仕事の仲介だけじゃないんだ。


「冒険者の方は移動が多いですから。多額の現金を常に持ち歩くのは危険です」


「ああ」


 それは分かる。


 魔物以前に。


 盗まれる可能性もある。


「ギルドへ預けたルクスは、この項目で確認できます」


「じゃあ、この所持金って」


「ギルドへの預金残高ですね」


「なるほど」


 今は。


 ゼロ。


「…………」


 ちょっと悲しい。


 ◇


「お手持ちのルクスを預けますか?」


「え?」


 財布を見る。


 アルヴェンで働いて稼いだ金。


 旅費。


 服。


 食料。


 移動。


 色々使って。


 かなり減った。


「…………」


 でも。


 全部持ち歩く必要もないのか。


「預けたら、使う時はここまで戻ってくるんですか?」


「いえ」


「違う?」


「冒険者カードで直接支払いができます」


「…………」


 止まる。


「直接?」


「はい」


「このカードで?」


「はい」


「店で?」


「対応している店舗であれば」


「…………」


 カードを見る。


「クレジットカードじゃん」


「はい?」


「何でもないです」


 異世界。


 急に便利。


「どうやって?」


「支払いの際に冒険者カードを提示してください。対応している店舗であれば、預金から代金が支払われます」


「…………」


 すご。


「じゃあ現金持ち歩かなくていい?」


「いえ」


「違うんですか?」


「すべての店舗が対応しているわけではありません」


「あ」


「特に小規模な商店や露店、地方などでは現金のみという場合もあります」


「…………」


 アルヴェン村を思い出す。


 市場。


 果物屋。


 小さな店。


「確かに」


「ですので、必要な分の現金は携帯しておくことをおすすめします」


「なるほど……」


 カード。


 現金。


 両方持つ。


「それが普通?」


「冒険者の方はそうですね」


「へえ……」


 面白い。


 魔法。


 剣。


 魔物。


 そんな世界なのに。


 こういうところは妙に便利だ。


「預けます」


「全額ですか?」


「いや」


 考える。


「少し現金で残します」


「かしこまりました」


 財布の中から。


 当面必要そうな分を残す。


 残りを渡す。


 手続き。


 そして。


「カードをご確認ください」


「はい」


 見る。


「……増えてる」


 所持金の数字が変わっている。


「おお……」


 思わずカードを近づける。


「すげえ」


「珍しいですか?」


「めちゃくちゃ」


「ニホンにはありませんか?」


「似たようなのはあります」


「では何が珍しいのでしょう」


「…………」


 確かに。


「異世界で見ると不思議なんですよ」


「イセカイ?」


「忘れてください」


「先ほどから、それが多いですね」


「すみません」


 ◇


 学生証。


 財布。


 日本円。


 そして。


 冒険者カード。


「…………」


 並べて見ると。


 変な感じだ。


 昨日まで。


 いや。


 少し前まで。


 俺を証明するものは。


 この学生証だった。


 今は。


 もう一枚。


 増えた。


「真白朝陽。十七歳。男。Fランク……」


「間違いありませんか?」


「はい」


「紛失には十分ご注意ください」


「絶対なくしません」


 財布へ入れる。


 学生証の隣。


「…………」


 日本の俺と。


 この世界の俺。


 同じ財布の中にいる。


 少しだけ。


 変な気分だった。


 ◇


「それでは、依頼についてご説明します」


「はい」


 受付の女性が壁を指す。


 大量に貼られた紙。


「あちらが依頼票です」


「やっぱり」


「冒険者ランクによって、受注できる依頼が異なります」


「俺はF」


「はい。Fランクの方はこちらです」


 教えてもらう。


 受付を離れ。


 掲示板の前へ。


「…………」


 見る。


 荷運び。


 店の手伝い。


 清掃。


 採取。


 その他。


「…………」


 アルヴェンとあんまり変わらない。


 冒険者。


 もっとこう。


 剣を持って。


 魔物を倒して。


 みたいな。


「…………」


 いや。


 できないけど。


「魔物討伐ないな……」


 小さく呟く。


「当然ですよ」


「うわっ」


 いつの間にか受付の女性が近くにいた。


「びっくりした……」


「魔物討伐をご希望ですか?」


「いや!」


 即座に否定。


「死にたくないんで!」


「でしたらまず経験を積んでください」


「はい……」


 笑われた。


「でも」


 依頼票を見る。


「いつかはできる?」


「もちろん」


「…………」


 魔物。


 怖い。


 でも。


 見たこともない。


「魔法も覚えたいしな……」


「魔法に興味がおありですか?」


「あります」


 即答。


「めちゃくちゃ」


「でしたら、基礎から学ばれるとよいかもしれませんね」


「どこで?」


「方法はいくつかあります」


「ギルドでも教えてもらえます?」


「基礎的な案内でしたら」


「本当に?」


 思わず声が大きくなる。


「はい」


「お願いします」


「今からですか?」


「できれば」


「…………」


 受付の女性が笑った。


「随分お好きなんですね」


「俺のいたところには魔法なかったんで」


「そうでしたね」


「使えるなら絶対使ってみたいです」


 これは。


 帰る方法とは関係ない。


 ただ。


 やってみたい。


 火。


 水。


 風。


 この前見た。


 あの魔法。


「…………」


 俺にもできるのかな。


 考えるだけで。


 少しワクワクする。


 ◇


「その前に」


「はい?」


「本日の宿は決まっていますか?」


「…………」


 忘れてた。


「決まってないです」


「でしたら先に確保された方がよろしいかと」


「ですよね……」


 王都に着いて。


 そのままギルドへ来た。


「近くに安いところあります?」


「いくつかありますよ」


「助かります」


「それと」


「はい」


「今後も王都で活動されるのでしたら、まずは依頼を一つ受けてみてはいかがでしょう」


「依頼……」


 もう一度。


 掲示板を見る。


 冒険者になった。


 カードも手に入れた。


 でも。


 登録しただけ。


「…………」


 仕事。


 しないと。


 金は増えない。


 宿にも泊まれない。


 飯も食えない。


「やります」


「では、ご自身で選んでみてください」


「自分で?」


「はい」


「おすすめとかないんですか?」


「ありますが」


「じゃあそれで」


「まずはご自分で見てください」


「…………」


 笑顔。


「意外と厳しいですね」


「冒険者ですから」


「……はい」


 掲示板へ向き直る。


 ◇


 たくさんある。


「荷運び……」


 できる。


 アルヴェンで散々やった。


「店の掃除……」


 できる。


「採取……」


 これは。


 知らない植物だったら無理。


「…………」


 考える。


 報酬。


 場所。


 時間。


 内容。


 今の俺でもできるか。


「…………」


 こういうの。


 ちょっと楽しいな。


 アルバイトを探すのとは。


 少し違う。


 でも。


 似ている。


「これ……」


 一枚。


 気になる依頼を見つける。


 手を伸ばす。


 止まる。


「…………」


 大丈夫か?


 内容を見る。


 もう一度。


 確認。


「……これなら」


 できると思う。


 たぶん。


 依頼票を外す。


 受付へ持っていく。


「これ、受けたいです」


「確認しますね」


 受付の女性が依頼票を見る。


「はい。Fランクでも受注可能です」


「よかった」


「初めての依頼になりますが、よろしいですか?」


「はい」


 一度。


 自分の冒険者カードを見る。


 F。


 一番下。


 何もしていない。


 何もできない。


 それでも。


 始める場所はできた。


「お願いします」


「承りました」


 手続きが進む。


 俺はカードを握る。


 真白朝陽。


 十七歳。


 高校生。


 そして。


 今日から。


 Fランク冒険者。


 英雄になりたいわけじゃない。


 世界を救いたいわけでもない。


 強くなりたい理由だって。


 今はまだない。


 ただ。


 飯を食うため。


 宿に泊まるため。


 この世界を知るため。


 そして。


 いつか。


 日本へ帰る方法を探すため。


「…………よし」


 まずは。


 生きる。


 俺は冒険者として初めての依頼を受け取った。

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