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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【獣王国ディアナ編】第4章 大獣技場

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第89話 腹が減っては

 次が、最後だ。


 そう思って立ち上がったところで、場内に声が響いた。


『決勝戦は休憩を挟んで行います! 選手の両名は開始時刻までに控え室へお戻りください!』


「……休憩?」


 思わず足を止める。


 てっきりこのまま決勝までやるものだと思っていた。


 周りを見れば、観客たちも次々と席を立ち始めている。


 試合場では係員たちが整備を始めていた。


 俺とセレーネの試合で散々荒らした後に、ゴクウとジンまで暴れたんだ。


 確かに、このまま決勝というわけにもいかないか。


「朝陽」


「ん?」


「休める」


「ああ」


 それはありがたい。


 正直、身体はまだ重い。


 セレーネとの試合で使った魔力も、完全に戻っているとは言い難かった。


 決勝の相手はゴクウ。


 少しでも休めるなら、その方がいい。


「なら、一度外に出るか」


 シウンも席を立つ。


「そうだな」


 俺も頷いて――


 ぐぅ。


「……」


 腹が鳴った。


 思っていたより、でかい音で。


「……」


 セレーネがこっちを見る。


「見るな」


「見てない」


「見てるだろ」


「見てる」


「どっちだよ」


 シウンが俺の腹を見る。


「腹が減ったのか?」


「聞こえてたなら聞くなよ……」


 試合中は全然気にならなかったのに、一度自覚すると駄目だった。


 腹が減った。


 めちゃくちゃ減った。


 考えてみれば、朝からずっと大会にかかりきりだ。


 試合も二つやった。


 そりゃ腹も減る。


「飯にするか」


「賛成だ」


 シウンが即答する。


「わたしも」


 セレーネも続いた。


「決まりだな」


「オイラも混ぜてくだせえよ」


「うわっ!」


 いつの間にか後ろにいたミニムスに声を上げる。


「お前いつ来たんだよ!」


「ついさっきですぜ」


「普通に声かけろよ……」


「かけたでしょうが」


「背後から急に喋るなって言ってんの」


「細けえ旦那ですなぁ」


「お前が言うな」


 まあいい。


 四人で観客席を出る。


 通路にも、同じように休憩へ向かう観客が溢れていた。


 あちこちから聞こえてくるのは、やっぱり試合の話ばかりだ。


 ゴクウとジンの再戦。


 セレーネとの準決勝。


 そして、これから始まる決勝。


 その中に。


「……七属性……」


「……二人とも……」


 そんな言葉が混じっているのが聞こえた。


 俺は聞こえなかったことにした。


 今は。


 飯だ。


     ◇


 大獣技場の外へ出た瞬間、いろんな匂いが一気に押し寄せてきた。


「おお……」


 肉の焼ける匂い。


 魚。


 甘いもの。


 何かを揚げている香ばしい匂い。


 通りの両側には屋台がずらりと並び、朝よりも明らかに人が増えていた。


「祭りって明日からだよな?」


「そうですぜ」


 ミニムスが人混みの先を見る。


「武闘獣杯がありますからな。祭り前から人は集まってくるんでさぁ」


「これで前日かよ……」


 明日からどうなるんだ。


 ただでさえ歩くのも大変なのに。


「朝陽」


 袖を引かれる。


「ん?」


 セレーネが一軒の屋台を見ていた。


 肉。


 串に刺さった、大きな肉。


「……食べたい?」


「別に」


「じゃあ行くか」


「うん」


「食べたいんじゃん」


 屋台へ向かう。


 俺も同じものを頼んだ。


 シウンは――


「三つ」


「お前そんな食うの?」


「腹が減っている」


「いや、いいけど」


 そうだった。


 こいつ、食うんだった。


「オイラも一つ」


「自分で払えよ」


「旦那、決勝進出祝いに――」


「自分で払え」


「ケチですなぁ」


「なんで俺がお前に奢るんだよ」


「決勝進出できたのはオイラの応援あってこそでしょう?」


「お前、賭けの心配しかしてなかっただろ」


「心の中では応援してましたぜ?」


「便利な心だな」


 それぞれ肉を受け取る。


 近くに空いている場所を見つけ、腰を下ろした。


「……うま」


 一口。


 肉汁。


 塩気。


 身体が一気に食べ物を欲しがっているのが分かる。


 気づけば二口、三口と進んでいた。


「朝陽」


「ん?」


「早い」


「腹減ってんだよ」


「わたしも」


 そう言いながら。


 セレーネも結構な速さで食べている。


「お前も早いじゃん」


「普通」


「俺も普通」


「朝陽は早い」


「なんでだよ」


 隣ではシウンが一本目を食べ終えていた。


「シウンの方が早いだろ」


「む?」


「もう一本なくなってるじゃん」


「美味いからな」


「……なんか平和だな」


 ついさっきまで。


 こいつはゴクウと戦っていた。


 俺はセレーネと魔法を撃ち合っていた。


 その後にはゴクウとジンが暴れ回って。


 次は。


 俺とゴクウ。


 なのに。


 今は四人で肉を食ってる。


「大会って、こんな感じなんだな」


「何がだ?」


「いや」


 シウンに聞かれて。


 少し考える。


「もっとずっと緊張してるもんだと思ってた」


「緊張していないのか?」


「してるよ」


 もちろん。


 決勝だ。


 相手は去年の優勝者。


 シウンにも。


 ジンにも。


 勝った。


 考えれば考えるほど、簡単な相手じゃない。


「でも」


 一口。


 肉を食べる。


「腹は減るんだなって」


 シウンが一瞬黙る。


 それから笑った。


「当たり前だろう」


「だよな」


「食える時に食っておけ。戦うなら尚更だ」


「分かりましたよ」


「うむ」


 なんだろう。


 すごく普通のことを言われてるだけなのに。


 妙に納得した。


「それで旦那」


 ミニムスが串を片手に口を開く。


「勝てそうなんですかい?」


「ゴクウ?」


「他に誰がいるんです」


「……分からん」


「即答ですな」


「分かるわけないだろ」


 さっきの試合を思い出す。


 ゴクウは。


 ジンより力が強かったわけじゃない。


 シウンより頑丈だったわけでもない。


 それでも勝った。


「強いんだよな」


「強いぞ」


 シウンが言う。


「実際に戦ったわたしが保証しよう」


「嫌な保証だな……」


「あやつは、こちらが何をするかよく見ている」


「うん」


「そして、こちらがこうしたいと思った時には、既にそこへ何か置いてある」


「……それ」


 ジンとの試合も。


 そうだった。


 追わせる。


 警戒させる。


 狙わせる。


 その全部が。


 後になって罠へ繋がっていた。


「ジンも言ってたんだよな」


「何を?」


「自分から勝ちに行くなって」


 シウンが少し考える。


「なるほどな」


「分かる?」


「何となくだが」


「教えて」


「嫌だ」


「なんで!?」


「お主が戦うのだろう?」


「そうだけど!」


「なら自分で考えろ」


「急に師匠みたいなこと言うじゃん……」


「わたしは一度負けているからな」


 シウンは残った串を食べながら続ける。


「わたしの答えを聞けば、お主も同じところを見る。それでは意味がない」


「……」


 確かに。


「たまにすげえまともなこと言うよな」


「たまにとは何だ」


「痛い痛い痛い!」


 頭を掴まれた。


「やめろって! 試合前!」


「なら余計なことを言うな」


「分かった! 分かったから!」


 離された。


 頭を押さえる。


「ったく……」


「自業自得」


「セレーネまで……」


 でも。


 少し。


 頭が軽くなった。


 ゴクウにどう勝つ。


 何をする。


 ずっとそればかり考えそうになっていた。


 けど。


 今ここで答えが出るなら。


 シウンも。


 ジンも。


 あんなに苦戦してない。


「……見ればいいか」


「ん?」


「いや、こっちの話」


 ゴクウが。


 俺を見るなら。


 俺も見る。


 何をしてくるのか。


 どう動くのか。


 その時。


 考える。


 俺が今までやってきたのも。


 結局。


 それだ。


「旦那」


「ん?」


「もう一本食います?」


「食う」


「即答」


「腹減ってんだよ」


 受け取ろうと手を伸ばす。


 ミニムスが引っ込めた。


「金」


「……」


「世の中、何事もタダじゃありませんぜ?」


「お前さあ……」


「冗談ですって」


 渡される。


「珍しいな」


「何がです?」


「お前が奢るの」


「決勝進出祝いですぜ」


「さっき俺に奢らせようとしてなかった?」


「気のせいでしょう」


「絶対違う」


 それでも。


 肉は受け取った。


「ありがと」


「どういたしまして」


 食べる。


 うまい。


 結局。


 その後もしばらく。


 俺たちは普通に飯を食った。


 大会の話をしたり。


 明日からの祭りの話をしたり。


 ミニムスがまた金の話をして。


 シウンが別の屋台を見つけて。


 セレーネが甘いものを見て足を止めたり。


 気づけば。


 試合のことを考えていない時間の方が長かった。


 それでいいのかもしれない。


 腹も満たされた。


 身体の重さも。


 さっきよりはマシになっている。


 少しずつ。


 魔力も戻ってきた。


 やがて。


 大獣技場の方から鐘の音が聞こえた。


「……そろそろか」


 立ち上がる。


 セレーネも。


 シウンも。


 ミニムスも。


 こっちを見る。


「朝陽」


「ん?」


「勝ってこい」


 シウン。


 短い。


「おう」


「旦那」


「何?」


「勝ってくだせえよ」


「……金?」


「金」


「お前ほんとブレないな」


「冗談ですぜ」


「今の絶対本音だろ」


「半分くらいは応援してます」


「半分かよ!」


 最後。


 セレーネ。


「朝陽」


「うん」


「頑張って」


「……おう」


 それだけ。


 でも。


 十分だった。


 大獣技場を見る。


 あの中に。


 ゴクウがいる。


 去年の優勝者。


 シウンを倒して。


 ジンを倒して。


 今年も。


 最後まで残った男。


 勝ち方は。


 まだ分からない。


 だから。


 今はそれでいい。


「じゃあ」


 一度。


 息を吐く。


「行ってくる」


 決勝へ向かった。

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