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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第5章 違う道

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第47話 旅立ちの前に

「……で、どこ行くの?」


王城を出てしばらくしてから、セレーネが聞いてきた。


「それなんだよな」


「決めてないの?」


「行きたい場所はあるんだよ。一応」


「どこ?」


「王都の外」


「広い」


「分かってるよ」


さっきまであれだけ格好つけて話していたのに、いざ具体的な話になるとこれである。


自分で選んだ道を進む。


それ自体は本気だ。


ただ、その道がどっちに伸びているのかまでは決めていなかった。


「とりあえず宿戻ろう。荷物もあるし」


「うん」


王城から宿へ向かう。


ここ数日は瑞輝たちと一緒にいる時間が長かったせいか、二人で歩く王都が少し久しぶりに感じた。


でも、こっちが俺にとっての半年間の日常だった。


見慣れた通りを歩いて、宿に帰って。


依頼があればギルドへ行く。


腹が減ったら適当な店に入る。


最初は何をするにも怖かった王都も、今では道に迷うことすらほとんどない。


そう考えると。


「……ほんとに出るんだな」


「なにが?」


「王都」


セレーネが俺を見る。


「出たくない?」


「いや」


俺は首を振った。


「出たい」


ここにいれば生活には困らない。


冒険者として依頼を受けながら暮らしていくこともできるし、瑞輝たちだっている。


王女様から世界のことを教えてもらうこともできる。


半年前の俺なら、多分そっちを選んでいた。


知っている場所にいて、知っている人の近くで生きる。


その方が怖くないから。


でも今は、それ以上に見てみたいものが増えた。


「じゃあ、どこ行く?」


「だからそれを今から決めるんだって」


「遅い」


「うるさいな」


セレーネが少しだけ笑った。


宿へ戻ると、部屋の机に地図を広げた。


王女様から世界の話を聞いている間、何度も見せてもらったものだ。


現在地はバルカン王国。


そこから先へ視線を動かしていく。


「セレーネは行きたいところないの?」


「ない」


「即答だな」


「朝陽は?」


「あるなら悩んでない」


「じゃあ、どこでもいい」


「一番困る答えだ、それ」


俺たちの旅には、最初から明確な目的地があるわけじゃない。


俺がどうしてこの世界へ来たのか。


セレーネがどうしてあの遺跡で石像になっていたのか。


あの夢は何なのか。


戦っている時、時々自分でも知らない動きをするのはなぜなのか。


知りたいことはいくらでもある。


問題は、どこへ行けば答えがあるのか分からないことだ。


「……手掛かりなさすぎるな」


「うん」


「なんかない?」


「ない」


「もうちょい考えてよ」


「考えてる」


絶対考えてない。


俺は地図へ視線を戻した。


答えがどこにあるのか分からない。


だったら、自分たちで探すしかない。


少なくとも王都で本を読んでいるだけじゃ、この世界の全部を知ることなんてできない。


王女様から色々教えてもらったからこそ、それはよく分かった。


「まず、バルカンを出よう」


「うん」


「それで……こっちかな」


地図の上を指でなぞる。


バルカン王国から、その先へ。


獣王国ディアナ。


人間だけではなく、様々な獣の特徴を持つ者たちが暮らす国。


王女様から聞いた話では、バルカンとは文化も街並みも大きく違うらしい。


「瑞輝たちが最初の任務で向かったのも、この辺だったよな」


「そう言ってた」


「だったら、初めて国外に出るにはちょうどいいか」


セレーネが地図を見る。


「ディアナ?」


「うん」


獣王国ディアナ。


口にしただけで、少しだけ胸が高鳴る。


この世界へ来て半年。


初めて、自分から国境の外へ向かう。


「ここにしよう」


「分かった」


「軽いな」


「朝陽が決めるって言った」


「そうだけど」


「自分で選んだ」


「……そうだな」


俺は地図を畳んだ。


行き先が決まれば、次は旅支度だ。


保存の利く食料。


水。


野営に必要なもの。


薬。


着替え。


その他にも必要そうなものを挙げていくと、思っていた以上の量になった。


今までの依頼なら、王都を数日離れる程度でよかった。


今回は違う。


いつ戻ってくるかも決めていない。


必要なものを買い揃えながら、俺は背中の大剣へ目をやった。


「……やっぱり、これもどうにかするか」


「やっと?」


セレーネが言う。


「やっとってなんだよ」


「ずっと戦いづらそうだった」


「使えるようにはなったんだよ」


「ガイウスはもっと使えてた」


「ガイウスは、だろ?」


「うん」


相変わらず容赦がない。


でも、言っていることは間違っていなかった。


ガイウスに教えてもらってから、ずっとこの大剣を使ってきた。


最初の頃とは比べものにならないくらい扱えるようにもなった。


それでも、セレーネと戦うようになってから余計に感じる。


俺には少し重すぎる。


魔法を使いながら戦うにも、取り回しが悪い。


何より、この先ずっと歩いて旅をするなら、背負っているだけでも邪魔になる。


「武器屋行くか」


「うん」


「なんか嬉しそうじゃない?」


「気のせい」


絶対嬉しそうだった。


以前にも一度立ち寄った武器屋へ入る。


壁には剣や槍、斧といった様々な武器が並んでいた。


半年前なら、どれを見ても違いなんてほとんど分からなかったと思う。


今は少しだけ分かる。


重さ。


長さ。


握った時の感覚。


自分が振った時にどう動くのか。


半年間、大剣を使い続けたからこそ分かることもあった。


まず、今まで使っていた大剣を店に見てもらう。


多少傷はついているものの、手入れはしてきた。


まだ十分使えるらしい。


査定された金額を聞いてから、俺は大剣を見る。


これを持って初めて依頼に出た。


何度も振り回されそうになった。


ガイウスに何度も怒鳴られた。


それでも少しずつ使えるようになって。


気づけば半年間、ずっと背中にあった。


だからといって、いつまでも使い続ける理由にはならない。


ガイウスから教えてもらったことまで、なくなるわけじゃない。


「……売ります」


大剣を手放した。


思っていたより、あっさりしていた。


「朝陽」


「ん?」


「寂しい?」


「ちょっとだけ」


「そう」


「でもまあ、武器だしな」


必要なら使う。


合わなくなったなら変える。


多分、それでいい。


今度は店内に並ぶ剣を見て回る。


最初に手に取ったのは、今までよりずっと軽い片手剣だった。


「軽っ」


思わず声が出た。


大剣に慣れすぎたせいで、余計にそう感じる。


何度か振ってみる。


当然だけど、速い。


止めやすい。


次の動きにも移りやすい。


ただ。


「なんか軽すぎるな」


別のものを試す。


今度は少し長い。


次は重い。


その次は握りがしっくりこない。


「意外と面倒だな、武器選び」


「朝陽が面倒」


「俺?」


「さっきから同じようなの何本も持ってる」


「全然違うから」


「そう?」


「多分」


「分かってないじゃん」


うるさい。


それでも何本か試しているうちに、一振りだけ感覚の違うものがあった。


片手で扱える。


大剣よりずっと軽い。


かといって軽すぎるわけでもない。


試しに構えてみる。


振る。


止める。


身体を返して、もう一度。


今までより明らかに動きやすい。


空いている左手も自由に使える。


魔法を使う時にも邪魔にならない。


「……これ、いいかも」


セレーネが俺を見る。


「さっきより似合ってる」


「武器に似合うとかある?」


「ある」


「大剣は?」


「似合ってなかった」


「半年使ってたんだけど」


「知ってる」


もっと早く言えよ。


値段を確認する。


さっき大剣を売った分を合わせれば、十分買える。


少し迷ってから。


「これにします」


今度は自分で選んだ。


店を出て、腰に下げた剣を見る。


背中が妙に軽い。


「なんか変な感じするな」


「小さくなった」


「見れば分かるよ」


「弱そう」


「おい」


セレーネが先に歩いていく。


俺は新しい剣の柄に触れながら、その後を追った。


まだ、この剣でどう戦うのが一番いいのかは分からない。


大剣で覚えた戦い方が、そのまま使えるとも思わない。


それも旅をしながら探せばいい。


自分に合った戦い方を。


翌日も準備に使った。


冒険者ギルドへ行き、しばらく王都を離れることを伝える。


いつものように冒険者たちが行き交う建物を見ながら、ふと思った。


半年前。


初めてここへ来た時は、何をどうすればいいのかすら分からなかった。


冒険者なんて、ゲームや漫画の中にしかいないものだと思っていた。


それが今では、ここへ来ることも普通になった。


依頼を受けることも。


魔物と戦うことも。


この世界で金を稼ぐことも。


全部、この半年で覚えた。


「朝陽?」


先を歩いていたセレーネが振り返る。


「ん?」


「行かないの?」


「ああ」


俺はもう一度だけギルドの中を見る。


別に、これが最後じゃない。


いつか戻ってくることだってあるだろう。


「行こう」


外へ出る。


見慣れた王都の景色が広がっていた。


出発は翌朝に決めた。


そのことを瑞輝たちにも伝えると、夕方にもう一度王城へ顔を出すことになった。


「明日か。早いな」


瑞輝が言う。


「決めたら早い方がいいだろ」


「お前がそれ言うようになるとはな」


「どういう意味だよ」


「そのまんま」


京介まで頷いている。


麗奈は俺の腰を見るなり、すぐに気づいた。


「あれ? 剣変わってない?」


「お、分かる?」


「いや、あんなでかいの背負ってたら分かるでしょ」


「確かに」


瑞輝も俺の剣を見る。


「大剣どうした?」


「売った」


「売ったの!?」


「なんだよ」


「いや、半年使ってたんだろ?」


「使ってたけど、俺には合ってなかったから」


そう言うと、瑞輝が少しだけ意外そうな顔をした。


「何?」


「いや。朝陽がそういうの自分で決めるの、なんか珍しいなと思って」


「今日そればっかりだな」


「だって昔のお前なら、教えてもらったからってずっと使ってそうじゃん」


否定しようとして。


やめた。


多分、その通りだったから。


「まあ、今はこっちの方がいいと思ったんだよ」


腰の剣を軽く叩く。


「だから変えた」


「そっか」


瑞輝は笑った。


「いいんじゃね?」


「だろ?」


自分でも、そう思う。


しばらく話していると、王女様も顔を出してくれた。


「明日、出発されるそうですね」


「はい」


「行き先は決まりましたか?」


「ディアナに行こうと思ってます」


「ディアナへ……」


王女様は少し考えてから頷いた。


「でしたら、街道を進んで国境を越えるのが分かりやすいと思います。旅人の往来もありますから」


「ありがとうございます」


「ただ、王都の外はここより魔物と遭遇する機会も増えます。どうか気をつけてください」


「はい」


王女様には、この数日で色んなことを教えてもらった。


この世界のこと。


国のこと。


種族のこと。


歴史のこと。


全部を理解できたわけじゃない。


むしろ、聞いたからこそ知りたいことが増えた。


「色々ありがとうございました」


俺は頭を下げる。


「俺、ほとんど何も知らなかったんで。すごく助かりました」


「いえ」


王女様は少し笑った。


「私がお話ししたことも、この世界のほんの一部です」


そして。


「きっと、ご自身の目で見た方が面白いですよ」


「……はい」


その言葉は、今の俺には妙にしっくりきた。


話しているうちに、外は少しずつ暗くなっていた。


昨日とは違う。


今日はちゃんと宿へ帰る。


「じゃあ、またな」


王城の出口で瑞輝が手を上げる。


「おう」


「死ぬなよ」


「縁起でもないこと言うな」


「朝陽にだけは言っといた方がいいだろ」


「一回死んでるからって雑に扱うな」


麗奈が笑う。


京介も。


瑠奈も。


セレーネが俺の隣で待っている。


明日の朝には、王都を出る。


しばらく、こいつらとも会えなくなる。


それでも。


「じゃあ、行ってくる」


まだ明日だけど。


瑞輝が笑った。


「行ってらっしゃい」


俺はセレーネと並んで歩き出した。


腰には、自分で選んだ新しい剣。


向かう先は、獣王国ディアナ。


その先に何があるのか。


何を見つけるのか。


今はまだ、何も知らない。


でも。


だからこそ、行ってみたいと思った。

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