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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第5章 違う道

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第46話 自分で選ぶ

翌朝。


目を覚まして最初に見えたのは、見慣れない天井だった。


「……どこだ、ここ」


ぼんやりした頭で数秒考える。


広い部屋。やたら柔らかいベッド。立派な家具。


そこまで見て、ようやく思い出した。


「ああ、王城か……」


昨日は結局、みんなで遅くまで話し込んで、そのまま泊めてもらったんだった。


身体を起こす。


よく寝た。


というか、寝すぎた気がする。


嫌な予感がして窓を見ると、外はもうすっかり明るい。


「……セレーネ?」


三回まで起こすって言ってなかったか。


そう思ったところで、扉が叩かれた。


「朝陽。起きてる?」


瑠奈だった。


「起きてる。今起きた」


「やっぱり」


扉越しに笑われる。


なんで分かったんだ。


「みんなもう起きてるよ。朝ご飯も用意してもらってるって」


「マジか。すぐ行く」


「うん。待ってるね」


足音が遠ざかっていく。


俺はベッドから降りながら、もう一度部屋を見回した。


昨日と何も変わっていない。


当然だけど。


知らないうちに誰かがここへ来ていたことなんて、俺には知る由もなかった。


身支度を済ませて部屋を出ると、廊下の先でセレーネが待っていた。


「おはよう」


「遅い」


「三回起こすって言ったじゃん」


「起こした」


「嘘だ」


「三回」


「全然覚えてないんだけど」


「全部『あと五分』って言った」


「……マジ?」


「マジ」


この前と同じじゃねえか。


セレーネが歩き出す。


俺もその隣に並んだ。


「置いていくって言ってたのに待ってたんだな」


「瑠奈が呼びに行ったから」


「あ、そういう」


「そういう」


なんとなく悔しい。


食事の用意された部屋へ入ると、瑞輝たちはすでに揃っていた。


「おっそ」


瑞輝が開口一番に言う。


「うるさい。ベッドが悪い」


「王城のベッドに文句言う奴初めて見たわ」


京介が呆れたように笑う。


「良すぎるんだよ。あれは人間を駄目にする」


「朝陽は昔から朝弱いもんね」


瑠奈が笑いながら言った。


「そこは五年経っても覚えてんのな」


「忘れるわけないじゃん」


そう言って、瑠奈は俺の前に食器を寄せてくれる。


「はい」


「ありがと」


受け取って座る。


ここ数日で、こういうやり取りにも少し慣れた。


昔なら瑠奈が何かしてくれるのを、何も考えず受け入れていた気がする。


今はありがたいと思う。


同時に、自分でできることは自分でやろうとも思う。


半年。


たった半年なのかもしれない。


でも俺にとっては、一人で生きなきゃいけなかった半年だ。


何も変わってないと思っていたけど。


多分、俺も少しは変わったんだろう。


朝食を終えてから、俺たちは昨日まで何度も使わせてもらった部屋へ移った。


窓から朝の光が差し込んでいる。


瑞輝たち四人。


俺。


セレーネ。


六人が揃ったところで、俺は瑞輝を見る。


昨日から、言うことは決めていた。


「瑞輝」


「ん?」


「昨日の話なんだけど」


それだけで伝わったらしい。


瑞輝の表情が少しだけ真面目になる。


京介と麗奈もこっちを見た。


瑠奈は黙っている。


「考えた」


「うん」


「ありがとな」


まず、それを言いたかった。


こいつは俺のことを心配して言ってくれた。


五年前に死んだと思っていた友達と再会して。


その友達が知らない世界で一人で生きていたと知って。


だったら自分たちと一緒にいればいい。


そう考えてくれたんだと思う。


だから、その気持ちは嬉しかった。


「でも、俺はお前らとは行かない」


瑞輝は何も言わなかった。


俺は続ける。


「別に、お前らと一緒にいたくないとかじゃないぞ」


「分かってるよ」


「まだ最後まで言ってねえ」


「お前が変な言い訳始めそうだったから」


「人が真面目に話してんのに」


「悪い悪い」


瑞輝が笑う。


そのおかげで少しだけ肩の力が抜けた。


「俺、こっちに来た時は何も分かんなかったんだよ」


知らない森で目を覚ました。


何が起きたのかも分からなかった。


言葉が通じることに驚いて。


魔物に追いかけられて。


冒険者になって。


この世界で生きる方法を少しずつ覚えた。


「最初は元の世界に帰る方法さえ見つかれば、それでいいと思ってた」


それしか考えられなかった。


でも、半年経った。


古代遺跡を見つけた。


そこでセレーネと出会った。


俺の知らないことが増えた。


知りたいことも増えた。


「俺がなんでこの世界に来たのかも分かってない。セレーネのことだって、まだ何も分かってない。それに――」


王女様から教えてもらった、この世界の広さを思い出す。


「俺、この世界を見てみたいんだ」


自分の口から出してみると、思っていたより単純な答えだった。


「ここに来て半年なのに、俺が知ってるのってバルカンの、それもほんの一部だけだろ」


本で読んだことはある。


人から聞いたこともある。


でも、それだけだ。


「自分で行って、自分で見たい。そうしたら何か分かるかもしれないし」


「何も分からないかもしれないぞ」


京介が言う。


「それはそう」


「即答かよ」


「だって、行けば全部分かるなんて思ってないし」


それでもいい。


何も分からなかったなら、また次へ行けばいい。


今の俺には、その方がしっくりくる。


瑞輝が俺の隣にいるセレーネを見る。


「二人で行くのか?」


「そのつもりだけど」


俺もセレーネを見る。


「……だよな?」


「今聞くの?」


「いや、確認」


「昨日も聞いた」


「そうだけどさ」


セレーネは小さく息を吐いた。


「行く」


「うん」


「朝陽が行くなら」


それだけ言って、セレーネはいつもの無表情に戻る。


瑞輝が少し笑った。


「そっか」


驚くほど、あっさりしていた。


もっと何か言われると思っていた。


止められるかもしれないとも思っていた。


「いいのか?」


「何が?」


「いや……もうちょい止めるかと思ってた」


「止めてほしいの?」


「そういうわけじゃないけど」


「じゃあいいだろ」


瑞輝は椅子の背にもたれる。


「朝陽が決めたなら、それでいいよ」


昔だったら。


俺はどうしていただろう。


瑞輝がこっちへ行くと言えば、そのままついて行ったかもしれない。


瑠奈がこっちの方がいいと言えば、そうしたかもしれない。


自分で決めるより、その方が楽だったから。


でも今は。


「ありがとな」


自分で決めた。


それでいいと思えた。


「別に今生の別れじゃないしね」


麗奈が言う。


「同じ世界にいるんでしょ?」


「まあな」


「だったらまた会えるじゃん」


「簡単に言うけど、この世界めちゃくちゃ広いぞ」


「五年ぶりに死んだはずの朝陽と会えたんだよ?」


麗奈が笑う。


「それよりは簡単じゃない?」


「……それ言われたら何も言えねえな」


確かに。


京介も肩をすくめる。


「俺らは俺らでやることあるしな」


瑞輝たちには勇者としての使命がある。


俺には俺の知りたいことがある。


同じ場所から始まって。


同じ場所へ来て。


それでも、進む道は同じじゃない。


瑠奈はずっと黙っていた。


「瑠奈?」


呼ぶと、ようやく俺を見る。


「なに?」


「いや……なんか静かだから」


「そう?」


「うん」


瑠奈は少しだけ考えてから笑った。


「朝陽が決めたなら、いいと思うよ」


「そっか」


「うん」


それだけだった。


昔の瑠奈なら、もう少し何か言ったかもしれない。


危なくないのかとか。


ちゃんと食べられるのかとか。


一人で大丈夫なのかとか。


でも今は何も言わない。


俺の隣にいるセレーネを見て。


それから、また俺を見る。


「ちゃんと帰ってきてね」


「帰るって、どこに?」


「ここ」


瑠奈は当たり前みたいに言った。


「またみんなで会おうよ」


瑞輝が笑う。


「だな」


京介も頷いた。


麗奈も。


俺は少しだけ考えてから答える。


「うん。また会おう」


次がいつになるのかは分からない。


どこで会うのかも分からない。


俺たちがこれから何を見るのかも。


何一つ分からない。


それでも。


五年前に途切れたはずだった道は、もう一度繋がった。


ずっと同じ道を歩く必要なんてない。


別々の道を進んだって。


またどこかで交わることはできる。


俺は隣を見る。


セレーネがいる。


「じゃあ、行くか」


「どこに?」


「……まずそこから決めよう」


「決めてなかったの?」


「昨日決めたのは旅に出るところまで」


セレーネが呆れたように俺を見る。


後ろから瑞輝たちの笑い声が聞こえた。


先のことなんて、まだ何も分からない。


それでいい。


今度は誰かに決められた道じゃない。


俺が自分で選んだ道を。


自分の足で歩いていく。

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