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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第4章 五年後の再会

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第43話 世界は広い

翌日。


俺は。


また王城にいた。


「……二日連続で来る場所じゃないだろ」


「もう慣れた?」


麗奈が聞く。


「慣れるわけないだろ」


昨日と同じ廊下。


昨日と同じように。


兵士が立っている。


それでも。


昨日よりは少しだけ。


足取りが軽い。


「朝陽、今日は迷わなかったね」


瑠奈が言う。


「子供扱いするなよ」


「昨日、帰りに逆行ったじゃん」


「……あれは廊下が似てたから」


「全部同じに見えてんじゃねえか」


京介が笑う。


「王城が広すぎるんだよ」


隣を歩くセレーネを見る。


「お前は覚えた?」


「うん」


「嘘だろ」


「朝陽と違うから」


「どういう意味?」


答えない。


最近。


こいつ。


ちょっと俺への扱いが雑になってないか?


◇


昨日と同じ部屋。


中央には大きな机。


その上に。


地図が広げられていた。


「おはようございます、皆さん」


ステラ王女が。


俺たちを迎える。


「おはよう、ステラ!」


「おはよう」


「おはようございます、王女様」


「お、おはようございます」


順番に挨拶する。


ステラ王女が俺を見る。


「朝陽さん」


「はい」


「今日もそんなに緊張しなくて大丈夫ですよ」


「……頑張ります」


二日目である。


まだ無理だ。


「セレーネさんも、おはようございます」


「おはよう」


強い。


やっぱり強い。


「では」


ステラ王女が。


地図へ視線を落とした。


「昨日のお話の続きをしましょうか」


俺も。


地図を見る。


昨日は。


眺めただけだった。


自分がどれだけ小さな範囲しか知らないのか。


それを実感しただけ。


今日は。


その先を知る。


「まずは、朝陽さんが現在どこまで把握しているのか教えてください」


「俺が?」


「はい。その方が、同じ説明をせずに済みますから」


「なるほど……」


地図を見る。


分かるところを。


指差す。


「ここが王都ですよね」


「はい」


「で……」


指を動かす。


「俺が最初にいたのが、この辺り」


「なるほど」


「アルヴェンがここで……」


そこから。


王都まで。


指でなぞる。


終わった。


「……以上です」


「以上?」


麗奈が聞く。


「以上」


「狭っ!」


「しょうがないだろ!」


「半年いたのに!?」


「半年で世界一周できると思うなよ!」


瑞輝が地図を覗く。


「でも本当に、この辺しか動いてないんだな」


「王都来てからずっと冒険者やってたからな」


依頼。


訓練。


図書館。


そして。


遺跡。


半年。


色々あった。


でも。


地図で見ると。


俺が歩いた距離なんて。


本当に。


わずかだった。


「では」


ステラ王女が。


地図の上へ指を置く。


「今日は、その外側から始めましょう」


◇


話を聞いていると。


不思議な気分になった。


俺は。


この世界で半年暮らしている。


魔法も使える。


魔物とも戦った。


冒険者として金も稼いだ。


だから。


少しくらいは。


この世界のことを知った気になっていた。


でも。


全然だった。


「国境を越えれば、同じ常識が通用するとは限りません」


ステラ王女が言う。


「政治も、文化も、種族に対する考え方も違います」


「種族……」


俺が呟く。


人間以外の種族。


知識としては。


知っている。


本で読んだ。


冒険者から話を聞いたこともある。


でも。


実際に会ったことは。


ほとんどない。


「獣人って、本当に普通にいるんですよね」


「はい」


「普通に、って何?」


麗奈が言う。


「いや、ほら」


言葉に困る。


「日本にいなかったから」


「魔法もなかったけどね」


瑞輝が言う。


「それはもう慣れた」


「慣れって怖いな」


確かに。


半年前。


初めて魔法を見た時は。


あんなに驚いたのに。


今では。


火を出すくらいなら。


自分でもできる。


「獣人にも、様々な方がいます」


ステラ王女が話を戻す。


「人間と同じです。一括りにはできません」


「まあ……そりゃそうですよね」


「国によって関係も異なりますし、個人によって考え方も違います」


俺は。


地図を見る。


知らない場所。


知らない人。


「エルフも?」


「はい」


「会ったことある?」


麗奈に聞く。


「ないよ」


「瑞輝は?」


「ない」


京介も首を振る。


瑠奈も。


「エルフは特に、外部との交流をほとんど持ちません」


ステラ王女が答えた。


「長命で、独自の文化を守っている種族です」


「長命って……どれくらい?」


「人間とは比べものにならないほど、と考えていただければ」


「すげえ……」


思わず。


声が漏れる。


異世界。


半年もいて。


今さら。


そんな言葉が。


頭に浮かんだ。


魔法がある。


魔物がいる。


人間以外の種族がいる。


知らない国がある。


知らない文化がある。


俺が見ていたのは。


本当に。


入口だけだった。


◇


「そういえば」


俺は。


瑞輝たちを見る。


「お前ら、国外行ったんだよな」


「行ったよ」


瑞輝が答える。


「どうだった?」


「どうって言われてもな」


瑞輝が少し考える。


「俺らも、そんな奥まで行ったわけじゃないぞ」


「国境周辺だったしね」


麗奈が続ける。


「でも」


麗奈が。


少しだけ表情を変えた。


「王都とは全然違った」


「何が?」


「空気」


「空気?」


「うまく言えないけど」


京介が口を挟む。


「こっちが平和すぎるんだよ」


「……平和?」


王都を見る限り。


確かに。


そうだ。


人が歩いて。


店が開いて。


冒険者が依頼を受ける。


俺が半年過ごした。


日常。


「国境に近づくほど、兵士が増えた」


瑞輝が言う。


「街にいる人の雰囲気も違ったしな」


「……へえ」


「それに」


瑞輝が。


地図を見る。


「俺らが勇者だってことも、王都とは受け取られ方が違った」


「どういうこと?」


「歓迎する人もいれば、警戒する人もいる」


少し。


意外だった。


「勇者なのに?」


言ってから。


自分でも。


変な質問だと思った。


瑞輝が苦笑する。


「俺も最初はそう思った」


ステラ王女が静かに続ける。


「勇者という存在が、すべての人にとって同じ意味を持つわけではありません」


「……」


「救いだと考える人もいます。力を持つ存在として恐れる人もいます。政治的に利用しようと考える人が現れる可能性もあります」


「政治……」


急に。


難しくなった。


「朝陽、顔」


瑠奈が言う。


「何?」


「難しくなったって顔してる」


「なんで分かるんだよ」


「長いから」


「五年会ってなかっただろ」


「その前が長いから」


言い返せない。


「まあ」


ステラ王女が。


少しだけ笑う。


「今日すべて覚える必要はありません」


「助かります」


「ただ」


地図へ視線を戻す。


「世界は、単純ではないということだけ覚えておいてください」


その言葉は。


妙に。


残った。


◇


休憩。


「……疲れた」


机に突っ伏す。


「早くない?」


麗奈が言う。


「情報量が多いんだよ」


「学校の授業より真面目に聞いてたね」


瑠奈が笑う。


「だって知らないことばっかだし」


「学校も知らないことを習う場所だろ」


京介が言う。


「それとこれは違う」


「何が違うんだよ」


「興味」


「最低だな」


放っておけ。


セレーネを見る。


ずっと。


俺の隣で話を聞いていた。


「セレーネは?」


「なに」


「疲れないの?」


「別に」


「全部分かった?」


「だいたい」


「……腹立つな」


「なんで?」


「俺より頭良さそうだから」


「そうかも」


「否定しろよ」


セレーネが。


少しだけ。


口元を緩めた。


「……笑った?」


「笑ってない」


「いや今笑っただろ」


「笑ってない」


絶対笑った。


「仲いいねえ」


麗奈の声。


「……何?」


見る。


ニヤニヤしている。


「別に?」


「その顔やめろ」


「何も言ってないじゃん」


「言ってるのと同じなんだよ」


その隣で。


瑠奈が。


水を飲んでいる。


何も言わない。


「そういえば」


麗奈が。


今度は瑠奈を見る。


「瑠奈さ」


「なに?」


「昨日――」


瑠奈が。


麗奈を見る。


一瞬。


麗奈が止まった。


「……いや」


「何?」


「あとでいいや」


「変なの」


瑠奈が首を傾げる。


麗奈は。


少しだけ。


楽しそうに笑っていた。


なんだ?


◇


休憩が終わる。


今度は。


国だけではなく。


この世界そのものの話になった。


魔物。


魔法。


冒険者。


宗教。


歴史。


俺が。


断片的にしか知らなかったもの。


「五千年前?」


その言葉に。


俺の意識が止まる。


「はい」


ステラ王女が答える。


「現在まで伝わっている歴史の中でも、特に大きな転換点の一つです」


五千年前。


俺は。


その数字を知っている。


遺跡。


石像。


セレーネ。


隣を見る。


セレーネは。


いつも通り。


何も言わない。


「……五千年前に、何があったんですか?」


聞く。


ステラ王女は。


少し考えてから。


「多くの記録が残っています」


「多く?」


「はい。ただし」


そこで。


言葉を区切る。


「すべてが一致しているわけではありません」


「……え?」


「国によって伝承が違います。宗教によっても解釈が異なります」


俺は。


少し身体を起こした。


「同じ出来事なのに?」


「珍しいことではありません」


ステラ王女が答える。


「歴史は、残した人によって形が変わりますから」


胸の奥で。


何かが。


引っかかった。


図書館。


遺跡。


俺が。


今まで読んできたもの。


「じゃあ」


俺は聞く。


「今、正しいって言われてる歴史も」


一度。


言葉を選ぶ。


「本当に正しいかは、分からない?」


部屋が。


少し静かになった。


ステラ王女が。


俺を見る。


「……そうですね」


否定しなかった。


「少なくとも私は、残された記録を絶対だとは考えていません」


「王女様でも?」


「王女だからこそ、です」


その答えに。


思わず。


ステラ王女を見る。


「国が残す記録にも、都合はあります」


静かな声だった。


「だから、複数のものを見る必要があります」


「……」


知らなかった。


王族なら。


国の歴史を。


そのまま正しいと言うものだと思っていた。


「朝陽さん」


「はい」


「何か、気になることがあるんですか?」


一瞬。


迷う。


セレーネのこと。


遺跡のこと。


石像のこと。


まだ。


話していない。


「……あります」


「それは?」


「まだ」


答える。


「俺にも、よく分かってなくて」


ステラ王女は。


少しだけ俺を見た。


それから。


「分かりました」


それ以上。


聞かなかった。


「でも、調べたいんです」


「はい」


「自分で」


言葉にすると。


少し。


はっきりした。


俺は。


知りたい。


自分が。


どうしてここにいるのか。


セレーネが。


何者なのか。


あの遺跡は。


何だったのか。


五千年前。


何があったのか。


今までは。


王都の中だけで。


答えを探していた。


でも。


「王女様」


「はい?」


「王都にある本だけで、世界のこと全部分かりますか?」


ステラ王女は。


すぐには答えなかった。


「……いいえ」


やっぱり。


「王立図書館には、多くの記録があります。王城にもあります」


地図を見る。


「ですが、それはバルカンが集められたものです」


「外にしかないものもある?」


「もちろん」


即答だった。


「他国にしか残っていない記録。その土地でしか伝わっていない話。特定の種族だけが知る歴史」


地図の上に。


俺の知らない世界が広がっている。


「……そっか」


俺は。


ずっと。


答えを探していた。


でも。


探す場所を。


勝手に。


王都の中だけに決めていた。


「世界は広いですよ、朝陽さん」


ステラ王女が言った。


昨日なら。


ただの言葉だったと思う。


でも。


今は。


違う。


地図を見る。


知らない国。


知らない種族。


知らない歴史。


知らない場所。


半年。


この世界で生きた。


それでも。


俺は。


まだ。


何も知らない。


だったら。


見てみたい。


知りたい。


自分の目で。


「……外か」


小さく呟く。


セレーネが。


俺を見る。


目が合う。


「行きたい?」


短い質問。


「……うん」


答える。


「ちょっと」


本当は。


ちょっとどころじゃない。


さっきまで。


地図の上の線だった場所が。


急に。


行ける場所に見え始めていた。


この世界へ来て。


初めて。


王都の外が。


怖い場所ではなく。


行ってみたい場所に見えた。

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