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過去と未来を繋ぐ者達へ  作者: 卵飯好男
【バルカン王国編】第4章 五年後の再会

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第37話 見知らぬ四人

王都へ戻った翌日。


久しぶりのベッドは最高だった。


最高すぎた。


「……寝すぎた」


窓から差し込む光を見て、頭を抱える。


旅をしている間なら、とっくに起きて歩き始めている時間だ。


身体は軽い。


背中も痛くない。


肩も昨日までとは全然違う。


やっぱり地面とベッドは違う。


当たり前だけど。


顔を洗って着替える。


壁には大剣。


いつもなら何も考えず背負うところで、少しだけ手が止まった。


一昨日から考えていること。


俺の戦い方。


ガイウスから教わった大剣。


使えないわけじゃない。


むしろ、この半年でかなり慣れたと思う。


でも。


これが俺に一番合っているのかは、分からない。


「……まあ、今日はいいか」


別に今すぐ答えを出す必要はない。


王都へ戻ったばかりだ。


大剣を背負って部屋を出る。


隣の部屋をノックする。


返事がない。


もう一度。


「セレーネ?」


やっぱり返事がない。


「……どこ行った?」


先に飯でも食いに行ったのか。


そう思ったところで、階段の方から足音が聞こえた。


見る。


セレーネだった。


「朝陽」


「どこ行ってたんだ?」


「下」


「それは見れば分かる」


「朝ごはん」


「先に食ったの?」


「うん」


「待っててくれてもよくない?」


「寝てたから」


何も言えない。


「何時に起きた?」


「普通」


「普通って何時だよ」


「朝」


「俺も今朝だよ」


「もう朝じゃない」


「……そんな寝た?」


セレーネが頷く。


マジか。


「起こしてくれてもよかったのに」


「起こした」


「え?」


「二回」


「……嘘」


「本当」


全然覚えていない。


「なんて言ってた?」


「あと五分」


「……」


言った気がする。


いや。


たぶん言った。


「ごめん」


「別に」


「で、飯どうだった?」


「普通」


「甘いものは?」


「なかった」


ほんの少しだけ声が落ちた。


「じゃあ昼に探すか」


「うん」


即答。


もう甘いものが好きなの隠す気ないだろ。


宿を出る。


昨日は夕方だったから、ほとんど何もできなかった。


今日はやることが多い。


「まずギルド行くか」


「ギルド」


「戻ったこと伝えたいし、ちょっと聞きたいこともある」


「武器?」


「それも」


背負った大剣の柄へ触れる。


「他の武器も試してみたいから」


「そう」


「あと、お前のこともな」


「わたし?」


「このままずっと俺が金出すわけにもいかないだろ」


「返すって言った」


「だから、その稼ぎ方」


冒険者になるのか。


別のことをするのか。


今すぐ決める必要はないけど、王都で暮らすなら金はいる。


「まあ、それは後でもいいけど」


「うん」


「先に服だな」


「これでいい」


「着替えがないだろ」


「洗えばいい」


「洗ってる間どうすんだよ」


セレーネが黙る。


「ほら」


「……分かった」


珍しく完全に勝った。


「ギルド行ったら服見に行こう」


「甘いもの」


「昼!」


「忘れてなかった」


「昨日から何回言われたと思ってんだよ」


冒険者ギルドへ向かう。


途中。


何人か顔見知りの冒険者とすれ違った。


「お、戻ったのか」


「昨日な」


軽く手を上げる。


相手もそのまま通り過ぎていく。


その直後。


「あれ?」


男が振り返った。


俺も振り返る。


目が合った。


でも。


見ていたのは俺じゃなかった。


セレーネだ。


「……?」


なんだ?


少し歩く。


今度は前から来た冒険者がセレーネを見る。


そのまますれ違う。


数歩進んでから。


また振り返った。


「……なあ」


「なに?」


「なんか付いてる?」


「どこに?」


「いや、セレーネに」


セレーネが自分の服を見る。


「何も」


「だよな」


また歩く。


今度は二人組。


片方がセレーネを見て。


隣の男の肩を叩く。


もう一人も見る。


「……めちゃくちゃ見られてない?」


「そう?」


「気づいてなかったの?」


「別に」


気にしていないらしい。


なんでだ?


服か?


遺跡から着てきたものが珍しい?


それとも何か変なものでも――。


改めて。


隣を歩くセレーネを見る。


「……」


「なに?」


「いや」


そういえば。


ちゃんと見たことがなかったかもしれない。


初めて会った時は、地下遺跡だった。


石像から人が出てきた。


しかも俺の名前を知っていた。


顔がどうとか、それどころじゃなかった。


その後も。


禁域を歩いて。


野営して。


魔物と戦って。


王都まで何日も歩いて。


ずっと一緒にいた。


見慣れてしまっていた。


でも。


こうして王都の人混みの中で見ると。


明らかに目立つ。


整った顔立ち。


長い旅をしてきた直後だというのに、妙に人の目を引く。


何より。


本人がまったく気にしていない。


周囲から視線を向けられても、いつも通り無表情に歩いている。


そのせいで余計に目立つ。


「……なるほど」


「なに?」


「見られてる理由、分かったかも」


「どうして?」


「いや……」


本人に言うのも変な気がする。


でも。


「セレーネって、結構美人なんだな」


足が止まった。


「……」


「……」


セレーネが俺を見る。


「何?」


「いや、だから」


今さら恥ずかしくなってきた。


何を真正面から言ってるんだ俺は。


「なんかみんな見てるから、改めて見たら……そうなのかなって」


「……ふうん」


「なんだその反応」


「別に」


セレーネが歩き出す。


「いや、俺が変なこと言ったみたいになるだろ!」


返事はない。


追いかける。


横へ並ぶ。


「怒った?」


「怒ってない」


「じゃあなんで黙るんだよ」


「朝陽が変だから」


「俺!?」


また一人。


すれ違った冒険者がセレーネを見た。


今度は分かる。


「……ああ」


やっぱりそういうことか。


「なに?」


「何でもない」


「変なの」


「お前に言われたくない」


でも。


少し納得した。


遺跡で拾った記憶喪失の女の子。


俺の中では、いつの間にかそれが普通になっていた。


どうやら他の人から見ると。


そうでもないらしい。


ギルドへ入る。


相変わらず賑やかだ。


依頼を探す冒険者。


受付へ並ぶ人。


酒を飲んでいる人。


俺が入った時。


何人かがこっちを見る。


いや。


やっぱり俺じゃない。


「……」


「朝陽」


「ん?」


「何してるの?」


「いや、なんでもない」


もう気にするのはやめよう。


受付で簡単に帰還を伝える。


何日か王都を離れていただけなので、大げさな手続きはない。


ついでに武器について少し相談した。


今の大剣より軽いもの。


片手で扱えるもの。


魔法と併用しやすいもの。


いくつか話を聞く。


結局。


実際に握ってみないと分からない。


当然だ。


「後で見に行くか」


「うん」


「付き合ってくれる?」


「別にいいけど」


「助かる」


「また戦いづらそうだったら言う」


「お手柔らかにお願いします」


「無理」


「そこは嘘でも分かったって言ってくれよ」


ギルドを出た後。


セレーネの着替えを買いに行った。


そして。


すぐに問題が起きた。


「これでよくない?」


「嫌」


「じゃあこれ」


「微妙」


「これは?」


「変」


「難しいな!」


俺が選んだ服を片っ端から却下される。


「じゃあ自分で選べよ!」


「選んでる」


「最初からそうして!」


結局。


俺は荷物持ちになった。


セレーネが何着か見比べている。


さっきまでより真剣だ。


「服、興味あるんだな」


「普通」


「遺跡で起きた時、もっと何にも興味ない人かと思ってた」


セレーネが俺を見る。


「失礼ね」


「だって全然喋らなかったし」


「今もそんなに喋ってない」


「最初よりは喋ってるよ」


「朝陽がうるさいから」


「俺のせい?」


「たぶん」


「じゃあ黙ろうかな」


「そう」


「即答すんなよ」


近くにいた店員に笑われた。


しばらくして。


買った服に着替えたセレーネが出てきた。


「どう?」


「ん?」


見る。


「……いいんじゃない?」


「それだけ?」


「え?」


さっき。


美人だと言ったばかりだ。


なんだこの質問。


「似合ってるよ」


「そう」


「……何なんだよ」


「別に」


店を出る。


そして。


さっきより酷くなった。


すれ違う男が見る。


店先にいた冒険者も見る。


一人なんて、連れに話しかけられるまでこっちを見ていた。


「……すげえな」


「何が?」


「いや」


本人は相変わらずだ。


「なんでもない」


俺だけが少し面白くなってきた。


昼。


約束通り、甘いものが食べられる店へ入った。


店先に並ぶ菓子をセレーネが見ている。


「好きなの選べば?」


「どれが美味しい?」


「俺も全部食ったことないよ」


「半年先輩なのに」


「王都の食い物全部制覇するには半年じゃ足りねえよ」


結局。


見た目で選んだ。


席へ座る。


セレーネが一口食べる。


「どう?」


「美味しい」


今日は素直だ。


「昨日は普通って言ってたのに」


「これは美味しい」


「昨日のは?」


「普通」


「半分食ったくせに」


「もらった」


「俺が気を遣ったんだよ」


「ありがとう」


また普通に言われた。


調子が狂う。


「……どういたしまして」


俺も自分の分を食べる。


甘い。


こういうのを食べるのも久しぶりだ。


「午後どうする?」


「武器」


「覚えてた?」


「朝陽が言ったから」


「じゃあ見に行くか」


「うん」


午後。


何本か武器を握ってみた。


大剣より軽い。


片手で扱える。


空いた手も自由に使える。


確かに。


魔法と合わせるなら、こっちの方が動きやすそうだ。


でも。


その場では買わなかった。


「意外」


店を出たところでセレーネが言った。


「何が?」


「買うと思った」


「俺もそのつもりだったんだけどな」


実際に握ると。


迷った。


半年使った大剣。


ガイウスから教わった戦い方。


それを変える。


思ったより簡単なことじゃなかった。


「もうちょっと試してから決める」


「そう」


「別に急ぐ必要ないし」


「うん」


「大剣が嫌になったわけでもないからな」


「それがいいと思う」


珍しく普通に賛成された。


「お」


「なに」


「いや。戦いづらそう以外の感想も言えるんだな」


「やっぱり大剣は戦いづらそう」


「言わなきゃよかった!」


セレーネが少し笑った。


夕方。


一度宿へ戻った。


買ったものを置いて。


少し休む。


「飯どうする?」


「食べる」


「それは知ってる」


「朝陽が決めて」


「じゃあ近いところでいい?」


「うん」


今日は色々歩いた。


もう遠くへ行きたくない。


宿から少し歩いたところにある食事処へ向かう。


何度か使ったことのある店だ。


「ここ?」


「うん。安いし結構うまいよ」


「半年先輩おすすめ?」


「その呼び方で紹介されると急に信用なくなるな」


店へ入る。


夕食時には少し早い。


まだ席には余裕があった。


適当な席へ座る。


注文する。


「今日は色々やったな」


「服買った」


「俺が選んだの全部却下されたけどな」


「変だったから」


「一個くらいまともなのあっただろ」


「なかった」


「嘘だ」


「本当」


言い合っているうちに料理が届く。


「食おう」


「うん」


手を伸ばす。


「うま」


セレーネも食べる。


「美味しい」


「だろ?」


「甘くないけど」


「飯だからな」


「あとで」


「まだ食うの?」


「少し」


「太るぞ」


セレーネの手が止まった。


「……何?」


「朝陽」


「はい」


「今の、もう一回言って」


「すみませんでした」


何が危険なのかは分からない。


でも。


謝った方がいい。


たぶん。


しばらくして。


店の扉が開いた。


何気なくそちらを見る。


四人組だった。


男が二人。


女が二人。


全員、俺たちより少し年上に見える。


冒険者――だろうか。


最初に目についたのは装備だった。


俺でも分かる。


明らかに上等だ。


先頭の男が腰に下げた剣。


もう一人の男が持つ大きな盾。


女の一人は杖を持っている。


もう一人は、他の三人ほど前へ出る装備には見えない。


「……すげえ装備」


小さく呟く。


「知り合い?」


セレーネが聞く。


「いや。知らない」


見たこともない。


少なくとも。


王都で活動している冒険者なら、あれだけ目立つ四人組を一度くらい見たことがありそうなものだけど。


「どっかから来た冒険者かな」


「そう」


それだけ。


特に気にする理由もない。


俺は料理へ視線を戻す。


「それよりセレーネ」


「なに」


「それ俺の肉じゃない?」


「違う」


「いや、俺の皿から取ったよな?」


「気のせい」


「見てたから!」


「朝陽」


「なんだよ」


「声、大きい」


「誰のせいだよ!」


周りを見る。


何人かこっちを見ていた。


恥ずかしい。


「……もういい」


「ありがとう」


「礼言うな! 認めてるじゃねえか!」


セレーネが食べる。


俺の肉を。


絶対俺のだった。


その時。


「……朝陽?」


声がした。


「え?」


手が止まる。


聞き間違いかと思った。


でも。


確かに。


俺の名前だった。


振り返る。


さっき入ってきた四人組。


その中の。


女の一人が。


こっちを見ていた。


「……?」


誰だ。


知らない。


俺より年上に見える。


会った覚えなんてない。


なのに。


その人は。


まるで。


信じられないものでも見たような顔で。


俺を見ていた。

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