第八話 温もり3
「蝶子。お薬」
童子の、よにが、水の入った湯飲みと、紙包みに包まれた、お薬をお盆に乗せて持って来る。蝶子の傍らに辿り着くと、よには小さな手で、蝶子の背を起こした。
「ありがとうございます」
熱に浮かされた赤顔で蝶子は、渡された粉薬を受け取った。刺さる視線に、居心地が悪い。
(見ていらっしゃる)
しっかりと氷雪が見守る。
これは飲んだ振りは通用しない。高価なお薬を飲むしかない。
しぶしぶと蝶子は紙包みを開き、薬を口のなかに流し、湯飲みの水で飲みほした。苦みで蝶子の眉間がピクリと痙攣する。すると氷雪が、ふと笑ったような気がした。
「よし。これを」
氷雪は金平糖に包まれた懐紙を、童子の、いちねを通して蝶子に渡した。
「口直しだ。これを食べなさい」
「はい。あの、ありがとうございます」
「礼はいい。早く治せ」
「はい」
蝶子は黄色の金平糖をひとつ手にとって、口に入れる。染み渡る甘みが口の中に広がった。一宿一飯の恩を心に刻んだ。
(わたしのような者に、こんなに良くしていただいて、早く治して、ここで、しっかり働かせてもらいます)
それぐらいしか蝶子にはできないから。蝶子は背を布団に預ける。
細められた氷雪の目に見守られながら、童子に上布団を被された。
ところが、突然、氷雪は表情を引き締め、すくりと立ち上がった。
「どうかされたのですか」
「なんでもない」
「……」
気のせいか、緊迫した空気に変わった。先ほどまで和やかな雰囲気だったのに。一抹の不安がよぎる。
「本当に、なんでもない。そんな顔をするな。少し用事が出来た。蝶子は養生しなさい」
蝶子の不安顔が表に出ていたのか、氷雪にそう言われた。
しかし、養生とはいったいどうすればいいのだろうか。
すでに明日には働く気でいるのだが、この雰囲気は許されない気がした。口ごもる蝶子の様子に、氷雪の眉間に皺が寄る。
「返事は」
返事の無い蝶子に、氷雪は焦れてか返答を促した。
「は、はい」
蝶子は動揺し頷く。答えに満足したのか、氷雪は口の端だけをあげて頷き、着物の裾をひるがえして、襖を開けて出て行った。
その綺麗な氷雪の後ろ姿を、蝶子は静かに見送った。
(こんな真夜中に、ご用事とは……)
どれだけ眠っていたのかはわからない。夜中なのはわかる。暁八つ(深夜一時から三時)ほどだとは思う。
行燈の明かりがゆらりと揺れる。いつの間にか童子たちも姿を消していた。
取り残された蝶子は、ぽつりとどこか寂しさを感じた。
しかし、看病のおかげで熱が引いてきた。とても体が軽くなっていた。




