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第二十一話 召し上がり1

 朝食後。仙天横町に出かけると言う氷雪を、蝶子は玄関で見送った。どうやら、この時間は、お店の様子と、食材等の買い出しに行かれるようだ。当番制の童子を二人連れて出て行かれた。


 帰ってこらえたら、足の汚れを洗うために、足濯(あしすす)ぎをさるだろう。

 蝶子は桶の確認をした。


 その後、好きにしてよいっと言われたので、蝶子は竹箒を持って中庭の掃除をすることにした。

 落ち葉を掃き、池の上に浮かぶ葉を取り除き、雑草を抜く。


「あら、あなたたちも手伝ってくれるの?」


 青雀と紅雀が、残っていた落ち葉を口に咥え、竹ざるのなかに入れた。


「「ちちち」」


 首を上下に振る雀たち。蝶子の頬が緩む。


「ありがとう」


 じんわりと汗ばむが、真っ青の空と、肌を掠める風が心地よかった。

竜胆(りんどう)だわ」


 夢中で雑草を抜いていると、綺麗な紫色の竜胆が咲いていたことに気が付く。


「綺麗」


 いままで、花を愛でる余裕など、なかった気がする。

 毎日のように山に行って、燃料である細い枝や木の実などを採りにいっていた。けれども花が咲いていても、ただ横目で見ていただけだった。


「不思議。ここに来てから、見る物が違って見える」


 蝶子は、すくりと立ち上がる。


「あれ、あんな所に、門がある」


 いつの間にか、庭の奥まで来てしまったようだ。塀に囲まれた、立派で強固な門扉があった。塀の向こうには、ひとつの蔵があった。

 蝶子の表情が、さっと陰る。


(あれは、宝物庫かもしれない)


 蝶子は昔、知らずに、奉公先の宝物庫に近づいてしまったことがあった。


『お前は、盗みでもしようとしているのか、この先には行くなと言ってあっただろう』


 旦那様に言われ、頬を打たれた。

 あのときも、こうして雑草を抜くのに夢中になって近づいてしまったのを思い出す。


「いけない」


 蝶子は踵を返した。


(ここまで踏み込むことは、許されないことだわ)


 よそ者が出過ぎたことをしてはいけない。

 蝶子は庭の掃除を、そうそうに終えて屋敷へと戻った。


 自分の部屋に入ると繕い物をすることにした。買って頂いた、反物の残りがある。その切れ端を使ってある物を作っていた。


 そうこうしていると、童子に呼ばれ、蝶子は席を立った。


「蝶子、雪から食材が届いたよ」


 風呂敷から送られてきた物が、神棚から飛び出して、床にふわりと着地した。


(このようにして、送られて来るのですね)

「見て、前掛けに、たすき掛け、割烹着まであるよ。あっ。蝶子専用の包丁もある」

「そんな」


 蝶子は驚いた。まさか、料理をするのに、新しい物を買って頂くことになるとは、考えもしなかった。


「気にしないで、雪が好きこのんでやってるんだから」

「それより、おやつに水羊羹もあるよ。雪が帰って来たら食べようね」


 童子たちは、水羊羹を見て涎を垂らしている。昼を食べる習慣がないので、少し小腹が空いているのだろう。おやつに蝶子も含まれていることが、嬉しかった。


 しばらくして、氷雪が帰って来ると、皆で、水羊羹を食べた。


「美味いか」

「はい」

「お前は、もっと太れ。少し細すぎる」


 氷雪に言われ、蝶子はどう対応していいか困った。話題を変える。


「氷雪様。調理用具を揃えていただいて、あり」

「礼はいい。遠慮は無用。お前は、俺の嫁だろう」


 蝶子は小さく、はにかみながら「はい」と答えた。


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