表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
18/35

第十八話 不穏の音3

 氷雪は腰差しから刀を取り出す。

 その間に、毛むくじゃらの太く尖った針のような土蜘蛛の足が、頭上から、振り降ろされた。


 氷雪は、鞘からすらりと刀を引き抜き、振り落ちた土蜘蛛の足を、刀で、下から受け止めた。


 どん。

 と、その衝撃波で、火花が散り、眩しく光る。突風が巻き起こる。水場がちゃぷちゃぷと揺れた。


 凄い力だ。

 ぐぐっと押され。刀と土蜘蛛の足が交差して、圧し合う。


(なるほど、あちらさんも、なりふり構ってられないってところか)


 氷雪は払いのけ、水池のなかを走った。

 波紋がいくつか残る。土蜘蛛は氷雪の後を追い、三、四、と前足をあげ、攻撃をした。受け、払う。土蜘蛛よりも前に出る。


 銀の髪を靡かせて、立ち止まると。氷雪は、水を蹴り、跳躍する。土蜘蛛よりも頭上高く飛ぶ。体が銀色に煌めく。皮膚が鱗に変化し、大きく膨れ上がる。土蜘蛛よりも大きく。高く渦を巻く大蛇。尾を地面に叩き付ければ、その衝撃で、地面の水が飛び跳ね、ゴゴゴと震動した。


邪骨刀(じゃこつとう)を使うほどでもない」


 瞳孔を開き、舌をチロリと出し大蛇は言う。

 邪骨刀は、神剣。己の骨で創った刀だ。


 土蜘蛛は、すっかり小さく見える。その体に大蛇は巻き付いた。ぎゅうぎゅうと、奇妙な軋む音を立てながら、締め付けられ、土蜘蛛の体が、歪んでいく。


『蝶子……ちょう』


土蜘蛛から響く、か細い声が途切れる。と、ぶちゃ。土蜘蛛は潰れ、黒い霞へと変わり、水池に散乱した。


 ぱしゃり、ぱしゃりっと池から、仙魚が跳ね出して、霞を吸い込み、むしゃぶり食い尽くす。


 氷雪の体が再び、銀に光り、人間の姿に変わる。童子たちは鬼門を塞ぐために、手のひらを鬼門に向けていた。


 銀色の雲が蛇状になり、鬼門をぐるりと渦を巻いて包む。そこから、浄化の雨が降る。はらはらと降る雨に鬼門は、徐々に薄れ、すっと消えて、閉じた。

 氷雪は、がくりと膝をついた。


「雪」


 氷雪の様子に、童子たちは顔色を無くし、駆け寄った。


「大丈夫だ」

「でも、このところ、邪物に触れすぎだよ」


 童子たちは訴えた。

 神様とて、邪に触れれば、ただでは済まない。最悪、死に至ることもある。


「大したことはない」

「雪。腕が」


 童子たちは、ぎょっとする。氷雪の右手が、どす黒くなっていた。氷雪は硬い笑顔を童子に見せる。童子たちは傷ついたような表情を浮かべた。これは、なぜ土蜘蛛を刀で倒さなかったのか、悟られてしまったようだ。


「はは。しくじった。土蜘蛛の毒足が、掠めてな」


 毒の回った右腕では刀は使えない。痺れ、力が入らない。そのうえ、大蛇になって、土蜘蛛に巻き付いたことで、全身に土蜘蛛の剛毛が刺さり、そこから毒が回っている。言えないが。


 格好つけて、平気なふりをしているが、痛みが全身に駆け巡っていた。

 この失態は己の過信からだ。


 こんなに手こずるはずではなかったのだが。

 こんなところを蝶子に見られたくは無い。それに蛇の姿も二度と見せたくない。


 あの怯えきった顔を見ると、こんな化け物の姿を醜く思える。

 童子たちは目にいっぱい、涙を溜めて氷雪を囲った。安心させてやりたいけれど、余裕がなく、氷雪は背を丸めた。


「くっ」


 力が、ますます入らなくなってきた。だから、邪物は厄介なのだ。


「雪。揺り篭に行こう」


 揺り篭に入れば明日には、黒くなった腕や体は綺麗に元通りになっているだろう。


「あそこは、寒い。寒くて、朝が辛いんだが……」


 体が冷えて、動くのがままならない。あまり入りたい所ではない。

 童子たちは、小さな手を伸ばして、氷雪の服を、ぎゅっと掴んだ。


「蝶子に、言っちゃうよ」


 脅しのような叱咤に、氷雪は「わかった。蝶子には言うな」と釘を刺した。

 水辺は静まり返る。氷雪は溜め息を吐いた。


 のろのろと重い足を引きずって、東の門の鳥居を潜り、屋敷のなかに入って行く。


 童子たちに促されて、屋敷の奥にある、奥の間の、揺り篭へと向かった。

 氷雪は皮肉めいた笑みを零す。


 また、明日は日向ぼっこをしないと、まともに動けないな。氷雪は、ぼそりと呟いた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ