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第八話 ボスの行方:中編

〈ノイド視点〉

カインを背負って歩くのは、今回が初めてではない。


俺は、彼が組織に入る前から知っている。

一体、何を背負ってきたのか。何を、見てきたか。


あれはたしか七,八年前の八月……「アトラス」が観測された日。

雨音のうるさい夜だった。



-----



創暦六ニ三九年 八月三十日



その日のアトラスは、観測史上もっとも大きな被害を振り撒いた。

死者数は過去最高にも及び、大陸一つが消えたところもあった。


レイバー大陸の組織側は、戦闘や業務、被害者の保護など、次々と出てくる課題に追われている。

だというのにルゴン族は、こちらの都合とお構いなしについと大量に湧いてくるものときた。理不尽なものである。


戦闘に人員を割かなければ先にこちらが終わると、ボスはそう言った。

そして俺を 第八戦闘部隊 の隊長に任命した。




──創暦六ニ三九年 九月三日 レイバー山脈のふもと(聖域近くの茂み)



「何気に、レイバー聖域に来たのは初めてかもな」



明紀のその言葉に、俺は首を傾げた。

自分の記憶が正しければ、こいつは……



「彼女さんとのデート、ここに行ったんじゃなかったのか?」



「ああ。残念なことに、あのクソどものせいで仕事が増えてな」



その問いかけに、明紀は笑って返した。

目からは殺意が感じたが。


「すまん」と咄嗟に謝ってしまった。彼は「なんでお前が謝るんだよ」と、ゲラゲラ笑い出した。

その顔に、少しの羨ましさと苛立ちを覚えた。



「……そろそろ、か?」



そんな感情を抑えるように、そう発言してみる。


ボスによると、ここには王獣級のルゴン族が四体ほど潜んでいるらしい。

並大抵のやつでは敵わないから、俺たちに託したと。

……正直、そんな数を相手にしたことがないから不安だ。



「あと少ししたら、奴らもこっちに気づくだろ。気配を消してないわけだからな」



彼はこんな状況でも、少しニヤけたような顔は崩さなかった。

いや、これが彼にとっての真顔なのかもしれない。

どちらにせよ、そこには何かしらの“余裕”を感じた。



「……?」



何かの気配を感じ取った俺は、一つの建物…瓦礫だらけで荒れ果てた場所に目を向ける。

どうやらそこは、時計台の役割をしている教会のようだった。


その教会の大扉に、小さな影が佇んでいる。

姿形はよく見えない。だが、すぐに“ルゴン族”だと断定できた。

気配が人間ではないからだ。


人型のルゴン族は見たことがない。本にも載っていないのではなかろうか。

…まあ、なんでもいいか。

どちらにしろ殺すだけだ。


一瞬で判断した俺は、ゆっくりと剣を抜いた。それと同時に右足を前方に出し、左足に力を入れる。

やつを一撃で葬るため、剣に魔力を込める。心臓が大きく脈打ち、身体をわずかに揺らした。


組織員として幼少だったときは、たしかにその感覚には戸惑った…が、もう慣れてしまった。

それはつまり、俺が“不意打ちに慣れたこと”を意味している。

……少しは師匠に近づけた、と。そう捉えることにしよう。



「……警戒が消えた。狙うなら今だ。どうする?」



明紀がニヤニヤしながら俺の意見を伺う。



「いつものでいい」



俺は大げさに“余裕”を出しながら答えた。

それに呼応するかのような、彼の「そうか」という返事を合図に、魔力は解き放たれる。



“バチン”



魔力の電気が、うねるように周囲を駆け回る。

剣に能力の塊が宿るのを感じた。

そして。心臓の鼓動に合わせて、地を蹴った。



「疾雷(しつらい)・一閃」



刹那、俺は。空を切り裂く雷電のように、目の前の影へ突撃する。

世界から音が消え、まばゆい光に包まれ……

ふと気づけば、既にその剣は奴の首へ振り下ろされていた。



“ジャキン!”



という音が響き…奴の首は、氷の上を滑るように落ちていった。

そして光の粒子になって消えていった。



「お?割とすんなり倒せるんだな」



トドメを刺すはずだった明紀が、背後からやってくる。

彼の言う通り、王獣級にしてはあっさりと倒せた。


今まで戦ってきたやつよりも弱かったのか?

いや、こいつが王獣級じゃない可能性もあるのか。


実際、アトラス環境下でルゴン族の行動を予測することは不可能だと言われてる。大陸最高の技術を持っていたとしても。

……とりあえず、王獣級を探すか。



「明紀、他のルゴン族を──」

「空斬!」



……敵襲だろうか?

目を凝らしてみる……が、何も見えない。

あるのは、うねる風と剣を構え続ける明紀の姿だけだ。



「おい、いったいなにが──」

「来い!」



その直後、背後から猛烈な殺意を感じた。

背筋に氷柱を当てられたような感覚が広がる。



「雷雲海(らいうんかい)!」



すぐに後ろを向き、剣を真横へ振り抜く。

斬撃が雷のような光を出して、空気を横断する。

大気の揺れを合図に、再び剣に魔力を込めた。


王獣級なら、この攻撃は避けられるかもしれない。

だったら、他の技のためにも、ここであまり魔力を使うべきではない。


……そう、考えたが。



“ジャキン”



そんな音を残して。

背後にいたはずの影は、一瞬にして光の粒子となって消えた。

……姿を視認する暇すらも無く。



「どういうことなんだ」



俺は、剣と手、交互に視線を向ける。


……手応えが、ない。

いや、確かに斬った。

ただ……軽かった。

ガラスコップを剣で叩き割ったような感触に近い。



「ノイド」



明紀がこちらへ歩いてくる。なぜか表情は読み取れなかった。

俺の目の前を通り過ぎ、やがて背後に、俺と背を向けた状態で足を止めた。



「多分、相当めんどうだ」



──さっきの影の気配…魔力が濃くなった。

何体も来ている…?

いや、これは一体の力か?



“ ア'' ア'' ァァァ ”



低い、人間の唸り声のような音がした──と同時に。


足元の土が抉れ、ひび割れた。そこから空気…風のようなものが滲み出ている。

わずかに魔力を帯びていた。それも、人間に近い……

「これは……」と、思わず声を溢す。



「魔術……か!?」



明紀は大きく右へ避けた。

そして、土の抉れた場所から、空気の塊が四散した。

その衝撃波が、こちらにも飛んでくる。


それを見て、思わず苦笑してしまう。



「数か質……どちらか一方だと思っていたが」



目の前に、子供のような、人型のルゴン族が七体ほど現れた。



「“両方” だったとはな」



それぞれが黒いコートに身を包んでおり、顔は判別できない。

銀色に輝く斧を手にしており、全てが同じ構えをとっている。

まるで分身のようだ。



「三と三でわけるぞ。残りは流れに任せる」



明紀が剣を構える。

そして、奴らが斧を振るよりも前に、彼は斬撃を繰り出した。



「巨斬旋風」



巨大な斬撃の風が、黒コートを四体ほど押し流していく。

明紀はすかさず、さらにそこへ追撃をする。


俺の目の前には、三体。

こちらに斧を振ろうとしない。


……だったら、こちらから行くしかないだろう。



「右手に掲げし断罪の刃、左手に宿りし電雷の使徒」



さっきの量とは比にならないほどの魔力を放つ。

例えるならば、ひよことカラスほど違う。


魔力の重圧が、重くのしかかる。

奴らは、自らの足が動かせないことに動揺している。



「この身と記憶を贄とし、汝をこの世の導子となさん」



一瞬にして空気が一変し、空では紫色の雷電が姿を見せる。



「我が身を灼く雷火となりて、この地に降りたて!」



炎が舞い散り、影を照らす。

黒いコートは紅く染まった。

──そして、剣を一振り。



「黒魔術・双剣雷群(そうけんらいぐん)」



その瞬間、俺の右手に赤い大剣、左手に蒼い短剣が顕現した。

紅の雷電を我が身に宿し、

蒼の雷電が奴らの肉体を裂いた。


俺は狂ったように敵を斬る。時折、聞き慣れない咆哮が辺りに轟いた。

音という感覚が消え、ただひたすら、目に見えない速度で相手を斬り続けた。


やがて奴らは死んだように地面に倒れた。

……そして、あることに気がつく。



「こいつだけ、傷が浅い……か?」



この黒魔術は、自分の何か、今回であれば記憶を代償に、莫大な魔力を消費して敵を攻撃する技。俺はそれを剣に応用させた。

黒魔術の特性上、敵が複数いれば全て平等に攻撃をするはずなんだが…

なぜか、三体のうち右にいる奴だけ傷が浅い。

他の二体は光の粒子となって消えたのに。



「実力は少し偏りがあるみたいだな」



とどめを刺そうと、再び剣を向ける。



「疾雷・一閃」



……?


魔力が、消えた?



「っっ!?」



急に、魔力が流れ込んできた。

この肉体では抑えられないほどの……



「疾雷・一閃!」



何発も技を発動し、魔力を放出する。

威力が全く出ないことから、俺の魔力ではないことが分かった。


……あいつの?


しかし、そうなるとかなり不気味だ。

だって、それができるのはーー



“ゴン”



背中に強い衝撃が走る。

空中で魔力を切れさせたようだ。

技が発動できない。



「それが、できるのは……水神しか──」



目の前を、蒼い魔力の弾が横切った。

魔力を振り絞り、それこそ死ぬ気で後退する。

こいつに殺されるくらいなら、自分で死んだ方がマシだ。



「本当に、面倒だ」



左右に避けながら、考えた。

奴の正体がなんであれ、とりあえず分かったことはある。


多分こいつは、能力を複数持っている。

分身、魔力操作系……

そして、出会い頭でやってきた、衝撃波系のやつだ。



「こっちの弱点も把握されたか……?」



奴は、遠距離から斬撃を放ってきている。

身体能力もあるので、避けるのは容易だ。だが、近づけない。


もし水神と同じ能力なら。近づくと、奴の魔力操作が行われるはずだ。

厄介極まりない。俺が遠距離から攻撃できれば……


突如、空気が濁る…いや、眩しい。

何かに吸い込まれるような感覚に襲われる。風の流れが乱れたのか?


ふと気がつくと、目の前を蒼い光が覆っていた。

避けているうちに、いつのまにか追い詰められたらしい。


吸い取った魔力の塊を、そのまま投げるつもりだ。

魔力に形を帯びさせず具現化させる……

本当に水神みたいだ。


あそこに他の魔力を作用させれば、あの塊を切断できる。

だが、それができるほどの魔力は、“俺には”残っていない。


──本当に、情けないな。



「そう思うだろ?明紀」



“カン”という、甲高い音と共に、光が避けた。

吹き上げる風とともに出てきたのは、剣を構えた明紀だった。



「ノイド。多分だが、王獣級はあの面倒なの一体だけだ」



明紀の顔は、笑っていない。真剣だった。


俺の手の中に、魔力が流れ込んでくる。

これは俺の魔力……。

なるほど、かなり確信に至ったかもしれない。



「あいつが、水神……か?」



「詳しいことはわからん。だが、邪魔をするなら殺すまでだ」



彼は、黒コートの血に濡れた手を見ながら言った。

そしてその直後、猛烈な北風が吹いた。

目の前に空気の集合体が発生した。


遠距離から撃ってくる斬撃を避けながら、建物の間をくぐり抜ける。

それに呼応するように、俺も魔力を放つ。

頭から手の指先にまで至る感覚の全てが、叩き起こされた。


二つの魔力はある一点に収まっていく。互いに混じり合い、圧倒的な打倒の塊となる。

蒼と紅の雷電が、灰の風に纏わりつく。そして、対立しながらも中和をする。


やがて力は満ち、出力は最大値になった。

辺りの建物が軋みはじめる。


明紀と目を合わせ、合図をとった。

二人でその単語を発する。



『空雷』



その直後、一発の弾丸が放たれた。

荒廃した建物を貫通し、瓦礫を押し退けて、最短距離で奴に向かった。



“ズドン”



と、一発。

落雷が落ち、その後に竜巻ができた。

地面は抉れ、大きなクレーターができている。

危うく俺自身も、放たれた技に引き込まれそうになる。


黒コートは竜巻の中心で回転しながら、落雷を受けていた。

俺もああはなりたくない。


少し離れた塔を見つけ、そこの根本へ向かう。

明紀もそこに合流した。



「基礎技も、極めればなんだってできるな」



彼が呟く。

本当に、練度は重要だ。

悔しいが、明紀はまさにそれを体現したような男だと評価している。



「……ところで」



俺は、明紀に聞いた。

彼はこちらを向く。



「ここから、どう動く?」



一瞬、彼は困惑した表情を浮かべた。

が、意味が分かったのか「なるほど」とだけ言った。そしてこう続けた。



「生存者の確認がまだだ」



「それに加え、あいつが何なのかも分かってない。人型のルゴン族で、能力を複数持っている。しかも、うちの一つは水神と似ている。すぐに研究所行きにした方がいい」



「つまり、殺さずに捕えろってことか?」



「できればな」



途端に明紀は不満そうな顔をした。

正直、この瞬間だけの思いつきだ。

ただ、こいつを捕らえられれば何か研究が進むかもしれない。

そう考えると、気分が高揚した。


重低音が、地面に響く。

あいつの鳴き声だ。


“バキ” という音がした。

目の前に小さなクレーターができた……と同時に、黒い影が目の前に現れる。


黒いコートは着ていなかった。中から影に纏われた黒い塊が出てくる。

黒魔術に加え、さっきの技もまともに受けたからだろう。


そして俺は、あることに気がついた。



「魔力が、減っている?」



奴の魔力が非常に少ない。

能力の制御はあのコートでやっていたのか?



「捕らえやすくなっただけだ。考える必要はない」



そんなことはないだろ、と思いつつ、俺は剣を横に構えた。

彼は縦に構える。


やるなら、足。全身を麻痺させるのがいい。

そうして、魔力をわずかに巡らせ、技を放つ。



「空斬」

「紫電不全」



物理攻撃は無い、斧の防御もなし……魔力操作もなしか?

剣は、二撃とも命中した。



「……あ?」



明紀が呟く。

剣が命中した瞬間、奴は光の粒子になって消えた。



「分身か?」



そう考えた。そうしたほうが、魔力操作を行わなかった理由がつく。

分身は、能力を使えないのか?


なんなんだ、と言いかけて、やめた。こいつの狙いと性質が、何となく分かったからだ。

服を見ると、わずかに奴の魔力が流れている。極僅かに。

これも水神の戦い方だ。

彼女も、魔力を付着させて遠隔から相手を粉砕することに長けている。



「警戒を解くな──」



脇腹に、激痛が走った。赤い液体が飛び散る……

回避行動を取ったつもりだが、間に合わなかったらしい。

見ると斧が刺さっている。



「八烈!」



明紀の攻撃は防がれた。

そして隙を狙われ、彼は衝撃波に飛ばされた。

建物の瓦礫に挟まれたようだ。



「ふんぬぁっ!!」



俺は気合いで身体を回し、斧を振り抜いた。

身を翻し、奴と相対する。


分身魔術を使ったのか、そいつは三体に分かれていた。

しかも、さっきとは違う。魔力が全員同じだ。



「実質……三対一か?」



呟いた直後。

全員が斧を振って攻撃してくる。


──粉砕・地抉り。


この技が来ると、悟った。確信した。

そして、直後。



“ガン”



地面が抉れ、鋭利な土がこちらへ襲ってきた。

それらを弾き、こちらも剣に魔力を込める。



「千雷(ミレニング)」



剣を使わず、純粋な魔術を放ってみた。

やったことはない。

だが、そちらの方がいいと判断できた。


こいつらが使ってきたのは、かつて師匠から受けた技だ。

おそらく、同じ能力の使い手。


だったら、得意な近接戦よりも初めて使う遠距離魔術の方が良い。

まあもちろん、剣の方が威力は高いが。


何本もの稲妻が奴らを襲った。

そして、右側二体は光の粒子となって消失した。

分身はあまり頑丈では無い。


そして、その雷を目眩しに。

俺は背後に回り込む。



「雷雲海!」



一本の稲妻が、奴の身体に直撃した。

そしてそのまま“ ア'' ア''ァ ァ ”と声を上げ、吹っ飛んだ。

時計台のような塔にぶつかり、瓦礫の下敷きとなった。



「明紀!」



別の瓦礫から、衝撃波が飛び出す。

その “身体” は傷だらけだ。



「魔力を封じとくべきだったな!」

「八烈!」



“ ア'' ァ ァ ァ ァ !”



その一撃で時計台は倒れ、黒い影はそのまま下敷きとなり、姿が見えなくなった。

あとはただ、静けさだけが続いた。



-----



「生存者の確認が、今回の任務内容だったんだな」



明紀が、傷だらけの手で瓦礫を退かしながら言う。



「そうなのか?ルゴン族を殺すことではなく?」



彼は「あぁ」とだけ答えた。

つまり、俺たちは順序を少し間違えたのか。



「本当に、慢心は人を狂わすな。勝てる勝負も勝てなくなる」



俺はそう呟いた。

彼はまた「あぁ」とだけ答えた。


瓦礫を退かし終わり、ルゴン族の安否を確認する。

ある石を持ち上げたとき、光の粒子が大量に空へ溶け込んでいった。



「……いやぁ、本当に面倒だった。捕えられてねえしよ」



彼がくたびれたような声で言う。

本当にその通りだ。


いつもならここで、「飲みに行こうか」とか誘ってるところだが、今はそうも行かない。

俺たちは任務内容を履き違えたのだから。



「……まあ、とりあえず。ここをまわっていこう」



そうしてようやく、本番にありつけた。



-----



「中々、ひどいな」



明紀が歩きながら呟く。

本当にその通りだ。


だって、死体と血と内臓しかないのだから。



「処理班が大変だな」



心の底からそう思った。

死体はすでに見慣れているが、ここまで酷いのは久しぶりだ。

“アトラス”の異常さがすぐにわかる。



「こんなん、生存者なんて居ないだろ」



明紀が肩を伸ばしながら言う。

不謹慎ではあるが。正直なところ、さっきの戦闘も踏まえると、本当にそうなんじゃないかと思えてくる。

人の気配なんて、ない。生活感すら消え去っていた。



「まあ、それはそうかもしれんが。見てみないと分からないものだって──」

「おい、あの子供」



明紀が言葉を遮ってきた。

彼の視線を辿る。


見ると、ごく普通の住居の前で、血まみれの子供が立ち尽くしている。

年齢は、十歳くらいか?

目の前には光の粒子……



「何だ、あの子。ルゴン族を殺したのか?」



思わず彼に問いかける。



「多分あの感じ、怪我してるだろ。行くぞ」



俺らはすぐに、彼らに駆け寄った。



-----



着いてみると、かなり予想外のことがわかってきた。

いや、予想はできたかもしれんが。



「おぃーっと、そうか。あー、まず怪我の手当てからするか?」



明紀が「おい」と声をかけようとして、やめた。

それはなぜか。


その子供の目の前ーー視線の先には、死体があった。

剣を握った、男の死体。


子供の手には、小さい刃物。光の粒子が付着している。


すぐに状況を察した俺らは、とりあえず任務のためにも名前を聞いておく。



「俺はノイド・コーリーってやつだ。そっちの名前を聞いても良いか?」



子供は振り返った。

彼の目は、光も無く冷え切っていた。

そして、その質問に即答した。



「カイン。那谷(なだに)、華音」



痛みを感じているのか、不思議に思った。

彼の身体は傷だらけだというのに、何の迷いもなく答えた。


この子供がこれから背負うものを考えると、心が抉れた。



「そうか、その、その方は。親か?」



明紀は、息絶えた勇者を指差す。

子供は答える。



「ああ、そう。そうです。父で──」



子供は倒れ込んだ。

そしてそのまま動かなくなった。



「一旦運んで、治療班まで行くぞ!」



俺は彼を担いで、走った。

彼は軽かった……が、なぜか。

背中が異常に重く感じた。



---------------

〈カイン視点〉

創暦 六二四六年 七月 二七日



「……あ?」



目が覚めたら、見覚えのない場所だった。


瓦礫が宙を舞い、視界は全て夜空のような暗い場所で埋め尽くされ。

なんというか、世界の外側に出たらこんな感じなんだろうなと、そう感じた。



「よう。はじめましてか?カイン。」



聞き覚えのない声だ。

ただ、なぜか。恐怖を感じた。


視線を動かそうとする……が、できない。

身体を動かすことも、まばたきも……。

ただ、見ることしかできない。



「お前は、誰だ?ここはどこだ?」



声は出せた。

俺は、当然の疑問を口にする。



「典型的だな。お前は。」



典型的…?何を言っているんだろう。



「まあ、いいか。」



声の主は、そう続けた。



「これから言うことをやってくれたら、質問に答えてやらんでもない。」



「何を、すれば良い」



「ほう。お前は “何でお前の言うことに従わなくちゃいけないんだ” とかは言わないんだな。」



「……さっさと、言ってくれよ」



面倒臭い奴だな、と言うのが第一印象だ。



「簡単な話だよ。」



彼は、そう続けて。



「ある人物を探して、俺に“情報”を与えて欲しいだけだ。」



「情報…?」



「ああ。お前は確か、転生者だったか。」



「転生者…?」



「なんでもいいだろ。」……彼はそう言って。



「とりあえず、そうだな。緑代都市フレイダーに着いたら、ボスの行動を俺に教えてくれ。」



「……は?ボスの、行動を?なぜ?」



「それも、お前がしっかりとやってくれたら、答えてやろう。」



「は、はぁ」



「……じゃあ、頼んだぞ。“衛兵ネルスフ”。」



っ!?


その名前に、聞き覚えがあった。

何だ、思い出せ。思い出せ。大切な何かを、忘れている気がする。

思い出せ──


だが、それが叶う前に。

気がつけば俺は暗闇に堕ちていき、その名前についての記憶は、遥か彼方に消えていった。

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