↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
6/13

第六話 レイバー大森林の魔物

〈けあ視点〉



---------------

創暦 6246年 5月11日



日数の経過の確認のため、今日から日記をつけようとおもう。


予定だと、2ヶ月後には緑代都市フレイダーに着いている計算だ。

ここからの景色だとまだ王都レイバーは見えないので、先がかなり思いやられた。


今はみんなでテントを張っている。


エミは手こずってたな。なぜかボスも。

俺もうまくはできなかった。


逆に上手くいっていたのは、ソウマとノイドさん(本名ノイド・コーリー)だ。

ノイドさんはこの十二人のうち(ボスを除く)いちばん年寄りに見える。

といっても40歳くらいだが。

本人曰く、若い頃は旅ばっかりをしていたらしい。

すごいな。


ノイドさんの助けを借りながらも、なんとか全員テントを張り終えたら、次は焚き火を囲んで魚を焼いた。


見たことがない黄色の魚だったが、食べてみたら普通の魚となんら変わりなかった。

しかし、これを書いている途中にカインさん(本名 那谷(なた) 華音)が腹痛を訴えてどこかへ消えていったので、不安だ。


あと驚いたのは、ボスが常に仮面をつけていることだ。

具体的に言うと、寝てるときも仮面をつけている。

素顔が見られてはいけない理由でもあるのかと思い、仮面を引っ張ってみた。

だが、手が届く前に「バカなマネはよせ」と言われてしまった。

さすがにだめか。


あと、今知ったが、ここの大陸の名前はレイバー大陸というらしい。

初耳だな。


とりあえず1日目はこんな感じだ。

これからもできる限り毎日書いていこうと思う。



---------------



---------------

創暦 6246年 5月12日



王都レイバーが前方に見えた。かなりはやいペースだと思う。


今日はあのメモをボスに見せた。

推薦状の文字も見せて、「これはなんなのか」と聞いた。


ボス曰く、推薦状の文字については「まだいえない」らしい。

とてつもなく気になる。


そしてメモ。

見せたところ、小さくうなずいて「なるほど」「これは俺も知らん」らしい。

ボスは「きっと似たようなものを誰かが持っていたんだろう」「それをお前も拾ったんだ」と。


これに反応したのはキミカで、「けあさんにわざと見つけてもらえるようにした可能性もありますね」とじょうだんっぽく言った。


じょうだんっぽくはあったけど、あり得そうだった。

だから「天才ですか?」と言ってみた。

そしたらキミカは「やっぱり私は意外と頭がさえるんですよ」と、得意げに言った。

予想通りだった。

ボスは少し動揺していた、気がする。

何を隠しているんだろう?


ソウマは最近、一人称に「ぼく」を取り入れるようになってきた。

そっちのほうが落ち着くのか?

そして、最近は能力の研究もしてるっぽい。

曰く、「いつか能力を最大で出力できるようにしたい」らしい。

俺はまだ能力を扱えないからわからないけど、いつかそんな話も出来るようになるのかな。


エミの能力は無条件で発動するらしい。

少し落ち込んでたので、「いつか制御できるようになるよ」となぐさめの言葉をかけたら、カールさん(本名カール・エズトリア)は、「多分、エミちゃんの能力は制御とかじゃなくて、常に発動するようになるんじゃないかな」「私もそうだったし」と。


カールさんの能力は「周囲の人の傷を少しずつ癒す」らしい。

一見地味だけど、魔力を駆使して一点集中させることで傷の応急処置も可能だとか。


昔見た本だと、常に発動する系の能力を持つ確率は0.1%くらいらしい。

能力自体の規模は生涯変わらないけど、魔力を込める練習をすることで、それを一点に集中できるらしい。

全体的に散らばった紙の束を1つの場所に束ねる、みたいなね。


たった今、ボスが「寝れるうちに寝ておけ」と声かけしていたので、今日はやめる。



---------------



---------------

創暦 6246年 5月26日



昨日の日記で書いたボスの言葉「明日から本番だ」と言っていた理由が分かった。


まず、王都レイバーが右側に見えるくらい移動した日から、旅の進みが圧倒的に遅い。


なぜなら、ルゴン族がわんさか出てくるからだ。

そのせいで夜も大して眠れないため、疲労が取れない。

今日もまた、昨日と同じように、交代で見張りをしないといけない。


そして最近になって、カインさんとエンデイさんの強さが分かってきた。


カインさんとエンデイさんはずっと見張りをしている。交代制とは言ったが、外にいるのはいつも「カインとエンデイ、そしてその他」て感じだ。


カールさんはいつも、カインさんに「寝なくて平気なの?」と聞いてたけど、それの返答はいつも決まって「俺は寝なくても生きれる生態なんだよ」と、ニヤリと笑って言うだけだった。


エンデイさんはというと、能力が未来予知だから、寝ながらでも見張りはできるらしい。

俺は「その能力でルゴン族がいつ来るかを調べればいいのではないか」と聞いたが、

「不可能ではないが、俺はそんなことができるほど魔力は多くない、だから見えても数秒先までだ」とのこと。

まあ、どんな能力にも弱点はあるか。


能力で思い出したが、最近になって俺の能力にも変化が見られるようになった。


まず、腕に力を加えてその力のみに意識を集中させると、衝撃波が出るようになった。

魔力を込めるとは、このことだろうか?

これのせいで焚き火の火を消してしまい、少し怒られはしたが。


まあとりあえず、これで俺も戦う術を得たって感じだ。

ようやくな。


ルゴン族が来たようなので終わる。


---------------



---------------

創暦 6246年 6月11日



日記を書き始めて1ヶ月が経った。

今、俺たちはようやくレイバー大森林に辿り着けたところだ。


明日から森に突入するわけだが、ボス曰くここからが長くなるらしい。

地図を見たところ、俺たちはまだ半分かそれ以下だ。


ソウマの見解だと、フレイダーに着くのはあと2ヶ月後くらいかも、とのことらしい。

ルゴン族もいるから、まあそれくらいかかるだろうな。

前に起きたルゴン族の大量発生が関係しているのか?


最近、エミの能力に変化が見られた。

カールと一緒に魔力を込める練習をしているらしい。

その甲斐あってたか、エミの魔力を帯びた石を投げたとき、望み通りの挙動をするようになった。

なぜ俺がそれを知っているのかと言うと、石を投げられた対象が俺だったからだ。

恨みでもあるのか?


しかし、もちろん、能力の修行をしているのはエミだけではない。

そう、俺だって成長している。


あの衝撃波を分析した結果、興味深いことがわかった。

なんと、あの衝撃波は魔力も吹き飛ばすことができるのだ。

つまり、あんなことやこんなことも……

想像が膨らむ。


一方、ソウマに関しては能力よりも座学に力を入れているらしい。

机に向かって、能力についての何かを学んでいるらしい。

ノートを見せてもらったが、なぜか懐かしい気持ちになった。


そんなソウマに対して、ナクラはかなり食いついている。

最近知ったことだが、ナクラはかつてラナー学園の教授をやっていたそうだ。

彼は能力の研究者だし、だからこそ、その血が騒いだのだろう。


なんでも、彼は能力関連のことだと急に馬鹿になるらしく、「うひょーー!」と叫んでルゴン族に突進しては治癒魔法の世話になる、というのを繰り返しているらしい。


キミカ情報だ。


きっと、森に入ってからは日記を書く余裕もなくなると思う。

今日はこれで終わるが、明日以降はどうなっているのかはわからない。

まあ、無事であることを祈るとしよう。



---------------



---------------

創暦 6246年 6月14日



案の定、この森はルゴン族の巣だ。

小型ルゴン族がうじゃうじゃと生息している。

そしてその度に襲撃に遭っている。


俺もなんとか生き延びてはいるが、衝撃波だけで戦いは厳しい。

魔力の込め方もよくわからないため、どうしても防戦になってしまう。


探知系の能力を持ったナクラさんがいなければ、すぐに不意を突かれて終わりだっただろう。


道中、鳥獣級に囲われたときは死ぬかと思った。

全員がバラバラの方向に逃げ、各々で撃破したため、被害は最小限に抑えられた。

俺は多分、アカガネさんがいなかったら終わっていたかもしれない。


しかし、ナンタルとハーレンは王獣級2体と遭遇したらしく、それで怪我を負ってしまったようだ。

正直なところ、王獣級2体を相手するのはかなり無茶だ。

怪我に関しては、足のすり傷だ。

この程度で済んだことだけマシだろう。

ノイドさんとエンデイさんが途中で助けに来なければ、もっとひどい怪我を負わされていた。


ハーレンは「この程度の怪我、なんてことないわ」だとか言って拒否していたが、カールさんは無理やり治癒をかけた。

カールさんが二人の傷を一瞬で治していたのを見ると、やっぱり回復担当はすごいんだと思う。


そういえば、ボスは戦っていなかったな。

今までボスが能力を使っているところを見ただろうか?


しかし、指示出しにおいては本当に優秀で、作戦なども全てボスが考えてくれていた。

すでに強敵が出たときの連携方法も知らされており、そのための練習も怠っていない。

この森においては、今を生きることが大切なのだ。


最近は、よくカインさんと話している。

何繋がりかと言うと、父である明紀についてだ。

彼は何度も明紀に助けられてるらしいから、礼がしたいらしい。

それで、何かいい案がないかを考えているとのこと。

カインは案外いいやつなのかもしれない。


まあ、とりあえず今日は寝ることにする。

ボス曰く、ここら辺には神獣の目撃情報もあるらしいからな。

全く、なんでこんな道を選んだのか。



---------------



──創暦 六ニ四六 年 七月 二十七 日。



「あと三日もすれば、森は抜けられそうだな」



アカガネが無理やり明るい声で言った。

しかし、そのアカガネの後ろで今にも死にそうな顔をしていたのは、ガキ三人だった。


俺ら三人組、通称 “ガキグループ” はすでに音を上げていた。

これ、一応初任務のはずでは……


他の人も、たとえばナクラやカールもキツそうだった。

研究職とヒーラー的な立ち位置の人だし、そりゃ長旅なんて向いてないよな。


逆に元気そうだったのは、カイン、エンデイ、ノイドあたりだろうか。

ちなみに、“元気そう” の基準は、出発前と比べて、という意味だ。


彼らは出発前よりも “生き生きと” していた。

……バケモノか?


キミカは、ガキグループとカールに向かって「そんな調子じゃ神獣級に食べられちゃいますよ〜?」的な冗談を飛ばしてくる。

ソウマは「神獣級なんてめったに遭遇しない」と言い、エミは不安そうな顔になった。


そしてそれに突っ込むのがカイン。

「子供を脅してやるなよ」と呆れながら言った。

それに彼女も答える。



「脅しじゃなくてガチな話ですよ。カインさんもこの前食べられてたじゃないですか」



どうやらガチだったらしい。わかりにくいな。

ところで、ルゴン族に食べられて生きているカインは何者なんだろう。



「何年前の話かは知らないが、この前食われたことが、今に直結するとは限らないだろ」



彼の声色は落ち着いていたが、ほんの少しの苛立ちが見えた。




そうして雑談を交えながらも、歩くこと数十分。



「警戒しろ」



そんな、ボスの言葉が響いた。


そして、その直後。



『ピーーーー』



という、電子音のようなものが響いた。

その場の全員が戦闘体制に入る。



……そして、目の前に現れたのは。



黒いコウモリのような翼に、ハエトリソウのような口、そして牛のような角を持つ、手足が数何倍にまで伸び、毛がエメラルドの如く輝いた、イノシシに似たバケモノだった。

体長は……六メートルは越しているだろう。



それが姿を見せた瞬間、全員が技の準備に入った。



カイン、エンディ、ノイドは剣を、

キミカは弓を、

アカガネは斧を、

ナンタルは銃を、

ハーレンは槍を、

ナクラは毒の塊を、

カールは後方から回復の準備を、


エミは魔力を全体へ漂わせ、味方の運気を上げる。

ソウマは鎖を足下に、

俺は衝撃波を周囲に張り、相手を拘束する。



そして、数秒も経たぬうちに、そいつの体に全ての技が打ち込まれる……


その場の全員が、能力を全て発動し、一気に結をつけようと地面を踏み込んだ。


それら全てが超速で放たれ、視界を光で埋め尽くす。


空気が破裂するようにねじれ、

あたりの木々は踊るように宙を舞い、やがて地面をえぐりながら深々と刺さった。

絶え間ない斬撃と魔力の渦の中、攻撃が混ざり合う音だけが、広大な大地に雄叫びをあげるように響く。




そして。

十秒も経たぬうちに、何かが倒れた音が響き渡った。

奴の羽毛が落ちている。


……よし。



「ないす連携です!」



仲間に労いの言葉をかけた。

そして、土埃をかき分けながら、一応仲間の怪我の状態を確認しておこう……と思ったそのとき



「……静励(せいれい)の雨!」



そんな、声が響く。

カールの全体治癒魔法だった。


誰かが怪我をしているのかと思ったが、すぐにそうではないと悟った。

治癒魔法にも、距離減衰が存在するからだ。


要するに、この距離で治癒魔法を、しかも全体技を放つ必要性は、ほとんど無いのだ。


となると、これが意味するものとはつまり……



「おい!よけろ!!」



エンデイさんが叫んだ。


ほぼ、反射だった。



『うわっ!』



俺は、反射的に衝撃波を繰り出し、エミやソウマにカール共々、右側へ攻撃圏外になるまで吹き飛ばした。


威力を間違えたのか、地面とスレスレの地を彷徨ったあと、着地には失敗し、そこら中に擦り傷ができる。

それをカールが回復した。



「なん、なんだ」



今まで俺たちがいたところを見ると、無数の触手が地面から生えていた。


そして、やつは、他のみんなは………



「……あ」



何人かは、その鋭い触手に絡まれ、血でまみれながら抵抗していた。

他の人間も触手に拘束されている。

だが、奴の身体が鋭く、動くたびに血が噴き出る。

それを雨が治癒し、なんとか失血を防いでいるような状況。

生きているのは、少なからずエミの能力が働いていたのも理由だろう。

ほぼ、ゾンビのようなものだ。



「どう、しよう……」



カールがつぶやく。

エミもソウマも、言葉さえ出ないような状況だ。


……どうする。

俺だけ無駄に助かってどうするんだ。

ここから逆転なんてできるはずがない。


それに、あいつの触手の挙動は奇妙だった。

まるで他の何かに操られているかのような、そんな気配がした。



そうだ、ボスは!

ボスはどこだ、ボスは、ボスは……



ボスは、いない。消えていた。どこかへ吹き飛ばされた──?

いつも肝心なときにいない……。


──だったら、ここの三人だけでなんとかするしかない。


しかし、やつの間合いに入った瞬間に切り刻まれるのは目に見えている。


ソウマなら能力を封印できるだろうが、それを完璧に発動するには近づいて触れる必要がある。

エミの運やカールの治癒も、この距離だと、状況を変えられるような技は放てないだろう。



「クソっ……」



判断ミスだ。


あのような相手に、近接戦を持ち込むことは愚策だった。


……俺の能力でどうにかするしかない、か?


でも何を?


なにが、できるんだ。

俺にしかできないことは。


……。


……。


……魔力。


──魔力。



そうだ。


魔力を、飛ばすのはどうだろう。


いけるだろうか?


いや、やるしかない。


そしたら……



「エミ、ソウマ、カールさん」



『は、はい』



三人同時に返事をした。

明らかに動揺している。



「俺は今から、ここにいる三人の魔力を集結させ、衝撃波で飛ばします。今から技を放つので、合図で一気に撃ってください」



「そんなこと……けあくんの魔力は持つの?」



「………」



カールさんが言った。

その通りだ。

魔力はおそらく、膨大な量を使うだろう。


だが



「……迷ってられません。できることをやりましょう。時間はない」



耐えられてあと三十秒。

吹き飛ばしてから今まで大体二十秒ほど。


……大丈夫、いける。


三人は、さっきの言葉を聞いて頷いた。



「よし、いきますよ」



「……」



「……はい、今!」



封魔鎖(まぐさり)、葉光(ようこう)の芽吹き、百中祈願……


各々が作り出した魔力が、放たれる。


そして、俺が作り出した衝撃波の塊の中に、三つの魔力の球が収束する。



足りない。



──まだ、魔力が足りない。



全てを両手に集中させる。



イメージだ。イメージしろ。



狙った場所に全て当てられるような、豪運を。

どんな怪我も無に帰す雨を。

やつの身体を貫く鎖を。

これら全てを光速で放つ魔力を。


指先に、振動が伝わる。

空気が揺れ、木々の葉を揺らす。

これまでとは比にならないほど大量の魔力が全身を巡る。


このとき、何かが脳内に入り込んできた。

何かの単語だ。


そして、それに対してどこか懐かしい気配を覚えた。


咄嗟に前世の記憶だと悟った俺は、それに全てを預け、迷うことなく、魔力を放つ。



「──反発(はんぱつ)」



そう口にした瞬間、

放たれた魔力は空気を切り裂き、音速を超えた。

それと同時に、足元が抉れた。



光の球となった魔力は、生きているかのように他の魔力を誘導し、

碧の球となった魔力は九つに別れ、それぞれが負った怪我を消し、

黒の鎖となった魔力は、化け物の全身に絡みついて触手、能力を消し、

無の球となり魔力を使い切った衝撃波は、最後の叫びかの如く、化け物の急所へ吸い付くように打撃し、吹き飛ばした。


そして何度が地面を跳ねたあと、木や土で埋もれた。


気づけば、化け物がいた場所は、土が抉れて小さなクレーターができていた。


そして、全員、無傷ではないが、目立つような傷は無くなっていた。



……よかった。



安堵に馳せていたが、ソウマの「油断するな」という発言で現実に引き戻された。


すぐにクレーターへ駆け寄り、もう一度、全員の安否を確認する。



「流れ弾とかは──」



言いかけて、気づいた。

全員の視線が一点に集中している。


その視線の先を追うと、さきほど化け物を吹き飛ばした先で、モゾモゾと何かが動いている。



「油断するな」



ソウマと同じセリフを、カインも言う。


まじか。

あれだけやっても、この早さで回復するか。



“ガコン”



と、そんな音が響く。


そして。


立ち上がったと同時に、

化け物は、一直線にこっちへ突進してくる……!



「アカガネさん!」



カールが言った。

その言葉を聞いて、アカガネが前に出る。

そしてその直後、目の前で鉄の塊が形成された。



「鉄山(かなだめ)!」



だが、ただの鉄壁ではない。

魔力が練り込まれており、能力を相殺する仕組みだ。


だからある程度は耐えられるはずだが……


“ガチン!” という重い打撃音と共に、物体同士が削り合うような音が響く。


鉄の壁は、火花を飛び散らせながら、みるみるうちに削れていく。


考える暇は流石にないだろう。


やがて、“ピキ”という不穏な音を鳴らし、壁に亀裂が入った。



「物量で押し切る気か!」



ナクラが興奮気味に言う。


そして次の瞬間、



“バリン!”



質量の塊が、ガラスの砕けるような音を出して破れた。


アカガネは、破れた鉄に挟まって身動きが取れない状態になった。


そんなチャンスを化け物は見逃すはずもなく、

刃物のように尖った触手で、串刺しにしようとしていた。



「っクソ、もう……!」



「アカガネ!」



エンデイが叫ぶ。


俺はまた、反射的に、あの技を使う。



「反発!」



鉄は吹き飛び、触手も少し退けることができた。

だが、威力は明らかに落ちている。


そしてすぐに、エンディとカインが斬りかかる。

キミカは地面から生えてくる触手を瞬時に断つ。

背後からノイドが不意打ち。

ハーレンは味方に向かってくる触手を受け流す。

その後ろから、ナンタルのスナイパーによる後方射撃。


アカガネは擦り傷を負っていたが、すぐにカールが治した。

そして二人は、斧を握りしめ、再び戦闘に復帰した。


俺は自分の手を見る。

少し痙攣している気が…



「魔力切れ?」



声をかけてきたのは、ナクラさんだ。



「待ってろ、魔力をわけるから」



そう言って、俺の手を握る。

その瞬間、痙攣が止まった。


すごいな、そんなことができるのか。


ナクラに礼を言い、戦闘に加わろうとした。

視線を巡らせ、“戦場”を探す。


やがて視界はそれを捉え、反発で一気に近づき、近距離で衝撃波を叩き込もうとした…が。


化け物を見て、驚いた。


戦闘を見ている限りでは、たしかに攻撃を与えていたはずだ。


……だが、その化け物の体には傷一つついていなかった。



「どういう、仕組みで……」



ナクラが呟く。


てっきり俺は、ルゴン族特有の再生能力で回復しているのだと思った。

だが実際には、攻撃を全く受けていなかったのだ。


もちろん、そうなると話が変わってくる。

今のままどれだけ攻撃しても無駄なら、倒す方法が無い。

何か弱点を探さなければならないわけだ。


何か、手掛かりになりそうなものを探す。


……外側の毛。


あれか?

あれが衝撃を魔力ごと分散してるのか?

だったら…



「ナクラさん!」



「おお、なんだ」



「やつの何かを調べられますか!」



「何か?」



「あの、性質的な!」



「ああ、確かに、触れられれば何かわかるかもしれんが……」



「……よし」



“触れられれば”。 いける。


“ビジョン”が思い浮かんだ。

まずは、二人の協力が必要だ。



「ソウマ、エミ!」



エミのほうは、まさか声をかけられるとは思っていなかったのか、「ひゃい!」と、驚いたような声で言う。

一方ソウマは、期待に満ちた顔で次の言葉を待っていた。



「もう一度あれをやる。さっきみたく、魔力を放ってくれ」



そう言うと、二人はすんなりと受け入れてくれた。


俺は衝撃波を作り出す。

手の指先に、さっきと同じ鼓動が伝わる。


中には黒い鎖と、光の球が形成された。

……そして、味の決め手は。



「お、おい!なにをするか…」



俺はナクラに魔力を帯びさせる。

衝撃波が放たれれば、ナクラも吹っ飛ぶようになっている。


準備はできた。


「ナクラさん」



一拍をおいて、できるだけ落ち着いた声色で告げる。



「お願いします」



「おねがいって。あ、もしかして──」



──反発。


魔力もろともナクラが発射された。


そして、剣と剣が交差する戦場へ突入していく。


光の球がナクラを包み、

黒の鎖がそれにまとわりつく。

そして、それぞれが、ナクラに向かってくる触手を受け流していく。


やがてナクラは化け物と接触した。


彼は化け物にしがみついた。抱きつくような構図だ。



「……お?これは──」



そんな言葉をこぼした瞬間、



「ナクラ、離れて!」



ハーレンの声が響く。



「うぉ!?」



ナクラの足元から鋭い触手が生えてきた。


彼はなんとか躱したが。

その直後、上空から鞭のように波打つ触手が襲った。


不意の一撃を防ぎきれず、そのまま吹っ飛ばされてしまう。

やがて木に激突し、砂埃が彼の姿を隠した。



「花滴(かろう)の蜜!」



倒木にもたれて座っているナクラにカールが駆け寄り、即座にナクラを回復させる。


俺も彼に向かって走る。



「どうでしょう……?」



そう聞いたとき、ナクラは急に立ち上がった。

そして俺の手を取り、目をがん開きにして言った。



「面白いことがわかったんだ!」



「面白いこと?」



「そうだ。やつの内側だよ!」



内側、とはどういうことだろう。

毛について分かれば十分かと思っていたが……



「内側、というのは?」



「あいつを外側から倒すのは、あの毛がある限り、不可能に近いんだ。だが……」



一拍おいて、告げる。



「内側……つまり内臓のほうは防御が薄かったんだ」



「つまり、なんとかして内側を破壊しろ……と」



「ああ、そうさ。それに何より、あの毛。あれを採取できれば……」



そして、不気味な笑みを浮かべた。

それについては触れないでおいた。


ナクラは、ソウマに「君も調べてみないか、あいつの毛を」とか誘っている。

六歳相手に変な思想を植え付けないでほしい。


……とりあえず、伝えないとな。


そうして俺は戦闘へ参戦した。



「こいつの弱点がわかりました!」



できるだけ声を張り上げる。


その場にいる十人に、情報を的確に伝える必要がある。

だから簡潔に言おう。



「こいつは内側が弱いです!外側は攻撃しても意味がない!」



全員は触手を捌いているため、こちらを見れない。

だが、聞く耳は立てている。


全員が本体への攻撃をやめたことから、それが分かった。



「内側って、どうやって攻撃するんだよ!」



そう、それが問題だ。

どうやって内臓を攻撃するのかの目星を付けられていない。



「とりあえず、打撃系の攻撃を当てて、内出血を狙いましょう!」



そう言うと、彼らは打撃系の攻撃に切り替えた。



ノイド、カイン、エンデンは轟衝(ごうしょう)を、

ハーレンは三槍刺突(さんそうしとつ)を、

キミカは燦光(プラズマ)を、

アカガネは迎撃鉄塊(カノンスチール)を、


ナンタルは触手の撃破に集中し、

カールは静励の雨でアシストする。

エミは百中祈願で、その雨粒を傷口へ誘導する。



「アシストします!」



俺は衝撃派を用いて、近接組を化け物へ吹き飛ばし、威力を上げる。



“ギャキン!”



という、打撃音とは思えない甲高い音が、連続で響く。


さあ、どうだろうか。


斬撃による猛攻ではなく、打撃による重撃。

内部へのダメージは多少与えられてるとは思うんだが……



「けあ!避けろ!」



「っ! 反発……!」


 

なんとか触手を受け流す。

俺はエンデイさんがいなければ何回死んでいることか…


と、いうより。 

失敗か?



「うーん、内臓に打撃が届いているようには見えないね」



ナンタルが銃を撃ちながら言う。



「やっぱり中から攻撃しないと……」



駆け寄ってきたナクラが言った。


中から攻撃、か。


内臓と繋がっているのは……

ハエトリソウのようにでかい口。


あそこに攻撃を打ち込んでみるか…?

だが、あいつが口を開く気配はない。


無理やり、こじ開ける。やってみよう。



「やつの口をこじ開けることは可能ですか?」



聞いてみる。さあ、どうだ。



「やつが口を開いた隙に、鉄をねじ込んで破裂させることはできるぞ」



アカガネが答えた。

口内を攻撃することは可能か。



「じゃあそれで、やつの口の中に技を叩き込む…この作戦で!」



十一人全員が頷いた。


そうして、各々がバラバラに動き出す。


固まると、相手の警戒を誘うからだ。



「っ!」



俺の足元から触手が出てくる。



「はんぱ──うぉ!」



上からも触手が襲ってきた。


そしてそのまま絡められ、やつの口へ運ばれる。


だが、これはチャンスだと捉えた。



「アカガネさん!」



「ああ、分かってる!」



そして、わずかに開いた口の中に、鉄の塊が押し込まれた。

それは次第に膨張していく。


やがて、鉄の塊は破裂し、やつの口が大きく開いた状態で麻痺した。



「打ち込め!」



ノイドの声が響く。



そして。



カイン、エンディ、ノイドの剣が突き刺さり、

キミカの弓が口内へ、

ハーレンの槍が投げ込まれ、

ナンタルの銃が牙を貫き、

ナクラの手榴弾が爆破し、


俺は衝撃波を打ち込む。



森が揺れ、大地がうねりをあげた。

化け物は電子音のような鳴き声を響かせたあと、転倒した。



そのまま起き上がれずに、やがて動きを止めた。

その化け物から光の粒子のようなものが出ている。


周囲から「やった」という声が響く。



いや、まだだ。



直感で、そう感じた。

あれがルゴン族特有の死ぬ時に出る粒子だとは、思えない。

なぜかは分からないが。



「死んだふりです!まだ生きている可能性が──」



と、言いかけたとき、そいつは再び動いた。


口には大きな穴があり、戦える状態には見えない。

だが……



「っ!?」



触手が襲ってきた。

しかし、ただの触手ではない。 


ノイドが触手を斬ったとき、剣も粉々に砕け散った。



「毛と同じ成分か…!復活も時間の問題だぞ」



ナクラが言った。


どうする。

おそらく、もう一度内部から破壊すればいける。


内部から、急所、心臓を穿たなければ。


だが……そうだ。


“あれ”だ。



---------------


「脅しじゃなくてガチな話ですよ。カインさんもこの前食べられてたじゃないですか」


どうやらガチだったらしい。わかりにくいな。

ところで、ルゴン族に食べられて生きているカインは何者なんだろう。


---------------



カインは、食べられても生きている。


今回も、期待していいのではないか。


だったら。



「ソウマ!やつの口に鎖を!」



背後にいるソウマに声をかける。


口の欠損が大きいぶん、しなやかな鎖の方が有利だ。



「わ、わかった」



そう言い、黒い鎖を繋ぐ。


俺はそれを衝撃波でサポートする。


鎖は木と口を繋ぎ、触手を一時的に封じた。


……だが、破られるのも時間の問題だな。


鎖はミシミシと音が鳴っている。


そして。



「カインさん!」



「どうした、また何か思いついたのか?」



「ええ、カインさんには化け物に食われてもらいます」



「……は?」



「それしかないです。恐らく、今の状態で内部の心臓を穿てるのはあなたしかいない」



「どうしてそう思うんだ」



「あなたは一度、食われても生きていたと……」



「ほう」



「そして、この場にいる人間の中では、もっとも範囲攻撃に優れた剣使いだと」



「……なるほど、まあ」



そうして、ひきつった笑顔を浮かべながら。



「だったら、やってみるか」



「死んだらあとは頼むぞ」と言いながら、カインは直進した。



「アシストします!」



衝撃波を準備し、いつでも押せるようにしておく。

魔力的にも、恐らくこれが最後だ。



「エミ!能力を!」



「あ、うん!」



そしてエミは、加護祈願を使い、カインを護る。



「鉄山(かなだめ)!」



アカガネは、喉に鉄の盾を押し込んで瞬時に破裂させることで、無理やり通り道を作った。


カインは飛び上がる、だが触手が……



「燦光(プラズマ)」

「疾雷・一閃(しつらい・いっせん)」

「刺突急下(しとつきゅうか)」

「双銃(ツインブラスター)」



キミカ、ノイド、ハーレン、ナンタルが触手を切断する。

 


「飛べ、カイン!」



エンデイが叫ぶ。

未来視を使ったのか、目が僅かに青く輝いている。


カインは言葉の通りに飛んだ。


地面から無数の触手が生えてきた。

そして、その全てがカインを追っている…だが、カインの方が速い。


やがて、カインは口の中へ入っていく。



「反発!」



今だ、と思った俺は、カインを衝撃波で無理やり押し込んだ。


そして。



「八烈(やえれつ)!」



その言葉が聞こえた瞬間、化け物の口から、大量の血と共にカインが出てきた。


化け物の毛は全て抜け落ち、サイコロのようにバラバラになった。


そして、光の粒子となって消えていった。

登場人物


男

けあ(白夜 恵亜)

ソウマ(東雲 創真)

カイン(那谷 華音)

エンデイ(エンデイ・ランレイン)

ノイド(ノイド・コーリー)

ナクラ(奈倉 千都世)

アカガネ(赤銅 哲也)


女

エミ(月乃 笑咲)

キミカ(久那虹 輝美香)

カール(カール・エズトリア)

ナンタル(ナンタル・ローロイン)

ハーレン(ハーレン・メズロー) 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。