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4-1. 兵庫県洲本市

 様々なお好み焼き屋を比較検討した結果、福山駅の駅ビルにある店舗に入ることにした。流石に昼時で生まれた待ち時間に、メッセージアプリを確認すると、復調した千拓からぬい撮り画像催促のスタンプが大量に届いていた。少し怖い。

 まずは母に、福山訪問が終わりこれから淡路島に向かう旨を連絡した。

 千拓には前回送信分以降のぬい撮りから画像を厳選して送る。この旅の始まりでは撮ったら撮っただけ送れば良いと考えていたが、気づけば画像フォルダはぬい撮りで溢れている。犬や猫の飼い主達が「カメラロールがうちの子だらけになる」と言っていたのを初めて体感している。恐らく赤ちゃんの親御さんも同じだろう。

 道承は芳一と実篤をかなり気に入ってしまっていた。実際今もお好み焼きと芳一ぬいを撮っている。


「いただきます。」

『食べんさい。』


 広島のお好み焼きは生地は薄いが焼きそばが豪勢でソース大好きタンパク質大好き二十代男性として大満足の結果だった。あらかた食べ終わり、最後の目的地淡路島までの経路を地図アプリで検索する。

 今まで気にした事もなかったが訪問に際し淡路島について調べると、瀬戸内海最大の島で、北から淡路市、洲本市、南あわじ市の三つの市があると言う。これだけで島の規模感が思っていたより遥かに大きい事に気付かされた。

三つの市のうち、曾祖父の弟 藤井篤四が住んでいるのは島中部の洲本市だ。


 淡路島には本州や四国と繋がる鉄道が通っていない。メイン交通手段はバスだと言う。母からも次に伺う藤井家の最寄りバス停は洲本バスセンターだと情報が届いた。本州からだと高速バスが使いやすいらしい。乗ったことがないわけでは無いが、慣れていない道承はソワソワしながらチケットを抑えた。今は何でもスマホで出来る。インターネット万歳。

 乗車時間までにバス乗り場がある新神戸に行かなければならない。山陽新幹線さくらに乗るべくバックパックを肩に絡げて立ち上がった。勿論芳一ぬいを忘れずに。


『のう、道。』

(何?すごい神妙じゃん)


 新幹線の座席で体力温存のため目を閉じて座っていると実篤に話しかけられた。声には出せないので目も閉じたままで応じる。


『淡路島の用が済んだら、鳴門海峡に行かんかのう。』

(行かないけど???)

『鳴門海峡に行きたいんじゃ。連れて行っちゃくれ。』

(最初からそう言ってくれ。)


 車両の電源コンセントで充電中のスマホを持ち上げ鳴門海峡について検索をする。

 大鳴門橋を歩いて渡る、渦の道という遊歩道があるらしい。ただし徳島県鳴門市にある為、淡路島から更に移動する必要あり。鉄道はないので勿論バスで。

 対して淡路島からも渦の近くまで船で近づくクルーズがある。これは南あわじ市の福良港という港から出ている。

洲本市から福良港も勿論アクセスはバスである。

 なおクルーズ自体はは鳴門市側にもある為、遊歩道に行きたいか、という観点からの判断になる。


『遊歩道はのうてもええ。船で近うまで行きたいんじゃ。』

(了解。藤井さんちの訪問がどうなるかによるから、ちょい待って。行ける方向では検討する。俺も気になる。)

『ほうか、わかった。』


 よねの言葉が、脳裏をよぎる。

 彼女の代わりというのも烏滸がましいが、鳴門の渦潮を見てみたい。


 今から洲本市に着くのは四時前、そこから藤井家で挨拶だけなら一時間程度だろう。時間的に晩飯をご相伴に与る可能性も無くはないが、その場合は宿泊ルートになりそうだ。その場合は翌日行動になるだろうから泊まりが決まってから考えるとして、挨拶だけで解放された場合、五時からどう動くか。簡単に検索しただけで淡路島のホテルは高い。なら鳴門市のホテルか。高い。鳴門市から離れる?快適CLUBがある。行けなくはない。ルートは、舞子乗り換え?一端本州に戻っている。ならば本州で一泊もありか。舞子……隣の垂水にホステルがある。一人なら何とかなるか?しかし快適CLUBが安牌な気もする。選択肢は多い方が良い、両方検討しておこう。予約方法は?期限は……




『道承!』

「うぉっ」


 大声で呼ばれて顔を上げる。左右振り返るが知り合いは当然いない。隣席のお姉さんには怪訝な顔をされた。大変申し訳無い。


『道、もうぼちぼち新神戸に着くぞ。』

(うーわ、マジだわありがとう曾祖父ちゃん。)


 旅程検索に没入しすぎて乗り過ごす所だった危ない。

 スマホを充電器ごとボディバッグにしまい、芳一ぬいが居ることも確認。バックパックを荷棚から下ろした辺りで車両はホームに滑り込んだ。

 新神戸に初めて降りたち、駅名掲示と芳一を撮って早々にバス停に向かって駆け出した。乗り換え所要時間は五分だが出発予定が十分後。事前に調べては居るが初めての駅、初めてのバス停。間に合え!


 結論から言えば奇跡が重なって余裕で間に合った。トイレに寄ったので時間ギリギリにはなったが間に合った。熱いぜ。

 舞子までは本州の市街地を通り、明石海峡大橋で左右に広がる海の広大さと、その向こうに見える陸地の安心感にこれから淡路島に入るのだという感動も束の間。バスは島中のルートを選択したため両側民家や木、木、木。寝過ごさないように実篤に目覚ましを依頼して、また寝ることにした。

 バスは二時間弱で洲本バスセンターに到着した。そこからは少しだけ、でも確かに海が見えていた。ぬい撮りをした。


 バス停まで迎えに来てくれるので到着したら連絡をするようにと言われていたのを思い出し、訪問先の祖母の従兄宅へ電話をかける。スマホの受信メールから淡路島の住所に併記されている固定電話の番号をタップで発信。

 コール。

 コール。

 コール。

 なかなか電話に出ない。これが携帯番号ならともかく、これから訪問する先の固定電話なので誰も出ないと言うことは家に誰も居ない、または出られる状況にないと言うこと。到着予定時刻は祖母経由で先方に連絡が行っているはず。

 今度は長めにコールをすると、途中でコール音が変わった。どこかに転送がかかっている。そこからは三コールでつながった。


「お忙しい所恐れ入ります、こちら藤井様のお電話番号でお間違いないでしょうか。」

『そうそうそう。もう着くさかい、もうちょっと待っとって!』


 待たせている事は認識しているが過剰に気にする事のないカラリとしたおばちゃんの声だった。

 これから訪ねるのは曾祖父の末の弟藤井篤四とその息子だ。実篤曰く、女性でこの元気な声となると恐らく息子の妻、ゆりねだろうとの事。


(篤四さんの奥さんは?)

『入院しちょったんか、何かじゃった気がするがのう。』


 服装も共有したので大人しくバス停で待っていると、目の前に白いバンが停まった。助手席の窓が開き六十代くらいの女性が顔を出した。


「髙﨑道承くん?」


 電話と同じ声、ゆりねだ。


「はい!埼玉出身です、今日は福山から来ました!」


 自分の親族周りを知っている相手であれば、これで本人確認が取れるだろう情報を申告する。実際それで確信してくれたのだろう。立てた親指で後部座席を指し「乗りな!」と良い笑顔を向けてくれた。映画で言う主人公のピンチに駆けつけてくれるロートルと思われてたおばちゃん仕草だ。そんな胸熱展開の類似環境に自分がなるとは思っていなかった。ちょっとワクワクする。


「失礼します!」


 声をかけて後部ドアを開ける。運転席にはゆりねの旦那さん、恐らく藤井篤盛と思しき男性が座っていた。

 後部座席は道承一人座れるスペースの他には黒いビニールシートや苗を育てるプラカップやらが床にもシートにも所狭しと置いてある。玉ねぎ農家と聞いているので納得の様相だった。市街地から離れるのも農地の都合だろう。


「おう、よう来たな。家まで十五分くらいやさかい。乗れ乗れ。」

「宜しくお願いします。」


 淡路島の藤井家に着くまでの間、道承のこれまでの旅の経路や、実篤絡み以外の旅先での出来事を話した。夫婦はとても良い聞き手だった。


「隕石に遭うたって、めっちゃすごない?」

「あそこの神社にな、また新しい社殿でも出来とったりしてな!」

『御神体ぁ、あの隕石を飾っちょったりしてのう!』


「虹ヶ浜、今そんなことになっとるんか?浮かれすぎちゃうんか、それ?」

「すごいやん、やることハワイみたいやな!」

『そうじゃろう、知らんかったら驚くじゃろ!?』


「由美子さんも大変そうやなぁ……。」

「親の終活、自分でやるんほんましんどいわ〜!」

「うちの父ちゃんはまぁ、当分くたばらんやろな。」

「何がいつあるか分からんけどな。準備はしとかなあかんわ。」

『そうじゃのう、人ぁいつか死ぬもんじゃけえのう。』


 夫婦には聞こえないはずだが三人と一体で楽しく話しているとバンはある戸建ての車庫に停まった。藤井家到着である。藤井夫婦と一緒に家に入る。


「父ちゃん、ただいまー!」

「ただいま帰ったで。」

「お邪魔します。」

『お邪魔します。』


 三者三様に声をかけて家に上がる。昭和建築だろう年季の入った木造で、通された居間は畳敷き、欄間には松に猛禽類が彫り込まれ、やや黄変した襖には何やら壮大な水墨画の山岳図が描かれていた。

バックパックからTOKIOばな奈と、下関で買っていたフグヒレを渡した。仏壇に供えてくれている間にロウソクに火を灯し線香をお供えしてから合掌としばしの瞑目。それらしく時間をあけてから一礼した。


 通常であれば、それではお茶でもどうですかとお茶菓子を摘みながら話すところだが、大抵の話題はバス停からの移動時間で語り尽くしている。ではどうしようか今すぐとんぼ返りもなぁという状況。道承は早速懸念ある、今自分の中で一番熱い話題をふった。


「折角ここまで来たので、鳴門海峡を見てみたいんです。やっぱりバスになるんですかね?」

「そうやなぁ。鳴門までバス出とるさかい簡単やで。鳴門からは有名な観光地やから行き方も分かりやすいし。それか福良からもクルーズ船出とるんよ。道の駅もあるし、福良のほうがええかも分からんな。」

「ふくら……ちょっと調べて良いですか?携帯失礼します。あ、淡路島なんですね福良。良いですね、ここにしようかな。バス……も出てるんですね。福良から本州のバスもあるしアクセス良さそうですね。」

『福良港か。ええのう、そこから行こうや、道。』

「そうなん?うちらもう全部車で動いてまうさかい、あんまりバス使わんのよ。」

「今携帯で調べたの?凄いね。」


 遠くから足音が近づいてくる。かなりの強さと大きさであっという間に居間の前に辿り着くやいなや、驚きの勢いでドアが開けられた。


 八十代男性、おそらく彼が藤井篤四だろう。彼は室内の三人を認めると大声で怒鳴った。


「働かん者ぁ食うたらいけん!手伝えぇ!」


 恐らく藤井夫婦に言っているのだろうが、彼らが畑にいなかったのは道承の迎えによるものだ。道承への対応もある。そこに日暮れの時間を考えると、サボりなどではなく今日は早めに仕事を上がっただけだろう。二人で迎えに来たのも、ゆりねが携帯電話を持って、道承からの着信があった時に対応できるようにするためだと思われる。怠ける気持ちが全く無かったかは解らないが、背景を踏まえると篤四の高圧的な言い分はやや理不尽に見えた。

 いつもの事なのだろう、篤盛の目が死んでいる。ゆりねは虫を見る目をしていた。

 ここは自分が出た方が丸いと判断した道承はすっと立ち上がると篤四と同じテンションの体育会系ノリで返す。


「はい!頑張ります!」

「なんじゃお前さんは!」

「藤井実篤の曾孫の髙﨑道承と申します!埼玉から新盆供養と親族の挨拶回りに来ました!自分すみませんが農業詳しくなくて!玉ねぎがいつ頃何するかも全然解らないんです!やる事教えて下さい!」

「おう!そうか!今ぁ種まき前の土づくりよ!石灰やら肥料やら混ぜ込んで耕すんじゃ!いっちばん大事なとこなんよ!」


 本当に教えてくれた。


『篤四!その場の勢いだけで言うたらいけんちゅうて、何べん言うた!? 今から農作業なんぞ始められるか! そもそも道承は客分じゃろうが! ええ加減にせえや!』


 実篤が叱り飛ばしているのを聞くに、単に気が利かなくて圧が強いだけなのかも知れない。そう思いかけた時、篤盛が声を上げた。


「父ちゃん、ちょっと待て。道くん、パソコン詳しいんか?」

「パソコンの自作やコンピューター言語となるとお手上げですが、表計算とか文書作成とか調べ物程度なら出来ます。」


 体育会系部活動からバイト面接のテンションに切り替えて回答をすると、続いてゆりねが紙束をたくさん挟んだ年季の入った大学ノートを持ってきた。


「実はな、昔のデータ、天気とか作付面積とか書き出しとるんやけど、手書きのメモでバラバラなんよ。これデータにしてグラフとかにできんやろか。」

「まず入力して、そこから見たい情報を表にしたりとか出来ますよ」


 中を道承に見せながら問う間に、篤盛がノートPCを開いて表計算ソフトを立ち上げる。いい夫婦だ。

 道承の回答を聞いた藤井夫婦は、互いに顔を見合わせて頷いた。そのまま二人同時に道承の顔を見るので笑いどころではないが笑いかけたのでグッと堪える。

 なお実篤はまだ篤四に説教をしている。曾祖父ちゃん、多分篤四さん聞こえてないよ。


「道くん、畑はええさかいこっち手伝うてくれんか?代わりに今晩泊まっていき。そうしたら明日の朝から鳴門行って、そのまま埼玉帰れるやろ。どうや?畑はわしらで何とかなるんやけど、こっちはさっぱり分からんのや。いつかやろう思うても忙しいし、いざ触ろうとしてもよう分からんし、老眼で画面見とったら頭痛なってきて手に負えんのよ。」

「それは大変ですね……では今夜一晩お世話になります。これは小技なんですけど、この右下、この印を動かすと画面拡大出来ます」

「おおおおおお!」

「反対に動かすと縮小します。」

「へぇええええ!」

「いやぁ、ついていけん新しいもんは若い子に聞くんが一番やわ。」


 表示サイズの変更をしただけでこれである。ちょっと気分がいい。

 大盛り上がりに置いてけぼりを食らった篤四は、なし崩し的に道承の滞在とデータ面でのサポートを了承させられた。意外と実篤の説教が利いていたのかも知れない。


 こうして道承の淡路島一泊が決まった。

登場人物の方言訛り翻訳にChatGPTを利用しています。以下プロンプト。


〇藤井ゆりね

貴方は兵庫県洲本市で生まれ育った50代後半女性です。以下の台詞を洲本市の方言や訛りに翻訳してください。

〇藤井篤盛

貴方は兵庫県洲本市で生まれ育った60代前半男性です。以下の台詞を洲本市の方言や訛りに翻訳してください。

〇藤井篤四

貴方は山口県下松市で生まれ育ち20代で兵庫県洲本市に移住し以降淡路島に住む80代男性です。以下の台詞を当該男性の使う方言や訛りに翻訳してください。

〇藤井篤也

貴方は兵庫県洲本市で生まれ育った30代男性です。20代後半から日本各地を数年毎に点々と移住して過ごしています。以下の台詞を当該男性の使う方言や訛りに翻訳してください。



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