第7話 辺境侯家の朝一番の手紙
北辺での三日目の朝、私の机に一通の封筒が置かれていた。
差出人はレオンハルト・ヴァインベルク。中には短い紙片が一枚だけ。
『昨夜の一覧、見た。十七件では済まない。朝食後、配送庫を開ける』
これが、辺境侯の「長い言葉は後で書く」の実例らしい。
私が朝食室へ行くと、マグダが焼きたての黒パンを切っていた。レオンハルトは既に席についている。
「手紙を使うんですね」
「起こすのに向いている」
「一言だけで?」
「十分伝わっただろう」
確かにその通りで、反論がしづらい。
配送庫では、昨冬に未整理のまま押し込まれた郵袋が見つかった。湿気で重くなった袋の中からは、配達不能扱いの返送封筒が次々出てくる。けれど宛先の多くは今も存在している村や家ばかりだった。
「不能ではなく、面倒だったんでしょうね」
私が宛先一覧を作っていくと、レオンハルトは黙って古い地図を広げた。言葉が少ないぶん、必要なものを出すのが早い。
「北西の谷道は雪で潰れやすい。だが、この時期なら東の林道が使える」
「現場を見ているんですね」
「自分で歩いた」
辺境侯が自ら配達路を確認していたとは思わなかった。王都の貴族なら、机上の報告だけで済ませる。
私が返送封筒へ赤印を押していると、彼がふと言った。
「朝一番の手紙は、嫌いか」
「いえ」
私は少し考えてから答える。
「ちゃんと届くなら、好きです」
その返事に、彼はほんのわずかに口元を和らげた。冷たい人ではない。ただ必要以上に話さないだけだ。
王都では私の手紙は燃やされた。けれど北辺では、朝一番にちゃんと届く。たったそれだけのことで、心のどこかが少しずつまっすぐになる。




