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第6話 消えた軍属年金の受取票

年金申請の束を洗っていくと、今度は「届いたことにされた嘘」が顔を出した。


 王都から北辺へ戻るはずの受給決定通知と受取票の控えが、帳簿上では処理済みになっている。だが実際には、遺族たちの手元へ一枚も届いていない。


 私は支払簿と照合し、違和感のある欄へ赤線を引いた。


「同じ受取印が十七件あります」


 ヨハンが覗き込み、眉をひそめる。


「印影が同じなのか」


「角度も欠けも同じです。しかも受取人の姓が違うのに、押す力まで同じ」


 遺族代表として呼んだ四十一歳の寡婦クララは、控えを見た瞬間に首を振った。


「こんな印、押していません。年金が来るって話も初めて聞きました」


 別の受取票では、去年戦死した兵士の母の名義が使われていた。彼女は既に五年前に亡くなっている。死者へ年金を支払ったことにして、どこかで吸っているのだ。


 私は支払番号の末尾を見て、指先が止まった。王都郵政省内の一部係でしか使わない配達整理記号。ユリウスが好んで使う、斜めの七。


「見覚えがあります」


「誰の」


「元婚約者です」


 室内が静まり返った。けれどもう、目を逸らす気はなかった。


「ユリウスは、配達経路の再振分け権限を持っていました。『届かなかった』と『届いたことにする』の両方を作れる立場です」


 レオンハルトが机へ指を置く。


「証明できるか」


「できます。彼の係の整理記号と、燃やされた確認票の筆跡控えが残っているので」


 私がそう言うと、クララが小さく頭を下げた。


「届かなかったのは、忘れられていたからじゃなかったんですね」


「ええ。誰かが止めていただけです」


 その言葉は遺族たちを慰めるには足りない。だから私は帳簿を閉じ、次の頁を開いた。止めた人間の名まで、必ず辿る。


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