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第5話 届かなかった嘆願書

文書庫で一晩箱を開け続けた結果、私は三十二通の「届かなかったことにされた手紙」を見つけた。


 その半分以上が、北辺市と周辺村からの嘆願書だった。橋桁の亀裂、倉庫番の不正、配給の不足、除雪人員の欠員。どれも冬の間に処理されなければ危険になる内容なのに、王都どころか侯本人にも回されていない。


「この村の橋は、今も使っていますか」


 私が古い図面を示すと、町役場の書記ヒルデが眉を寄せた。三十二歳、眼鏡の似合う実務家だ。


「春先に半分崩れました。急場しのぎで木を打ってあります」


「嘆願書は三ヶ月前。十分、直せた時間ですね」


 次に出てきたのは、兵役遺族からの年金申請だった。必要書類は完備、村印も揃っている。それなのに王都側の受付印だけがない。


「申請したはずなのに返事が来ない、と皆が言っていました」


 ヒルデが悔しそうに唇を噛む。


 私は封筒の裏を見た。配達経路の記号が、通常便ではなく急送便扱いになっている。にもかかわらず到着記録がないのは不自然すぎた。


「誰かが途中で抜いています」


 レオンハルトは私の横で黙って一覧を眺めていたが、やがて口を開いた。


「王都の怠慢だと思っていた」


「怠慢より質が悪いです。選んで止めています」


 特定の村、特定の遺族、特定の配給不足。止められているのは、金の流れに穴を開ける手紙ばかりだった。


「今夜、差出人ごとの再送一覧を作ります」


「送っても、また止まるかもしれない」


「だから、今度は控えを三つ残します」


 私が答えると、レオンハルトの目がわずかに和らぐ。


「いい。全部届けろ」


 それは命令というより許可に近かった。私は頷き、封筒の束を抱え直す。


 誰にも読まれず埃をかぶっていた手紙は、送り主の時間そのものだ。届かなかった三ヶ月を、今度は私が取り戻す。


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